北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

防衛省平成二九年度予算概算要求の検証【1】 我が国防衛へ過去最大5兆1685億円を要求

2016-08-31 23:25:40 | 北大路機関特別企画
■本日防衛予算概算要求公表
 防衛省来年度予算概算要求が本日、公表されました、過去最大となる5兆1685億円が要求されています。そこで今回から概算要求の概要をみてゆきましょう。

 第一回の今回は主要装備の調達要求について。ミサイル防衛能力の向上や、島嶼部防衛用の可動翼航空機MV-22や両用強襲車両AAV-7の調達が盛り込まれ、10式戦車やF-35A戦闘機の継続調達も盛り込まれています、中国の軍事脅威と北朝鮮ミサイル脅威へ、場当たり的であっても予算が増大する脅威を前に防衛予算も増大している実情を示しています。

 火器および車両の調達は、陸上自衛隊の火器を見ますと89式小銃2,300丁 9億円、対人狙撃銃6丁 0.2億円、5.56㎜機関銃 MINIMI48丁 2億円、60mm迫撃砲(B)5門 0.2億円、84mm無反動砲(B)3門 0.3億円、81mm迫撃砲 L16 1門 0.1億円、120mm迫撃砲 RT 6門 3億円、99式自走155mmりゅう弾砲6両 66億円、となっていました。

 車両の調達に関しては、10式戦車 6両 76億円、水陸両用車(AAV7)11両 84億円、16式機動戦闘車 33両 237億円、軽装甲機動車 8両 4億円、車両・通信器材・施設器材 等306億円、車両・通信器材・施設器材には1t半トラックや3t半トラックなど支援車両、戦車輸送車や燃料輸送車等が含まれ、牽引車両などは火砲の備品扱いとなっています。

 誘導弾関連の調達要求は、陸上自衛隊関連の要求が、03式中距離地対空誘導弾(改)1個中隊 177億円、11式短距離地対空誘導弾 1式 45億円、中距離多目的誘導弾5セット 41億円、12式地対艦誘導弾 1式 81億円、です。加えて航空自衛隊関連の要求が、基地防空用地対空誘導弾0.5式 30億円、となっています。空対空ミサイル等各種本体は弾薬扱い。

 海上自衛隊艦艇建造について。護衛艦(DDG)来年度要求なし。潜水艦(SS)1隻 760億円、掃海艦(MSO)1隻 178億円、音響測定艦(AOS) 1隻 234億円、となっています。潜水艦は新型の3000t型潜水艦、護衛艦は久々に一隻も建造の要求が為されない概算要求となりましたが、後述する延命予算は11隻、近代化改修は24隻が要求されています。

 海上自衛隊艦艇の延命予算について。「あさぎり」型護衛艦の艦齢延伸1隻工事4隻部品6億円、「あぶくま」型護衛艦の艦齢延伸2隻工事2隻部品16億円、「はたかぜ」型護衛艦の艦齢延伸1隻工事0隻部品16億円、「こんごう」型護衛艦の艦齢延伸1隻工事0隻部品18億円、「おやしお」型潜水艦の艦齢延伸3隻工事6隻部品38億円、となっています。

 艦艇の延命、エアクッション艇の艦齢延伸2隻工事0隻部品1億円、「くろべ」型訓練支援艦の艦齢延伸1隻工事0隻部品4億円、「とわだ」型補給艦の艦齢延伸0隻工事2隻部品2億円、延命予算の要求については以上です。海上自衛隊では装備品の延命工事を実施する場合、延命工事部品の取得と延命工事の施工を年度を分けて実施、このようになりました。

 艦艇の近代化及び能力向上について。「たかなみ」型護衛艦の短SAMシステムの能力向上事業完了。護衛艦CIWS(高性能20㎜機関砲)の近代化改修4隻工事12隻部品44億円、「あたご」型護衛艦の対潜能力向上(MFTA)1隻工事0隻部品3億円、「あきづき型」護衛艦等の対潜能力向上 (マルチスタティック)0隻工事3隻部品2億円、とのこと。

 29年度要求は続きまして、「むらさめ」型護衛艦の対潜能力向上 (水上発射管)1隻工事2隻部品0.5億円、「あさぎり」型護衛艦戦闘指揮システムの 近代化改修1隻工事0隻部品4億円、「たかなみ」型護衛艦戦闘指揮システムの 近代化改修隻工事事業今年度完了、「むらさめ」型護衛艦戦闘指揮システムの 近代化改修0隻工事1隻部品3億円、続く。

 「ひゅうが」型護衛艦戦闘指揮システムの 近代化改修0隻工事1隻部品27億円、「おやしお」型潜水艦戦闘指揮システムの 近代化改修1隻工事1隻部品23億円、「おおすみ」型輸送艦の能力向上1隻工事1隻部品12億円、延命は耐用年数上限を伸ばすものですが能力向上や近代化改修は性能を高めるものでして、工事費用と部品費用を分けています。

 航空機関連の調達について。ティルトローター機(V-22)4機 393億円、CH-47JA 6機 456 (154)億円。海上自衛隊関連では多用途ヘリコプター(艦載型)機種選定中。航空自衛隊関連では戦闘機 (F-35A) 6機 946億円、輸送機(C-2)3機 667億円、新空中給油・輸送機(KC-46A) 1機 318億円。滞空型無人機(グローバルホーク)1機 173億円、です。

 航空機延命改修について、海上自衛隊の航空機を見てみましょう。固定翼哨戒機(P-3C)の機齢延伸3機)18億円、哨戒ヘリコプター(SH-60K)の機齢延伸 2機38億円、哨戒ヘリコプター(SH-60J)の機齢延伸2機10億円、画像情報収集機(OP-3C)の機齢延伸1機7億円、固定翼哨戒機(P-3C)搭載レーダーの能力向上部品15機5億円、以上です。

 航空自衛隊の航空機能力向上改修について。戦闘機(F-2)空対空戦闘能力の向上改修16基部品9機及び戦闘機(F-2)へのJDCS(F)搭載改修12機で合計53億円、早期警戒管制機(E-767)の能力向上改修2機220億円、輸送機(C-130H)への空中給油機能付加部品1機分16億円、以上です。F-2の能力向上は二つの事業が包括し予算要求されています。

 防衛省二九年度予算概算要求検証、この第一回は概算要求において調達が要求された主要装備品を列挙しました。次回からは、中国海洋進出や北朝鮮核及びミサイル開発へ統合機動防衛力整備という一大改革、安全保障協力法制施行に伴う新任務への対応など、5兆1685億円という過去最大の概算要求がどのような防衛政策と防衛戦略を目指すかについて、重要政策を見てゆく事としましょう。

北大路機関:はるな くらま
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平成二八年度富士総合火力演習 豪雨最中登場!自衛隊注目の新装備と転地参加部隊

2016-08-30 22:44:22 | 北大路機関特別企画
■平成二八年度富士総火演
 台風10号が東北地方を蹂躙し北海道へ上陸する最中ではありますが平成二八年度富士総合火力演習、にて注目の点について昨日に続いて見てみましょう。

 富士学校と富士教導団が担当部隊として実施します陸上自衛隊最大の公開実弾演習である富士総合火力演習、精鋭戦車の120mm滑腔砲の射撃が叩きだす衝撃波と閃光、連続発射される対戦車ミサイルの驚くべき同時命中精度、特科火砲が揺さぶる大気と大地、早朝の点検射から最後の白燐弾発射まで見どころ一筋怒涛の一日を見せつける迫力の展示でした。

 第5戦車大隊の90式戦車と第11普通科連隊の89式装甲戦闘車、北海道からの増援部隊です。豪雨の為に少々判別し辛いですが、90式戦車の砲塔と89式装甲戦闘車の車体に所属が明示されています、車両を転地したのか管理替えとしたのかは不詳ですが、中々興味深い連携です、装甲戦闘車は運動戦に不可欠ですが、配備は富士教導団と第7師団の一部のみ。

 OH-6D観測ヘリコプターとAH-64D戦闘ヘリコプターの協同、観測ヘリコプターと戦闘ヘリコプターの連携は自衛隊の航空機動における基本運用ですが、AH-64Dに対し従来は新世代機であるOH-1観測ヘリコプターが投入されていました。昨年度は和歌山沖不時着水事故によりOH-1をOH-6に代えましたが、今年度も何故かOH-1ではなくOH-6です。

 03式中距離地対空誘導弾システムと12式地対艦誘導弾システム、島嶼部防衛における陸上自衛隊の看板装備というべき二つの装備は、システムを重装輪回収車に搭載し、その上で六連装発射機を搭載している事から、一見して外見が重なるように見えるのですが、平成二八年度富士総合火力演習では二両共に登場し、演習場に並ぶ様子を見る事が出来ました。

 12式地対艦誘導弾システムは富士学校祭に搭乗していますがミサイル発射筒が細身、下志津駐屯地祭の常連、03式中距離地対空誘導弾システムの方が車体の重厚さが印象付けられるという相違点、更に車体基部や発射装置の発電装置等、よく見れば細部では共通点の方が少なく、細部の相違、搭載ミサイルが根本から異なるため当然といえば当然ですが、ね。

 AAV-7水陸両用車、装備品展示に搭乗しましたアメリカ海兵隊の車両です。島嶼部防衛の切り札として導入した水陸両用強襲車、既に陸上自衛隊へも導入が開始されていまして、平成二八年度富士総合火力演習こそその初公開の場となるか、と期待したのですが登場したのはキャンプ富士の車両、自衛隊AAV-7の初登場は十月の中央観閲式となるのでしょう。

 機動戦闘車、105mm砲を搭載する装輪機動砲、富士学校機甲科部へ配備開始されたばかりの車両で、機動戦闘車そのものも一般初公開は今年一月の第1空挺団降下訓練初めの際でして、富士学校創設記念富士駐屯地祭でも公開された車両、富士総合火力演習では初公開です。来年度から新編となる即応機動連隊機動戦闘車中隊へ配備が開始されるとのこと。

 輸送防護車、豪州製ブッシュマスター耐爆車両で、中央即応集団へ在外邦人救出用の装甲車として少数配備されています。今年の陸上自衛隊朝霞広報センターや宇都宮駐屯地祭にて一般公開が始まりました。安全保障法整備により自衛隊による陸上での邦人救出が可能となりまして、これを受けての公開、ともいえるのでしょうか。が平成二八年度富士総合火力演習、にて注目の点についてみてみますと、新装備あり、長距離展開車両あり、中々見るものが多い一日でした。

北大路機関:はるな くらま
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平成二八年度富士総合火力演習 統合機動防衛力整備へ“日本の本気”誇示した東富士見聞録

2016-08-29 23:25:38 | 北大路機関特別企画
■富士総合火力演習二〇一六
 平成二八年度富士総合火力演習、夏の風物詩というべき国内最大の公海実弾演習へ行ってまいりました。

 東富士演習場において毎年実施される富士総合火力演習、今回御縁あって土曜日の予行を撮影する機会に恵まれました。当日は懸念された台風10号の接近というなか、降雨量1mmという予報でしたが、御存じの通り後段演習の最中大粒の雨が降り始め、成程防滴装備の準備は大切なのだなあ、撮影機材の他撮影者も、という事を痛感させられました次第です。

 陸上自衛隊の近接戦闘部隊である普通科部隊及び機甲科部隊、遠距離火力戦闘部隊である特科部隊、この戦術研究及び新装備開発と試験を担当する陸上自衛隊富士学校が、現代戦闘の様相を再現し現示するとの目的で開始された総合演習は、富士総合火力展示演習と改名され、現在の富士総合火力演習となりました、実弾射撃を見聞する貴重な機会の一つ。

 現在陸上自衛隊では、島嶼部防衛、更に従来の脅威が北方からの着上陸へ対処する事を主眼としていたのに対し、新たに西方からの軍事脅威が現出、その上で弾道ミサイル脅威や国際平和維持活動への参加など任務が多様化した為、完全な予算不足となり苦肉の策として統合機動防衛力、全国へ有力な部隊を配置できないので転地、という事業を推進中です。

 この富士総合火力演習では演習を前段演習と後段演習に分けまして、前段演習では陸上自衛隊が装備する各種装備、戦車や火砲に対戦車火器とヘリコプター火力や装甲車の実弾射撃を展示、後段演習ではシミュレーションという視点に立ち、具体的に我が国への攻撃が加えられたとの想定から自衛隊がどのように任務を遂行するかの展示に、分けられている。

 創隊以来最大の改革と呼ばれる統合機動防衛力整備と島嶼部防衛力整備は、この富士総合火力演習へも反映されており、後段演習ではこの数年間、我が国島嶼部への侵攻が為されたとの想定での、部隊の空中機動等による緊急展開と着上陸を受けての防御戦闘から主力を待って敵の攻撃を破砕しその上で戦果拡張へ反撃に転じるまでの状況を展示しました。

 島嶼部防衛、といいますと、海外メディアから、尖閣諸島防衛や竹島奪還、等を誤解し誇張し認識する向きがあるようなのですが、しかし、演習を見ますと気付かせられるのは戦車戦闘や航空打撃戦、具体的に装備を以て展示していますので、戦車が双方上陸できるような、規模の島嶼を想定しているようですので、もう少し広い離島を想定しているもよう。

 統合機動防衛力としまして、大きな改編を進めているものですが、確かに今回の総合火力演習では帯広第5旅団より鹿追の第5戦車大隊の90式戦車が、東千歳第7師団より第11普通科連隊の89式装甲戦闘車が、参加していました。西方へ脅威が及ぶ以上、90式戦車と89式装甲戦闘車が西方にも必要ですが、予算の限界から配備できない、現実をみました。

 74式戦車、第1戦車大隊の参加部隊の練度が物凄いものでして、小隊1班集中射撃では何度も二両同時に発砲焔が写り、文字通り練度は息が寸秒を置かないほどに一致するほど熟練しているものだ、と感じさせられると共に、富士教導団の方では同一目標撃て、の号令がかかりまして、噂に聞く水陸機動団創設準備の人的面での皺寄せを感じました次第です。

 最後になりましたが、今回の富士総合火力演習では様々な方のご厚意に支えられました、お誘い頂いた友人にも感謝ですが、物凄い雨でして、当方撮影機材等電子機材は幸い全て無事でしたが、風邪をひきました。しかし、お隣の方にご当地ビニール袋を頂き、他の資材も無事でした。バス待ちではお隣の方に傘の下へ寄せていただきましたことで一晩にて全快、本当にありがとうございました。

北大路機関:はるな くらま
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航空防衛作戦部隊論(第四一回):航空防衛力、協力企業との有事協定と戦時入札簡略化

2016-08-28 22:25:25 | 防衛・安全保障
■基地機能復旧という継戦能力
 航空自衛隊の航空基地、要撃飛行隊の拠点飛行場ですが、現実的に現状のまま有事を迎える事態となった場合にはどのように対応すべきなのか、という視点について。

 防衛予算が潤沢に確保されているならば、先に理想の航空基地として予備施設を多数持つ構造に帰結しますし、現状の敷地では基地機能を地下化し施設を強化する事も可能ですが、用地確保から施設建設まで、航空自衛隊は施設関連予算に限界がある事は否定できません。突貫工事により、航空掩体や地下化工事などを実施し、現状の基地から抗堪化を迅速に進める施策を考える必要があります。

 具体的には航空格納庫から、臨時掩体を構築し誘導路付近に航空機を離隔する、臨時掩体にはライナープレート等野戦築城器材と盛り土などを適用し大型爆弾の直撃へは耐えられないものの、破片被害から航空機を防護する応急的措置の実施、応急施設は衛星などの事前情報収集で配置を暴露しないという利点があります。更に、指揮所の地下施設化と予備施設、通信機能の予備など、真剣に検討すべきです。

 また、基地防空資材等も、例えばスティンガー携帯式地対空ミサイルなど、人員は露出し操作する事となりますが、個人掩体を構築すれば航空攻撃からの生存性が高まり、掩蓋施設を構築し冷房その他休息施設を付与すれば防衛戦闘が長期化した杯でも継続的な高度な基地防空能力の紆余が可能でしょう。このほか、陸上自衛隊の砲煙施設部隊坑道中隊が装備する坑道掘削装置を使用すれば、例えば那覇基地や新田原基地のように丘陵地帯に隣接した飛行場に対し、戦闘機を格納可能な坑道を急速構築可能です。

 ただ、法的措置からこの施策を見ますと、基地機能復旧という継戦能力の方が重要で、有事の際の防衛調達と業者選定の迅速化を明確に示す法整備を事前に行う事で、有事の際に超法規的措置を採る以外選択肢を喪失する余地を予め払拭し、超法規措置に頼らない平時からの対策の構築が可能です。この措置とは具体的には有事の際の民間建設業者の業務契約における競争入札方式の簡略化です。この当たり、平時には見落とされがちであり、有事の際にも平時の手続きを維持できるとの錯覚が残る限り、解決できない。

 具体的には自衛隊には道路舗装に関する装備、坑道掘削に関する装備、等は陸上自衛隊が有していますし、航空自衛隊には施設補修能力や滑走路補修能力を持ちます、ただ、破壊されない基地よりも破壊されても即座に復旧できる体制の方が重要で、現代航空戦闘は長期化し、且つ基地攻撃手段も巡航ミサイルや戦域弾道弾など従来の戦闘爆撃機や長距離爆撃機の他に多様化していますので、滑走路補修機材などの不足は当然長期的に払底する可能性を考慮しなければなりません。

 すると、どうしても考えなければならないのは民間業者の協力を、即日という悠長な話ではなく即時決断し工事を依頼するというものです。応急的には自隊補修を実施するのでしょうが、民間の能力は大きい。また、この工事は即時の決断を求めるという事ですから競争入札を行う事は出来ませんし、平時から防衛施設をどの位置へ配置するかについてを明示できない為防衛出動命令に先立って工事の契約を行う事も出来ません。

 ただ、自衛隊の装備体系や人的資材と基地施設等を見ますと、恰も自衛隊単独でその防衛任務を遂行できるのではないか、という視点に陥り、結果的に建設能力や輸送能力と施設建設能力では自衛隊の総力と日本の民間企業が有する総力とでは、どちらが大きいのか、という問題を前に視野狭窄に陥ってしまう、というものがあります。自衛隊の大きさは、民生インフラなどが途絶した場合にあっても自己完結能力が高い、という部分に収斂されていますので、協力を民間企業から得られる場合、こちらに依存しなければ、独力で実施しようとすれば際限なく広がってしまう。

 基地機能復旧という継戦能力、一刻の猶予もありませんが手続きを簡略化しすぎると、これを現行法のまま実施しますと談合等とした批判や強制徴用という批判も免れません、が、民間業者の協力を前提とした長期的な基地機能維持を前提とする場合と、長期的に基地機能を維持するために予備航空自衛官部隊を増強し滑走路の本格復旧から誘導路建設と基地施設補修まで全て自衛隊だけで実施する施策を構築するには、文字通り巨額の予算を必要とします。

 そもそも本論の視座が冒頭に示した通り予算面での限界を以て対応策を呈示しているのですから、民間業者との協力を模索しているものであり、これを自前で行うよう予算で施設機材をそろえるとなると本末転倒です。特に要撃飛行隊基地は、千歳、三沢、百里、小松、築城、新田原、那覇、共に周辺に民間建設業者の協力を得られる市街地に隣接しており、法整備を行い有事の際、急速基地機能強化の施策を執る事は必要でしょう。

北大路機関:はるな くらま
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最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓【後篇】 海軍戦略は長期展望と不動不変が鉄則という教訓

2016-08-27 20:40:40 | 国際・政治
■海軍,急削減急拡大共に戒める
イギリス海軍は外洋展開任務を段階的に縮小しています。日本の海上防衛力の海賊対処任務等への展開に任務をあたかも譲るように。

海上自衛隊と対照的なほどに、イギリス海軍は後退しました。稼動艦艇が少ない為、虎の子の稼動艦を展開させられない、という背景がありますが、例えば、イギリス海軍は2011年頃からソマリア沖海賊対処任務の終了を決定、2012年のリビア内戦に際してのリビア介入に際し、展開できる兵力がほぼなく、一隻の攻撃型原潜からトマホークを発射、8分で撃ち尽くしてしまいました、続いてリビア空爆へ、WAH-64戦闘ヘリコプターを強襲揚陸艦オーシャンから3機運用しましたが、2014年にISILが中東で行動を強化した際、オーシャンは即応体制になかったため、空母を全廃しているイギリス海軍は打つ手なしでした。

外洋展開は勿論、稼動艦艇の不足は周辺海域の警備任務にも影響を及ぼしているようで、イギリス海軍はロシア海軍のミサイル巡洋艦がイギリス近海48kmまで進出した際、本国で即応態勢にあった水上戦闘艦はディフェンダー一隻のみで、しかもディフェンダーはこの時点でポーツマス海軍基地に停泊中、ロシア艦まで1000km近くはなれていた為、緊急出港し、ロシア巡洋艦に追いつくまで24時間を要しました、こんなことは、平時の場属的監視能力の必要最小限度の絶対維持と、国際任務への参加と本土防衛の優先度の明確化、警戒に当たる艦艇を常時遊弋させておくならば回避できたもので、我が国へ外国艦艇が恒常的に接近する中で護衛艦を出動させ警戒する、海上自衛隊や冷戦時代のイギリス海軍では考えられません。

此処まで散々な状況となっている背景には予算不足が最たるものと考えられますが、予算不足以上に節約志向を海軍力に過度に導入してしまったものがあるのかもしれません。イギリスいほっではありませんが財政難に悩む日本の海上自衛隊は1980年代に就役させた護衛艦を長期運用していますが、イギリス海軍は1980年代に建造された多くの水上戦闘艦艇、特にフォークランド紛争の世界初の大規模なミサイル戦からの戦訓を反映させた比較的新しい水上戦闘艦をそのまま除籍させてしまいました。いっぽうで、第一海軍卿はじめ、責任ある上級指揮官がその弊害を政府へ説明し得なかったことも怠惰ですが、この、政治への職責を掛けての苦言は、我が国にも思い当たる事があるのではないでしょうか。

しかし、除籍は財政難以外に、新型水上戦闘艦艇へ思いきって交替させた方が、長期的に運用費用を抑える事が出来るのではないか、との希望的観測、艦種を統合したほうが兵站支援が簡略化でき、兵力不足も新しく建造すれば対応できるという楽観的建造計画、新技術の採用による運用効率向上と省力化に繋がるという検証不足、極論すれば、安く収めようとした様々な施策がすべて裏目に出た形で、冷戦時代の艦艇を延命し、例えばミサイル駆逐艦のシーダードミサイルをRAM簡易ミサイルに置き換える程度の省力化、一部装備の撤去による運用コスト低減、など他の施策を、器用貧乏というべき施策で置き換え、引き返せなくなった、という状況です。海軍戦略は不動不変が鉄則という教訓、急に削減してはなりません、そして、急に拡大させることも。

もう一つ、イギリス海軍の苦境には、金融バブル時代に過度な海軍計画を建て、これが全てマイナスに影響しているというものが挙げられます。金融バブル時代にイギリス海軍は、イギリス海軍史上最大の65000tという大型の航空母艦クイーンエリザベス級2隻の建造を決定、20600tのインヴィンシブル級軽空母を置き換えると共に、36機のハリアー攻撃機を138機のF-35B戦闘機に置き換える方針を示しました。金融バブル時代には、イギリスの国力は此れ受け入れる余力があるように見えましたが2007年おき入バブル崩壊によりその余裕は完全になくなり、シーハリアーの早期退役を実施、F-35Bの調達は48機まで縮小、その間隙を空軍のハリアーGR7とハリアーGR9を暫定運用する方針に移行しましたが、これもハリアー全廃により不可能となり、イギリスは艦隊航空戦力からヘリコプター以外をすべて失ってしまい、再建できていません。

イギリス海軍、”最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓”は、海軍力維持の関心を国家と国民が失えば、此処まで海軍力は速い時期に喪失してしまう、という厳しい歴史の教訓を現在進行形で見せつけていると本文では、まとめていますが、それ以上に、当方の視点から垣間見えるのは、経済好況時の無計画な艦隊増強計画が長期的な負担を招くという視点、旧式艦艇の維持の上での新型艦艇という装備体系の対経過が重要であり革新的装備はリスクが多い点、これらを見越した、柔軟な艦隊戦力と海軍戦略が必要であり、艦艇と艦隊の編成でも朝令暮改は戒め無ければならない、阻止得必要ならば職を掛けて政治へ現状を呈示する必要性を認識しなければならない、という視点の方が、その凋落ぶりを極東の日本から望見した限り、大きいのではないか、と考えるところです。

北大路機関:はるな くらま
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平成二十八年度八月期 陸海空自衛隊主要行事実施詳報(2016.08.27/28)

2016-08-26 19:58:18 | 北大路機関 広報
■自衛隊関連行事
八月も終わり、皆様いかがお過ごしでしょうか、気温は高かったですが、まあ、過ごせなくはない夏でしたね。さて、今週末の自衛隊関連行事について。

富士総合火力演習、陸上自衛隊富士学校が実施する教育演習で元々は現代戦の様相をBOC学生へ展示する演習でしたが、陸上自衛隊の能力を国民へ広報しようとの観点から一般公開が行われ、抽選倍率が非常に高い行事となっています、入場券が必要ですのでご留意ください。陸上自衛隊では当日0930時より陸上自衛隊HPにて動画中継配信も行っているとの事で、こちらとあわせて熱気を感じるのもいいでしょう。

美幌駐屯地祭、第5旅団隷下の第6普通科連隊と第1特科群の第101特科大隊が駐屯してます。ゴジラvsキングギドラ、劇中にて復活したゴジラが網走に上陸、美幌訓練場でゴジラとキングギドラが激突する状況を美幌駐屯地から自衛隊が警戒監視にあたる描写が出てきます。劇中、護衛艦たかつき探知のUFOが富士山麓に着陸する状況で富士教導団がUFOを包囲する描写もありまして、富士総合火力演習と美幌駐屯地祭、ゴジラvsキングギドラで繋がっている、そんな愉しみ方もどうでしょうか。

富士総合火力演習と云いますと切り離せないのがホテル確保の話題、先日触れましたが、観光協会のHPや地道な電話でのホテルの宿泊探しは意外と有用な方法です。実は、インターネット予約を行っていませんが観光協会に電話番号のみを載せているホテル、というものは意外と少なからずあります、そしてビジネス旅館などは施設規模の関係からインターネットでも検索できないものは実はかなり多い。

そこで、どうしても宿泊が必要な場合ですが、諦めて三島や沼津、という選択肢も内には無いのですが、御殿場や富士岡にもホテルはたくさんあります、片端から電話で聞きまして、その際に手元にインターネット上で載っているホテルの名前をメモしておき、それ以外の他のホテルが無いか、と満室の場合には思い切って聞いてみますと、ホテルにもよりますがかなり丁寧に案内、若しくは地元同業者の間だけでキャンセル情報など、つまり、他に近傍で開いているホテルの部屋は無いか、という問いに貴重な一室、頂いたことがありました。

そして、観光協会HPなどは、インターネット予約ではなく昔からの家族経営や固定客のあるホテルなどを電話番号のみ示しているところがありまして、更に急なキャンセルなどは直前に発生した場合、電話の方が自由度も高く聞いたこともありました。インターネット検索だけで諦めず、もう少し地道な手段に頼ると、努力の分いいことがあるようですね。

■駐屯地祭・基地祭・航空祭
・8月28日:釧路駐屯地創設65周年記念行事…http://www.mod.go.jp/gsdf/nae/5d/01_unit/butai/02_bihoro.html
・8月28日:平成28年度富士総合火力演習…http://www.mod.go.jp/gsdf/event/fire_power/

■注意:本情報は私的に情報収集したものであり、北大路機関が実施を保証するものではなく、同時に全行事を網羅したものではない、更に実施や雨天中止情報などについては付記した各基地・駐屯地広報の方に自己責任において確認願いたい。情報には正確を期するが、以上に掲載された情報は天候、及び災害等各種情勢変化により変更される可能性がある。北大路機関
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最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓【前篇】 財政難下の防衛力縮小弊害は我が国へも教訓

2016-08-25 21:27:24 | 国際・政治
■海軍戦略の崩壊
ロイターコラムにて”最強を誇った英国海軍「凋落」の教訓”という興味深い、しかし手厳しいコラムが掲載されていました。

そこで、本日から海上防衛について、その意義や努力という面ではなく、ロイターコラムの内容に触れつつ、一旦喪失すればどうなるか、という事について短期集中連載として、考えてみましょう。イギリス海軍はかつて17世紀にスペインから制海権を奪い、18世紀にはオランダ海軍の挑戦を撃退し、19世紀には世界の制海権を握り、海上交通の自由、という今日に繋がる国際公序を構築しました、20世紀にはドイツの挑戦を破砕し、その後、同じく海洋交通の自由を掲げるアメリカは我が国帝国海軍を打ち破った事で、海上航行自由原則は完全な国際公序として定着しています。

しかし、イギリス海軍は現在、末期状態にあり、予算難を理由として海軍の縮小改編を繰り返し積み重ね、事実上、イギリスは本国周辺の哨戒任務を辛うじて継続できる程度にまで衰退、艦艇縮小と人員縮小は、限られた艦艇の稼働率を維持できず、この数年間繰り返される最新鋭45型駆逐艦の故障漂流、23型フリゲイトの電子系統異常、イギリス政府は漸く、アラブの春暴動化内戦やISIL勢力拡大を受け、その海軍力再建を世界に公約しましたが、英海軍の凋落は客観的な教訓、というものを、同じく財政状況の悪化に曝される我が国も、今後の海上自衛隊の能力維持という視点から、考えなければなりません。

イギリス海軍の戦力は、最早空母は残っていません、海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦に当たるものも無くなりつつあり、後継艦の完成を待っている状況、いったん廃止すれば航空部隊も解体され、その訓練基盤も無くなってしまいます。インヴィンシブル級空母はハリアー運用終了で全艦廃艦が決定し、最後のアークロイヤルも除籍されました。攻撃型原潜6隻、戦略ミサイル原潜4隻、水上戦闘艦19隻、外洋哨戒艦4隻、掃海艇15隻、強襲揚陸艦1隻、ドック型揚陸艦2隻、港湾沿岸哨戒艇18隻、今年アスチュート級攻撃型原潜の三番艦アーティフルが竣工予定です。このほか、補給艦3隻、輸送揚陸艦3隻、航空練習艦1隻、と。新空母クイーンエリザベス級の建造は遅れています。

多用な任務へ対応する水上戦闘艦の不足は、例えば自衛隊の護衛艦よりも遥かに勢力が少なくなり、特に深刻です。45型ミサイル駆逐艦、デアリング、ドーントレス、ダイヤモンド、ドラゴン、ディフェンダー、ダンカン、以上かつての戦艦の艦名を冠した六隻、23型フリゲイト、アーガイル、ランカスター、アイアンデューク、モンマス、ウェストミンスター、ノーサンバーランド、リッチモンド、サマセット、サザーランド、ポートランド、セントオールバンズ、以上13隻、水上戦闘艦戦力は19隻となっています。26型フリゲイトは計画されていますが、42型ミサイル駆逐艦、22型フリゲイト、21型フリゲイト、これらは全て除籍され、停泊実習艦兼宿泊艦に転用された元42型駆逐艦ブリストル以外は、輸出されるか解体されてしまいました。

人員削減に悩むイギリス海軍が出した解決策は、現役艦艇の一部を運行停止し、その乗員を他の簡易回すというものです。外洋航行を行う艦艇は基本的に三交代方式を採ります、一日いつクルー当たり4時間連続勤務を二回行う、という方式です。しかし乗員が不足しますと、二交代制として、4時間連続勤務を一日三回行う必要が出てくるわけです。そこで、水上戦闘艦1隻を運用停止すれば、2交替まで人員が縮小している3隻の水上戦闘艦へ各1クルーを配属させることができる。しかし、忘れてはならないのが、訓練を縮小すれば、その分練度不足による事故が発生する。

日本へ親善訪問するイギリス海軍艦艇は年々減っていますのも、この表れというべきでしょう。数少ない艦艇さえも運用を中止させ、乗員を他の巻に回す苦肉の策ですが、イギリス海軍は23型フリゲイトランカスターを停止、また、画期的な電気推進システムを採用し不具合が続発している45型ミサイル駆逐艦ドーントレスが電気系統破損により半年以上修理に時間を要する事が判明し、この運用を停止し、他の45型に人員を振り分けました。この問題は、単純に練度の低下となります、海軍艦艇は戦闘が任務、航行するだけの船舶ではありません。7月にイギリス海軍の最新型攻撃型原潜アンブッシュが、ジブラルタル海峡にて商船と衝突、損害は大きく半年程度の修理期間が必要となりました、商船を回避できず大破、練度低下の一例といえるでしょう。

北大路機関:はるな くらま
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将来艦隊戦闘と巡航ミサイル【4】 旧式潜水艦の巡航ミサイル潜水艦転用艦と練習潜水艦試案

2016-08-24 22:45:46 | 先端軍事テクノロジー
■潜水艦要員教育という視点から
 今朝、北朝鮮による潜水艦発射弾道弾SLBM実験が行われ、我が国防空識別圏内へ落下しました、今後は日本海における北朝鮮ミサイル潜水艦の探知が新しい防衛課題として挙げられることとなるでしょう。さて。巡航ミサイル潜水艦の整備、実現のためには乗員という人的補強が必要となりますが、これがもう一つの好影響を及ぼす可能性があります。

 さて。旧式潜水艦を苛烈な対水上戦闘や対潜水艦戦闘の第一線から、搭載魚雷及び対艦ミサイルを最低限度以下まで縮小し、自衛用に若干数の対潜魚雷を搭載する他をすべて巡航ミサイルの搭載に置き換える、こうして巡航ミサイル潜水艦を整備し安全な日本周辺海域を遊弋、万一の際には長射程のUGM-109E,UGM-109Hが有する長射程を活かし必要な戦力投射を行う、という提案を示しました。

 その巡航ミサイル潜水艦へ転用可能とする規模ですが、毎年潜水艦は1隻が建造されており、各国並みに潜水艦の運用寿命を30年程度、32年とした場合、海上自衛隊は防衛計画の大綱に潜水艦定数を22隻として明示していますので、一隻建造され竣工すると同時に一隻の潜水艦を巡航ミサイル潜水艦へとベルトコンベア方式、トコロテン方式にて転用すれば、耐用年数一杯として10隻の潜水艦を巡航ミサイル潜水艦へ転用できることとなります。

 潜水艦に搭載可能である魚雷及び対艦ミサイルは合計20発、うち最小限度の自衛用魚雷として4発を搭載した場合、16発のUGM-109E,UGM-109Hを搭載可能、10隻の潜水艦には単純計算で160発のUGM-109E,UGM-109Hを洋上に遊弋させることが可能です。我が国周辺海域、護衛艦と哨戒機に哨戒ヘリコプター、対潜バリアーにより防護された海域に潜む無音の通常動力潜水艦に搭載される打撃力、我が国本土へ大規模攻撃を企図する国にはこの打撃力、無視できません。

 もちろん、乗員の補給や重整備などの期間を見込みますと、10隻全てをミサイルパトロールに充てる事は出来ませんが、乗員をアメリカの戦略ミサイル原潜のように、一隻に対し複数クルー、アメリカ海軍の戦略ミサイル原潜ではゴールドチームとブルーチームに分け、潜水艦と乗員の補給と休養期間を明確に分け、稼働率を高めています、潜水艦乗員は70名、対水上戦闘及び対潜水艦戦闘を主任務から省くため若干の余裕はあるかもしれませんが。

 10隻の潜水艦に各70名の乗員を見込めば700名、稼動率向上の施策として、2クルーとしてゴールドチームとブルーチームに分けるならば、倍の1400名の乗員が必要となり、この意味するところは、潜水艦要員教育体系も大幅に増勢する必要がある事を意味するもので、この為には潜水艦教育訓練体系を根本から再整備し、潜水艦敵性のある乗員を一人でも海上自衛官から選抜し、訓練しなければなりません。

 しかし、第一線で対潜戦闘や対水上戦闘に充当させる潜水艦に対し、巡航ミサイルは遊弋し敵の第一撃から確実に生存しつつ万一に備える姿勢を以て抑止力を構成する、という任務に充当されるのですから、練習潜水艦としての運用もその範疇に含まれる。少なくとも第一線で最前線へ展開する潜水艦よりは運用を航行能力等へ重点を置くことが出来ますので、潜水艦教育訓練基盤の一要素ともできる事を意味します。

 他方、単純計算で1400名という人員規模ですが、これは本特集と連接する陸上自衛隊関連の特集において、広域師団構想、各方面隊に重厚な装備を有する広域師団を配置し、その隷下に装甲機動旅団と航空機動旅団を配置し、既存装備の管理替えと運用改編を軸に、戦車300両体制と火砲300門体制と両立しつつ、装甲戦闘車など若干の新装備を加える事で陸上自衛隊の部隊規模を10万強程度の人員規模に、最盛期の陸上自衛隊からは実に8万名近い規模の縮小を盛り込んでいるのは、こうした海上自衛隊の人員増強の必要性などへ対応させることも主眼に置いています。

 トマホーク、10隻の旧式ではあるがUGM-109E,UGM-109Hを搭載する潜水艦が遊弋、しかし、航行する事が重要であり応報に展開するという運用方式故に、この潜水艦が同時に潜水艦乗員錬成へも応用する、海上自衛隊の潜水艦増勢に対しその教育体制が追いついていない現状への解決策を提示すると共に、巡航ミサイルによる抑止力を整備する、巡航ミサイル潜水艦は難題を同時に解決する施策として提示できるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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陸上防衛作戦部隊論(第五七回):航空機動旅団、9個中隊戦闘群の発揮する機動防衛力

2016-08-23 22:56:19 | 防衛・安全保障
■多用な任務へ対応
 中隊戦闘群/中隊戦闘隊は航空機動旅団連隊戦闘団の基幹部隊となり複数の戦闘群を有機的に運用し広域での機動戦闘を展開し、且つ航空支援による火力と補給により常続的運動戦を展開します。

 中隊規模であっても独立した戦闘能力を持ち、しかもデータリンクによりクラウド化し、確実に旅団全体の戦闘行動を統合して展開する、我が国へ侵攻する敵の視点からは、なにより一個旅団の独立戦闘単位が各連隊3個中隊戦闘群、旅団全体で9単位の部隊が、段列や火砲支援網から独立して、浸透し迂回し包囲し突破し攪乱し、防衛行動をとるのですから、攻めにくくて仕方がない。

 高機動車/四輪駆動軽装甲車14両、軽装甲機動車7両、中距離多目的誘導弾4両、81mm迫撃砲4門、120mm重迫撃砲2門、牽引車と併せ車両数はこれだけで31両、ここに3t半トラック等の支援車両が加わります、人員規模は概ね250名、車両共々輸送艦おおすみ型一隻にまとまって乗艦して、なお余裕があります。こうした意味からも、島嶼部防衛、水陸両用戦にも資する編成として中隊基幹の独立戦闘部隊の意味をあげる事が出来るでしょう。

 中隊戦闘群/中隊戦闘隊と呼称する通り増強中隊ではあるのですが、陸上自衛隊の普通科中隊は元々独自の対戦車小隊と迫撃砲小隊を有し、NATO各国の歩兵中隊にはこの種の迫撃砲小隊や対戦車小隊は元来大隊直轄部隊との位置づけであった為、独立した火力を持つ、本部機能の充実、という意味で、その編成規模から縮小大隊に近い規模の大型中隊という編成を採ってきました。

 この中隊戦闘群/中隊戦闘隊が独立した戦闘を展開できるため、有事の際に一方面を担当する連隊戦闘団の一個中隊というだけではなく、在外邦人救出任務や緊急国際人道支援任務に際し、一つの纏まった戦闘群としての能力を発揮します。中隊戦闘群/中隊戦闘隊は後述する機動戦闘車や特科火砲と施設部隊との連携を連隊戦闘団の一員として担う事となります。

 ですが、例えば中隊戦闘群/中隊戦闘隊は普通科連隊を構成する四個中隊のうち、軽装甲機動車中隊を除く三個中隊が中隊戦闘群/中隊戦闘隊を構成する事となり、各連隊戦闘団は三個中隊戦闘群/中隊戦闘隊、各旅団は九個中隊戦闘群/中隊戦闘隊を隷下に置くこととなります。例えば、機動戦闘車小隊若しくは連隊戦闘団へ配属する機動戦闘車を増強小隊として5両から可能ならば6両で編成できるならば、中隊戦闘群/中隊戦闘隊へ機動戦闘車分遣隊として2両を置くことが可能となる。

 その上で、直接火力支援を可能とする機動戦闘車を分隊若しくは分遣隊として配属出来るならば、あらゆる任務へ独立した戦闘が可能となります。また、連隊戦闘団へヘリコプター隊より戦闘支援に当たる多用途ヘリコプターを前進位置することを通じ、例えば全通飛行甲板を有する輸送艦へ車両航空機を人員と共に搭載可能となることから、戦略展開任務等として輸送艦おおすみ型により同時機動が可能となるでしょう。

 この意味するところは、自衛隊が進める統合機動防衛力整備へ大きく寄与すると共に、我が国周辺情勢への対応能力や抑止力全般も向上する事となります。更に航空自衛隊へ配備されまもなく部隊配備へ進むC-2輸送機へも、機動戦闘車を筆頭に全ての装備が搭載可能です。C-2輸送機の貨物室は搭載能力37t、全長16mと幅4m及び全高4mとランプ長5.5mとの車体規模であるため、例えば現用装甲車の場合、96式装輪装甲車2両と軽装甲機動車1両の総重量34.1tを同時空輸可能です。

 C-2輸送機の貨物室幅4mは81mm迫撃砲を車載する1/2tトラックの全幅1.76mと中距離多目的誘導弾のシステムを搭載する高機動車の全幅2.15mを並列に収容できるため、各3両の計6両をC-2輸送機1機に纏めて搭載出来、弾薬車両等を加え対戦車及び迫撃砲の2個小隊を2機で搭載可能です。

 勿論、各車1tトレーラ等を牽引しますし、集積資材等の空輸も必要となりますので、C-2輸送機1個飛行隊10機に支援としてKC-767空中給油輸送機を2~3機支援に充て、弾薬等2基数を運搬するのが精一杯となりましょうが、更に先行し警備班やフォークリフトや地上支援要員等別枠でC-2輸送機による搬入も必要となりますが、海外派遣任務へも中隊戦闘群/中隊戦闘隊は資する編成といえます。

北大路機関:はるな くらま
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新しい不安定の弧【後篇】 南北貫く“新しい不安定の弧”と東西の“不安定の弧”不安定の総和

2016-08-22 22:27:48 | 国際・政治
■双子の不安定の弧、世界を交差
 新しい不安定の弧は、クリミア半島に始まりトルコの騒擾と中東のテロと民主化の混迷、そしてアフリカの戦乱を経て、事実上地球を南北に貫きつつあります。

 中東地域の現状について、前回、中東の一部地域での懸念という従来の“不安定の弧”に対し、アラブの春民主化運動の暴動化が暗渠として紛争要素を広範化している、としました。この中東は石油の最大算出地域です。石油価格を高めるためのOPECへの減産要求、これに対してOPECの石油生産は過去最高水準で推移しているようです。産油国は、かつて枯渇したともいわれたロシアとアメリカのシェールオイル、南米などの新油田採掘により、世界の埋蔵量でのシェアでは中東は比較的その地位を後退させていますが、一方で掘削コストが1バレルあたり40ドル以下の石油生産総量では中東OPEC諸国のシェアは大きく、1バレルあたり30ドル以下の埋蔵量となれば、中東が独占します、ここが問題を世界規模のものとしてしまう。

 アフリカ中部情勢も緊迫しています。アフリカ地域ではボコハラムやダルフール紛争が継続されていますが最たる事案は、南スーダン内戦、でしょう。難民が100万という非常に懸念すべき状況、自衛隊がPKOへ派遣されている南スーダンですが、スーダンから独立した以前よりも明らかに悪化した状況となっています。実際問題、T-72戦車とMi-24攻撃ヘリコプターが戦闘を実施する状況ですので、国連による南スーダン国連ミッションでの新国家建設支援は、事実上、内戦状態を受け入れない状況で、内戦の合間を縫って土木工事などを実施している状況に近く、特に内戦の難民は南スーダンを越境し、隣国ウガンダなどに流失しています、場合によっては国連南スーダン任務の失敗を受け入れるよう突き付け、ウガンダでの難民キャンプ設営などに自衛隊PKO部隊は軸を移行する方向を国連に打診したほうがよいのかもしれません。

 南スーダン内戦、長期化の様相を呈してきました、マシャール元副大統領が南スーダンからコンゴ共和国へ脱出しまして、この内戦はキール大統領がマシャール副大統領を一方的に解任したことで始まっており、マシャール元副大統領が出国してしまってはマシャール元副大統領派部隊を停船させることも、もちろん、キール大統領とマシャール元副大統領の和解も有り得ません、一方、国連担当官がマシャール元副大統領家族の今後脱出を支援したと表明しており、今後は南スーダンPKO部隊はキール大統領派から攻撃の目標となる可能性さえ、出てきました、そうなっては、新しい国家創造を支援するというPKO任務は不可能となり、現在のPKOは安保理決議、国連憲章七章措置により実施されていますので、国連防護軍派遣による治安維持と南スーダンとの対決を選ぶのか、PKO部隊撤退と南スーダン内戦拡大を看過するのか、となってしまいました。

 パワーバランスの変化は、そもそも武力紛争そのものが軍事均衡の崩壊により生起する事象であることから、アメリカの消極的姿勢が具体的政治行動へ発展することで顕著化します。米軍が急に引けば逆に出てくる勢力が現れ戦争になる、と。この点で、消極的姿勢の具現化事例としまして、アメリカのイラク戦争後における中東地域からの段階的撤退、元来、湾岸戦争以前も含めアメリカ軍はサウジアラビア国内に一定規模の常駐部隊を、更に湾岸戦争後には再度のイラク侵攻を警戒する形でクウェート国内に一定以上の規模の部隊を駐留させてきましたが、イラク戦争後は中東地域最大の不確定要素であったイラク脅威の消滅、重ねて、イラク治安作戦としてアメリカ軍のイラク駐留部隊が必要となったことで、サウジアラビア、クウェートでの駐留が抜本的に見直されています、その後、イラク駐屯米軍は段階的に撤退、現在のオバマ政権下では一時完全撤退も行われました。撤退は米本土への撤退です。

 米軍再編として、アメリカは自国のポテンシャルを過大評価し、従来の前方展開という、紛争が発生する以前に部隊を駐留しておくとの軍事戦略を、主力の米本土駐留と全軍の緊急展開部隊への改編を視野に進め、米本土以外は世界の限られた戦略展開拠点、日本の嘉手納と横田横須賀、イギリスのフェアフォード、インドのディエゴガルシアなどに展開拠点を維持し、ここを経由し緊急展開を行うことで、世界危機に際しても当面は対応できる、という認識を持たせたわけです。この過大評価とは、米軍が常駐していなくとも即座に展開できる環境を軍事的、技術的に整備することで、あたかも駐屯している米軍のごとく抑止力を行使できるとの認識でしたが、世界の軍事指導者はあくまで自己の認識に依拠しているわけであり、そこにいない米軍が、仮に即座に展開できるとの示威がなされたばあいでも、現時点ではまだ居ないのだ、という認識を越えることはなかなかありません。

 緊急展開の大きな難点としては、仮に必要であっても、展開する、という事実だけで十分に軍事行動です。実際問題、こうした展開は国際法上の武力攻撃ではありませんが、定義の上では武力行使には含まれます。更に展開する、臨時とはいえ抑止力として脅威と対峙するには、それなりの国家方針との摩擦、具体的にいえば偶発的衝突可能性が生じますし、受け入れ国との政治的摩擦、駐留費用、問題は数知れません。故に緊急展開する能力を整備したとしても政権の対応、脅威評価の温度差、情報収集の限界などにより必要な対応がとれないことが多々あるのです。アメリカ軍がサウジアラビアへ大量に駐屯した時代であれば、イエメン内戦へはもう少し迅速な解決策が図られたでしょう、イラク駐留米軍が撤退先を本土ではなくサウジアラビアやクウェートとしていたならばISILの跳梁を早い時期で抑止できたでしょう、アフガニスタン駐留米軍を最盛期の半分程度に維持したならば、タリバンの再攻勢を阻止しISILにたいしてもイランの関与を現在ほどロシアよりのものとはしなかったでしょう。

 こうして、新しい不安定の弧は中東地域において、それまで、従来の不安定の弧にはふくまれなかった地域に対して、アラブの春という内戦へ暴発する要素を残し、更に米軍の大幅な縮小により親米国の多い中東地域において、新たに勢力を伸張させているロシアの影響度があくまで比較面の話ではありますが、増大することを意味しています。今後、大規模な民主化運動場暴力革命へ発展する危惧を生んだ場合、欧米諸国から政権は、穏健な王政をとる諸国も含め支援をうけられる可能性は低くなり、消去法により支援をロシアの、シリアに大規模な駐留部隊を展開させ、イランでも基地使用を開始し、軍事力を近傍に展開させているロシアの実力に頼るようなることは、当然考えられます。しかし、このアメリカの交代により生じたポテンシャルの変化について、アメリカが軍事的に引いている行動に対し政治的には引いていない、という姿勢を執っている事は、米軍再編における緊急展開重視体制への変革から視てとれますが、当該地域とその周辺国はこれを政策として理解し繁栄させていません。

 新しい不安定の弧は、欧州とアジアの境界線から中東アフリカを縦断しました。一方、従来の不安定の弧、地中海から中東中央部と中央アジアに南アジアと東南アジアを経て台湾朝鮮半島に至る、ユーラシア大陸南部を覆う不安定の弧もその問題は解決されておらず、むしろ不安定の弧は、中国の海洋における軍事行動の増大が南シナ海において顕著化し、朝鮮半島の北朝鮮核武装は脅威が顕在化し、新しい不安定の弧が南北を、従来の不安定の弧が東西を貫き、弧状の覆域は交差し、憎悪の満月へと成就しつつあります、しかし、この問題が即座に世界危機への不可避な分岐点を超えているのかと問われたならば、まだ楽観要素はあります。具体的には、この要員の背景にはポテンシャルの変化が起因するものである一方、ポテンシャルの変化は軍事技術変化を受けての配置変化にほかならず、その再認識の広範化、もしくは再進出、他には政策を変化させる事により、解消できるものです。こうした、一種の誤解が拡大再生産され生まれる摩擦要素を再検討することで、世界危機への展開を回避できる、道はまだ残っています。

北大路機関:はるな くらま
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