■冬季のウクライナ侵攻危機
ウクライナ危機は放置するならば東欧全体へ緊張が及び第三次世界大戦へも繋がりかねない危機となっています。そこでアメリカ、イギリス、ドイツなどの対応を纏めました。
アメリカはロシアのウクライナ侵攻が実施された場合の最大規模の経済制裁としてSWIFT除名を検討中と伝えられます。これはCNN等で繰り返し報じられる超党派の連邦議会議員らが提唱するアメリカによる経済制裁案で、SWIFT国際銀行間通信協会の送金網からロシアの銀行全てを除名するというもの。軍事力以外の制裁としては最大のものです。
SWIFT国際銀行間通信協会とは、世界数千の銀行間を結ぶ送信網で、1973年に創設され本部をベルギーに置く。1973年以前は国際送金に銀行間のテレックス通信が用いられていたものを転換したもので、仮にロシアが除名された場合は、ドルを介した天然ガス輸出等が不可能となります。一方これはロシアの天然ガス輸出に依存する欧州には難しい課題だ。
ロシアにはSWIFTを仲介しない銀行間送金は通信の安全性を考えれば現実的ではないもので、例えば仮想通貨等を用いる事も不可能ではないものの、ロシアには仮想通貨を大規模に扱う機構などは存在しません。SWIFT除名は現在、イラン経済制裁として採用されており、経済的な打撃を既に実証、問題はアメリカがSWIFT除名を真剣に推進するかです。
イギリス国防省はウクライナ危機を受け欧州地域への兵力移動を強化しました。既に報じられた空母とBBC31日付報道によれば、本土からは東欧地域へ850名規模の部隊の空輸展開を開始するとともに、エストニアへ展開する機械化部隊についても警戒態勢を強化しており、また地中海の戦闘機部隊についても不測の事態に備えた強化を行うとしています。
イギリス国防省によれば、2021年にもウクライナ周辺での警戒監視活動を行ったイギリス海軍艦艇に対し、ロシア軍による妨害行為が行われたとしており、艦隊に加えて周辺地域への展開部隊を増強しているかたちです。一方でイギリス政府は外交による危機回避にも尽力し、ジョンソン首相はロシア側とウクライナ政府との仲介を試みているとのことです。
ドイツはNATO加盟国とウクライナからの再三の防衛装備供与要求にヘルメット5000個供与で応えました。ロシア軍のウクライナ侵攻が迫る懸念の中、NATOは過去最大規模の空母部隊を地中海に展開させ、小国であっても可能な戦力を東欧地域へ展開、こうした中でドイツに対してもウクライナへの防衛装備品提供要求が再三にわたり為されています。
ヘルメット5000個、ドイツのランブレヒト法相はウクライナへ連帯を示す姿勢としてヘルメット5000個を供与するとしています。しかし、ウクライナの首都キエフ市長クリチコ氏は激怒し次は枕でも送るのか、と批判しています。戦車師団だけで4個を展開させるロシア軍に対し、バルト三国などはドイツが保管する東独軍用装備提供を要請し続けています。
ドイツはウクライナ危機に際しロシアからの天然ガス輸入問題に国論が二分しています。ドイツは天然ガスの65%をロシアからの輸入に依存しており、ノルドストリーム2ガスパイプラインなどの巨額投資により国内のエネルギー依存度を高めており、これにより脱原発を実現するとともに、化石燃料以外の持続的エネルギーに天然ガスを含める主張を行う。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻へ制裁を行う場合は、ロシアが天然ガス供給を停止させる可能性、そしてドイツが経済制裁を行う事は自発的にロシアからの天然ガス供給を遮断しなければなりません。代替燃料は中東からの石油輸入やノルウェーからの液化天然ガス輸入が挙げられますが、ロシアへエネルギー依存度を高めた代償を突き付けられています。
チェコ政府はロシアの軍事脅威に曝されるウクライナへ152mm砲弾の緊急供与を決定しました、緊急供与されるのは152mm砲弾4000発で余剰弾薬ではありますが150万ユーロ相当の供与になるとしています。チェコはNATO加盟後、野砲をソ連方式の152mmからNATO基準の155mm砲に切替えていますが、国内にはまだ砲弾が備蓄されています。
ウクライナ軍はD-20牽引式榴弾砲や2A65と2A36に2S3自走榴弾砲などソ連時代の152mm榴弾砲が現役であり、ロシア圧力下の緊迫した状況で、152mm砲弾の供与は干天の慈雨となります。チェコでは国内法により同盟国以外への防衛装備品供与には煩雑な手続きが在りますが、今回は特別措置により緊急供与が実施されたという背景があります。
プラハの春、NATO加盟国によるウクライナ緊急支援は多岐に上りますが、今回のチェコによるウクライナへの供与は、ウクライナが親ロ政権から親欧政権へ民主選挙を通じて政権交代した事を契機にロシア軍事圧力が増大し、1968年に民主主義政権がソ連の軍事介入により崩壊を強いられた“プラハの春”を彷彿させる過去の歴史の再来があるのでしょう。
デンマーク軍はウクライナ危機に際し水上戦闘艦の三分の一と戦闘機の一割以上を派遣する、これはF-16戦闘機4機とフリゲイトペートーヴィルモエスをNATO常設部隊へ派遣するという決定ですが、人口583万人のデンマークにはかなり無理を通した派遣です、デンマーク空軍は戦闘機がF-16戦闘機30機のみ、水上戦闘艦は大型艦が3隻しかない。
ペートーヴィルモエスが派遣するNATO常設艦隊は地中海に展開しており、国土がバルト海と北海大西洋を結ぶスカゲラク海峡に位置するデンマークには海軍を地中海に送る厳しい決断にほかならりません。これは小国であっても、NATO加盟国が今回ウクライナ危機に対して可能な限りの戦力を派遣し開戦を阻止する堅い決意を行っている証左といえます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻は懸念はあるが決定的ではなくパニックを起こさないようにと、国民に冷静を呼びかけています。これはアメリカやイギリスの大使館職員が国外脱出を開始した為、危機感が買いだめ等に発展している為ですが、もう一つ、大量のロシア軍は国境周辺の演習場に集結したまま、という実情もあるようです。
ロシア軍は現在、演習場に集結していますが、これは対空疎開を実施せず兵力が宇宙空間から確認できる地域に展開している事を意味します。もちろん進発命令を受ければ短時間で進行する事は可能でもあるのですが、衛星写真に写る位置を維持する事で侵攻せず、ウクライナNATO加盟拒否など政治妥協を求めて圧力を掛ける証左ともいえるでしょう。
ウクライナ危機は冬季以外は地形制約が大きい、ロシア軍による侵攻の脅威は昨年には一月中旬とされ、また一月末には二月中旬が危険であるとされています。しかしこれは根拠があるもので、今回ロシア軍は戦車師団の大半をウクライナ国境に展開させていますが、この戦車は地表が軟弱地形では行動が難しく、夏季の泥濘は行動を阻害する懸念がある。
ウクライナでは、冬はバケツ一杯の水がスプーン一杯の泥を生み夏はスプーン一杯の水がバケツ一杯の泥を生む、こうした諺があるほどに主要幹線道路以外の交通は21世紀の今日でも路面状況は影響を受けるのです。ウクライナでは日本の北海道の様な猛烈な積雪もありません、夏季侵攻の可能性が皆無という訳ではありませんが一つの指針といえましょう。
北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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ウクライナ危機は放置するならば東欧全体へ緊張が及び第三次世界大戦へも繋がりかねない危機となっています。そこでアメリカ、イギリス、ドイツなどの対応を纏めました。
アメリカはロシアのウクライナ侵攻が実施された場合の最大規模の経済制裁としてSWIFT除名を検討中と伝えられます。これはCNN等で繰り返し報じられる超党派の連邦議会議員らが提唱するアメリカによる経済制裁案で、SWIFT国際銀行間通信協会の送金網からロシアの銀行全てを除名するというもの。軍事力以外の制裁としては最大のものです。
SWIFT国際銀行間通信協会とは、世界数千の銀行間を結ぶ送信網で、1973年に創設され本部をベルギーに置く。1973年以前は国際送金に銀行間のテレックス通信が用いられていたものを転換したもので、仮にロシアが除名された場合は、ドルを介した天然ガス輸出等が不可能となります。一方これはロシアの天然ガス輸出に依存する欧州には難しい課題だ。
ロシアにはSWIFTを仲介しない銀行間送金は通信の安全性を考えれば現実的ではないもので、例えば仮想通貨等を用いる事も不可能ではないものの、ロシアには仮想通貨を大規模に扱う機構などは存在しません。SWIFT除名は現在、イラン経済制裁として採用されており、経済的な打撃を既に実証、問題はアメリカがSWIFT除名を真剣に推進するかです。
イギリス国防省はウクライナ危機を受け欧州地域への兵力移動を強化しました。既に報じられた空母とBBC31日付報道によれば、本土からは東欧地域へ850名規模の部隊の空輸展開を開始するとともに、エストニアへ展開する機械化部隊についても警戒態勢を強化しており、また地中海の戦闘機部隊についても不測の事態に備えた強化を行うとしています。
イギリス国防省によれば、2021年にもウクライナ周辺での警戒監視活動を行ったイギリス海軍艦艇に対し、ロシア軍による妨害行為が行われたとしており、艦隊に加えて周辺地域への展開部隊を増強しているかたちです。一方でイギリス政府は外交による危機回避にも尽力し、ジョンソン首相はロシア側とウクライナ政府との仲介を試みているとのことです。
ドイツはNATO加盟国とウクライナからの再三の防衛装備供与要求にヘルメット5000個供与で応えました。ロシア軍のウクライナ侵攻が迫る懸念の中、NATOは過去最大規模の空母部隊を地中海に展開させ、小国であっても可能な戦力を東欧地域へ展開、こうした中でドイツに対してもウクライナへの防衛装備品提供要求が再三にわたり為されています。
ヘルメット5000個、ドイツのランブレヒト法相はウクライナへ連帯を示す姿勢としてヘルメット5000個を供与するとしています。しかし、ウクライナの首都キエフ市長クリチコ氏は激怒し次は枕でも送るのか、と批判しています。戦車師団だけで4個を展開させるロシア軍に対し、バルト三国などはドイツが保管する東独軍用装備提供を要請し続けています。
ドイツはウクライナ危機に際しロシアからの天然ガス輸入問題に国論が二分しています。ドイツは天然ガスの65%をロシアからの輸入に依存しており、ノルドストリーム2ガスパイプラインなどの巨額投資により国内のエネルギー依存度を高めており、これにより脱原発を実現するとともに、化石燃料以外の持続的エネルギーに天然ガスを含める主張を行う。
ドイツはロシアのウクライナ侵攻へ制裁を行う場合は、ロシアが天然ガス供給を停止させる可能性、そしてドイツが経済制裁を行う事は自発的にロシアからの天然ガス供給を遮断しなければなりません。代替燃料は中東からの石油輸入やノルウェーからの液化天然ガス輸入が挙げられますが、ロシアへエネルギー依存度を高めた代償を突き付けられています。
チェコ政府はロシアの軍事脅威に曝されるウクライナへ152mm砲弾の緊急供与を決定しました、緊急供与されるのは152mm砲弾4000発で余剰弾薬ではありますが150万ユーロ相当の供与になるとしています。チェコはNATO加盟後、野砲をソ連方式の152mmからNATO基準の155mm砲に切替えていますが、国内にはまだ砲弾が備蓄されています。
ウクライナ軍はD-20牽引式榴弾砲や2A65と2A36に2S3自走榴弾砲などソ連時代の152mm榴弾砲が現役であり、ロシア圧力下の緊迫した状況で、152mm砲弾の供与は干天の慈雨となります。チェコでは国内法により同盟国以外への防衛装備品供与には煩雑な手続きが在りますが、今回は特別措置により緊急供与が実施されたという背景があります。
プラハの春、NATO加盟国によるウクライナ緊急支援は多岐に上りますが、今回のチェコによるウクライナへの供与は、ウクライナが親ロ政権から親欧政権へ民主選挙を通じて政権交代した事を契機にロシア軍事圧力が増大し、1968年に民主主義政権がソ連の軍事介入により崩壊を強いられた“プラハの春”を彷彿させる過去の歴史の再来があるのでしょう。
デンマーク軍はウクライナ危機に際し水上戦闘艦の三分の一と戦闘機の一割以上を派遣する、これはF-16戦闘機4機とフリゲイトペートーヴィルモエスをNATO常設部隊へ派遣するという決定ですが、人口583万人のデンマークにはかなり無理を通した派遣です、デンマーク空軍は戦闘機がF-16戦闘機30機のみ、水上戦闘艦は大型艦が3隻しかない。
ペートーヴィルモエスが派遣するNATO常設艦隊は地中海に展開しており、国土がバルト海と北海大西洋を結ぶスカゲラク海峡に位置するデンマークには海軍を地中海に送る厳しい決断にほかならりません。これは小国であっても、NATO加盟国が今回ウクライナ危機に対して可能な限りの戦力を派遣し開戦を阻止する堅い決意を行っている証左といえます。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア侵攻は懸念はあるが決定的ではなくパニックを起こさないようにと、国民に冷静を呼びかけています。これはアメリカやイギリスの大使館職員が国外脱出を開始した為、危機感が買いだめ等に発展している為ですが、もう一つ、大量のロシア軍は国境周辺の演習場に集結したまま、という実情もあるようです。
ロシア軍は現在、演習場に集結していますが、これは対空疎開を実施せず兵力が宇宙空間から確認できる地域に展開している事を意味します。もちろん進発命令を受ければ短時間で進行する事は可能でもあるのですが、衛星写真に写る位置を維持する事で侵攻せず、ウクライナNATO加盟拒否など政治妥協を求めて圧力を掛ける証左ともいえるでしょう。
ウクライナ危機は冬季以外は地形制約が大きい、ロシア軍による侵攻の脅威は昨年には一月中旬とされ、また一月末には二月中旬が危険であるとされています。しかしこれは根拠があるもので、今回ロシア軍は戦車師団の大半をウクライナ国境に展開させていますが、この戦車は地表が軟弱地形では行動が難しく、夏季の泥濘は行動を阻害する懸念がある。
ウクライナでは、冬はバケツ一杯の水がスプーン一杯の泥を生み夏はスプーン一杯の水がバケツ一杯の泥を生む、こうした諺があるほどに主要幹線道路以外の交通は21世紀の今日でも路面状況は影響を受けるのです。ウクライナでは日本の北海道の様な猛烈な積雪もありません、夏季侵攻の可能性が皆無という訳ではありませんが一つの指針といえましょう。
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