◆現状では落下傘不足と梱包要員不足
南海トラフ地震への想定ですが、想定津波被害範囲は関東沿岸から九州沿岸へ広がり、最大規模の発生では恐らく空前の被害となります。
今回で十二回を数える“巨大地震“南海トラフ地震”への備えを考える”特集ですが、共通する課題は想定を超える津波被害に際して、如何に想定の幅を広げることで減災に繋げるか、ということですが、財政に限界があり、防衛という主任務と両立させる観点から可能なことと不可能なことがあるというもので進めてきました。
前回は臨時飛行場、例えば八雲分屯基地を例として提示し、平時には滑走路保守のみを行い有事の際には補助基地とする方式を例に出しました。他にも、硫黄島航空基地や南鳥島航空基地が挙げられるかもしれません。災害時には高速道路隣接のサービスエリアへ平時から大型駐車場を整備すれば、有事の際に短距離離着陸性能が優れたC-1やC-130H,最新のC-2により輸送が可能となるでしょう。
しかしながら、最悪の場合を想定しての死者数は40万という大規模災害であるため、命を繋ぐ空輸は歴史上、ベルリン封鎖に伴う大空輸、ヴィットルズ作戦に匹敵する緊急空輸となると考えます。ヘリコプター、輸送機、果ては捜索救難機から連絡偵察機も加わることになるのでしょうか。同時に空輸は落下傘によっても行われる、という視点は必要ではないでしょうか。
応急飛行場の必要性は確かですが、南海トラフ地震とその他の地域の地震へ間に合うのか、直下型地震のように被災地が狭くしかし集中する場合と異なり、海溝型地震は広域化する被害への対処が必要となるわけで、加えて沿岸の都市部が津波により機能不随に陥れば津波を避ける高台の避難所へ送る物資は空輸のほかなくなります。
ここで提案するのが物糧傘を用いて救援物資をパラシュートで投下する方法です。パラシュートを用いた補給は、ヘリコプターによる輸送と異なり、一度に大量の物資を投下することが出来る点にあり、着陸させての人力搬送よりも短時間で実施できることは、一機当たりの輸送支援回数を強化することにも繋がります。
補給方法としては高台の一定以上の規模の避難所について、落下傘投下を行うに適した場所を予め防災訓練などを通じて自治体と調整、習志野第一空挺団を木更津駐屯地もしくは下総航空基地にて輸送機へ展開、特殊作戦群要員か降下誘導員を降下させ、情報収集とともに改めて数時間後に展開する輸送機を誘導、補給します。最初の72時間において、道路インフラが復旧するまでの期間に用いた場合の効果は大きい。
落下傘による物資搬送は、例えば航空救難事案に際してU-125捜索救難機からの運用が航空祭などで展示されています。ただ、航空遭難は戦闘機の場合で1名か2名程度、対して大規模災害ではこれが数千名と大きくなるため輸送機を用いる、というもの。もちろん、結成などの医療品搬送であればU-125を使ってもいいですし、陸上自衛隊のLR-2も使う場合においては用いられて然るべき。
現状ではこの方式を行う上で大きく二点の問題があります。第一に物糧傘が被災者避難所あたり千数百、全体では数万を想定しなければならず、投下した落下傘は陸上部隊が展開できるまでにインフラが回復しなければ回収できません、勿論破損することもあるでしょう、それだけの落下傘の備蓄が無い、という根幹にかかわる問題が避けて通れません。
第二の問題として、誰が梱包するのか、というものがあります。落下傘は、特に輸送機から投下する場合、パレットに載せ専門の要員が梱包しなければなりません。この梱包を行う要員が十分確保できるのか、というところにあります。そして、航空機へ搭載する地上支援車両も現状では一定数確保されていますが輸送規模に対して十分なのか、という問題も「忘れてはならないもの。
この視点の根底は、地上への空輸支援という方式へ我が国自衛隊がどのような姿勢から展開してきたのか、という部分にも影響します。具体的には航空自衛隊の輸送機は空挺部隊の輸送などは任務としているのですが第一の任務は有事の際に拠点基地への物資の集中であり、基地滑走路を維持して任務に当たるという観点に当たるもので、基地の無い地域への輸送支援はあまり考えていないのではないか、というものがあります。
梱包を含め地上要員については予備自衛官を充当する、という方しいが採れないのが難点です。空輸支援は地震発災直後から支援体制が整うまでの短期間に行う必要がある、緊急性の高い救命任務であり、予備自衛官の招集を待って限られた現役要員が任務に当たる、という構図はそもそも成り立たないということ。
落下傘、と言えば空挺部隊ですが、物糧傘による投下支援は地上部隊の行動に大きな栄養を与えます。例えば第四次中東戦争ではイスラエル空軍は機械化され非常に前進速度の大きい機甲師団へ弾薬の補給支援を行っていますし、フォークランド紛争ではミサイル対策のチャフが大量に必要となり補給艦では間に合わず、英本土から海軍機動部隊へパラシュート補給した例がありました。
この点で冒頭に示した想定、というところに繋がるのですが、自衛隊は動的防衛力の整備を念頭に改編を行うという政治を含めた潮流があります。この観点から、例えば野戦部隊への物糧投下支援や島嶼部防衛に際しての空中からの補給という視点は考えられるべきなのですが、言い換えれば震災への支援にも供する、という視点から輸送機定数と輸送機支援要員の強化、という部分は考えられてもよいように思うもの。
幸い、南海トラフ地震において想定される津波被害へ、輸送機が展開する小牧基地と入間基地は海岸線から20km以上離れていますし、美保基地は美保湾から1kmの距離にありますが日本海側、輸送機部隊が津波被害を受ける可能性は低いです。この点を踏まえ、輸送機を最大限活用するにはどうするべきか、視点は、特に予算を左右する政治の視点からその主導権を願いたいところです。
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