◆田中大臣の個人的放言?防衛省方針?
田中防衛大臣は本日行われた衆議院予算委員会において次期戦闘機に選定されたF-35について、価格高騰や納期延長が行われる場合機種変更を考えていると述べました。
価格高騰と納期延期を理由として挙げていますが、正直な印象としては、覚悟もなく開発難航中のF-35を選定したのか、ということ。なぜならば、元々F-35は取得費用が2800万ドル程度の安価なステルス機として2010年の米空軍部隊運用開始を念頭に開発が進められていました。現在でも評価試験が進められている段階で、少なくとも昨年に決定した段階で計画はかなり遅れている、ということは自明でしたし、米空軍の機体単価は既に1億2200万ドル、必要装備品込機体単価は1億8400万ドル、今更価格高騰となっているのではありません。納期にしても米空軍で初度作戦能力獲得は2017年の予定、昨年一月に当時のゲーツ国防長官が発言しています。航空自衛隊への納入が予定の2016年は無理、分かり切ったことと言わざるを得ません。
携帯電話じゃあるまいし機種変更は簡単ではありません。パネッタ国防長官は1月末に国防費削減を提唱しF-35の取得も延期する方針を示していますが、こちらも歳出に占める国防費の三割以上という異常な数値を見れば予測できたことです。このF-35は国際共同開発計画として開発が進められています。国際共同開発として関与の段階がわけられており、アメリカを中心に高度な開発参加国にイギリス、主要開発参加国にオランダとイタリア、開発関与国にカナダ、トルコ、オーストラリア、ノルウェー、デンマークが関わっているのですが、全ての国が開発費高騰に悩んでいるのです、日本はこれを知る立場で採用したのですから、ここで価格高騰と納期延期を理由に挙げては、何を今さら言っているのか、と、別の理由があることを勘ぐられてしまうでしょう。
F-35は元来、垂直離着陸が可能なAV-8攻撃機の後継機として超音速飛行能力とステルス設計を含めた次世代戦闘機として開発がすすめられ、この派生型として垂直離着陸に必要な諸装備を省き戦闘行動半径を拡大させる型式を開発し、空軍のF-16戦闘機や海軍の空母艦載機F/A-18Cなどの後継機に充て次世代の戦闘任務を全て一機種に統合する統合打撃戦闘機として開発が始まりました。一般に通常の戦闘機を開発し、派生型に垂直離着陸型を開発しているので遅延と難航していると誤解されていますが、逆で問題はより深層にあるということ。
全ての任務に対応するべくすべての機材を搭載した結果機体は重量が増大し複雑化し高価格化、そして元来は米空軍最強とされるF-22戦闘機の数的不足を補い、世界各国の空軍の主力となりうる取得価格を実現するために小型の機体として開発していますので容量不足が発生します。当然これはエンジン推力不足に繋がりますし、多機能を求められすぎたレーダーや火器管制装置は限界を超えてこちらも開発難航へ、開発参加国が多く既に天文学的な費用が投じられていることから開発中止さえもできない状態、それがF-35というもの。
ここで大きな疑問は、F-35に関する田中防衛大臣の発言は、機種変更という方針が防衛省の意志なのか、航空自衛隊を含めた石なのか、内局の意志なのか、それとも田中防衛大臣の個人的な意見なのか、というところです。通常であれば防衛大臣の発言は防衛大臣の発言であり個人的な大臣発言、というものはあり得ないのですけれども、残念なことに防衛関係において知識不足と誤解に偏見と見識違いと放言や失言に無責任発言と加えて責任感の欠如が見受けられる現状、こちらも一種の放言という可能性もあり、報道の続報を待ちたいところ。
加えて大きな問題は、機種変更は正式な契約を結ぶ今年八月までに機体の納入時期と機体価格が示されない場合、という発言が行われたことです。後継を待つF-4戦闘機はEJ型が今年初飛行から41年、米海軍でF-4が空母運用を開始してから51年、半世紀以上前の設計の航空機で機体は既に深刻な老朽化を迎えています。元々米空軍のステルス戦闘機F-22の導入を期して交渉に時間をかけたことで後継機選定は数年遅れ、F-35に決定する間にさらに数年を要しています。ここで更に重ねて白紙から機種選定をしよう、とは。選定が数か月で完了したとしても、ライセンス生産の方向が示されたF-35と異なりライセンス生産を行うか有償軍事供与かを最初から国内の防衛産業と決めねばなりませんし、F-4の後継機だけを取得するのか、F-15Jの後継機に充てるかもまた変わってきます。
次期戦闘機選定はF-35,そして欧州共同開発のEF-2000,米海軍空母艦載機F/A-18Eですが、消去法でF/A-18Eしか残らないでしょう。欧州共同開発ユーロファイターEF-2000は現在最新型であるトランシェ3の開発が欧州経済危機により停滞しており、採用しようとすれば日本が開発費を捻出しなければならなくなります。また、EF-2000の主開発企業であるBAE社は技術提携を持ちかけており、2010年代に引退を始めるトーネード攻撃機の後継、将来航空攻撃システムFOASの開発を行う方針が、少なくとも2005年頃までは進められていたのですが、イギリス国防費削減により完全に頓挫しており、技術提携の意味が霧散しました。もっとも、トランシェ3に代えるトランシェJを日本が開発し、欧州向けの機体生産も一部三菱重工で行い、部品供給を日本国内で行うことで欧州向け部品プールを日本から出荷する、最低でも偵察航空隊所要や教育航空隊所要含め140機程度を導入する、というならば、また話は別なのですが。
即ち日英第六世代戦闘機開発を行う可能性は今世紀前半には無いといっていいでしょう。こうなりますと、欧州機はまず部品プールなどNATO共通運用基盤の恩恵に与れない我が国としては、少々リスクのある機体というだけではないでしょうか。しかし、大臣の意志なのか防衛省の意志なのか航空自衛隊は聞いているのか、どうなのでしょうね。当方としては、F-35の開発遅延は織り込み済みで2010年代末に引き渡し、部隊運用開始が2020年代と見込んでいたので、それまでF-4の延命か、繋ぎの航空機導入か、と考えていましたが、F-35は開発が難航している機体とかなり前、少なくともここ四年から五年は言われていましたので、そこまで言われている情報を勘案せず導入を決定したという点、残念でなりません。
北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)