◆ヘリコプター搭載護衛艦8隻&イージス艦8隻
尖閣諸島への領空侵犯、尖閣諸島に近い先島諸島は中国の膨大な規模を有する短射程弾道弾の射程圏内にあり、ここに戦闘機部隊の基地を建設することは非現実的、と前回解説しました。
それよりは自由に洋上を航行する護衛艦から航空機を緊急発進させた方が良い。尖閣諸島を含む沖縄県南西海域への領空侵犯事案及び国籍不明機接近ですが、この今後予断を許さない状況変化への自衛隊が採り得る選択肢は、ヘリコプター搭載護衛艦、即ちDDHの増勢による南西方面哨戒任務の態勢構築にある、と考えます。一定数のDDHが確保できたのならば、常駐に近い体制でのDDH展開は可能でしょう。
八八艦隊、北大路機関では2010年から定期的に“八八艦隊”の必要性を提唱してまいりました。ヘリコプター搭載護衛艦八隻とイージス艦八隻を整備する、というもの。これは、現在ある護衛隊軍護衛隊を全て同じ編制と出来ないか、という視点から導き出した案です。現在の護衛隊群は、2008年の護衛艦隊改編により、護衛艦隊を構成する四個護衛隊群の群編制が、それまでの能力別三個隊編成から機能別二個編成となり、各護衛隊群は、DDHを中心とする護衛隊、ミサイル護衛艦DDGを中心とする護衛隊へ改編されました。
DDH護衛隊は、ヘリコプター搭載護衛艦一隻・ミサイル護衛艦一隻・汎用護衛艦二隻を併せた四隻を以て編成、DDG護衛隊はイージス艦としてミサイル護衛艦一隻・汎用護衛艦三隻の四隻を以て編成、護衛艦隊隷下の護衛隊群はこの二個護衛隊を保有し、護衛艦隊全体では、DDH護衛隊四個とDDG護衛隊四個が整備されています。
DDHは現在、ひゅうが型護衛艦、ひゅうが、いせ、に加え新たに平成22年度護衛艦として22DDHの建造が進められており、全通飛行甲板を有する空母型護衛艦として更に二隻が建造されることとなっています。このDDHを中心とする護衛隊は非常に大きな対潜掃討能力に加え、多数の航空機運用能力を以て多用途任務への対応が期待されています。
DDGを中心とする護衛隊四個は、こんごう型ミサイル護衛艦、こんごう、きりしま、みょうこう、ちょうかい、の四隻が弾道ミサイル迎撃能力を有するMD対応改修を受けているため、イージス艦の多目標同時対処能力を活かした広域防空任務として艦隊防空を担うと共に、我が国本土を狙う弾道ミサイルに対し、長長射程のSM-3によるミサイル防衛任務が期待されているところ。
一方、海上自衛隊にはイージス艦として、あたご型の、あたご、あしがら、が運用されており、これはDDH護衛隊へ配備されています。当初計画ではMD対応改修が予定されていませんでしたが、計画は改められ能力付与へと転換、結果、DDH護衛隊においてもミサイル防衛任務への対応が求められることになるでしょう。
海上自衛隊はイージスシステム搭載のミサイル護衛艦六隻のほか、従来型と言われるターターシステム搭載艦として、ミサイル護衛艦はたかぜ型を二隻保有、現在延命改修予算が認められたため艦齢は30年以上の運用が見込まれていますが、将来的にはイージス艦へ置き換えられ、弾道ミサイル防衛へも対応が求められることと思います。つまり、全ての護衛隊群護衛隊へイージス艦が配備される。
それならば、護衛艦隊に八個ある護衛隊の能力を均一化する観点からDDG護衛隊に対してもヘリコプター搭載護衛艦の配備を行う方向で調整し、現在四隻が運用されるヘリコプター搭載護衛艦を、八隻体制へ将来的に拡充したならば、ヘリコプター搭載護衛艦八隻イージス艦八隻からなる八八艦隊、かつて帝国海軍が夢見た超弩級戦艦八隻大型巡洋戦艦八隻を以て編成する八八艦隊には及ばないものの、かなり広い任務に対応する護衛艦隊と改編できるのではないでしょうか。
広い任務とは、尖閣諸島周辺に遊弋し、大陸側からの領空侵犯など対両工侵犯措置任務へ対応することを含みます。現在は、那覇基地より航空自衛隊第83航空隊のF-15Jが対応しているのですが、那覇基地から尖閣諸島まで360kmあり、もちろん音速の二倍以上の速力を誇るF-15Jには決して大きすぎる距離ではないのですが、即応性は現地にDDHが展開していた方が高いことに違いありません。
ヘリコプター搭載護衛艦は、全通飛行甲板を採用することで、様々な航空機への運用に対応します。現在は潜水艦対処や索敵に小型艦艇対処を行うSH-60J/K哨戒ヘリコプターと掃海任務に輸送任務等に対応するMCH-101掃海輸送ヘリコプターの搭載を軸に必要に応じ様々な航空機を搭載する、としていますが、搭載機種により究極の多用途艦になるということ。
現時点では具体的政策への検討に反映されていませんが、AV-8ハリアーのような航空機を運用することは可能でしょう。現在ハリアーはイギリスの早期退役分が米海兵隊に取得され、機体そのものも生産終了からかなり経つため入手は何年飛べるのか状態不明の中古機のみと、どの導入に関して現実性を欠くのですが、この後継機となるF-35B,垂直離着陸も可能なF-35Bを、甲板などの改修とともに搭載することは可能と考えます。
もちろん、ヘリコプター搭載護衛艦は、米正規空母ニミッツ級ほど大きくはありません、ひゅうが型で満載排水量19000t、22DDHは大型化しましたが25000tから27000tです。しかし、艦内格納庫は、ひゅうが型でSH-60J/K並列三機の収容が可能であり、諸外国の航空母艦や軽空母に倣い甲板係留を行えば、SH-60J/KやMCH-101を搭載しつつ、5~8機のF-35Bの搭載は、物理的に可能です。ちなみに、かつてハリアー運用艦の代名詞であったイギリスのインヴィンシブル級軽空母の平時におけるハリアー定数は5機でした。
艦隊防空のみでしたらイージス艦が最も妥当ですが、国籍不明機に警告と強制退去、場合によっては強制着陸を命じられるのは航空機だけ、ミサイルは撃墜か否かの二択しかありません。領空侵犯を行った場合、撃墜も選択肢にはあるのですが、撃墜が国際法上の自衛権発動要件になるかは微妙であり、言い換えれば撃墜行動を以て相手に自衛権発動要件を与えることにもなり、結果、各国は対空ミサイルだけではなく航空機を領空侵犯対処に用いているのです。
ここで気になるのが、八隻で十分なのか、という事です。ただ、ヘリコプター搭載護衛艦による先島諸島周辺巡回、海上自衛隊は小泉内閣時代のインド洋対テロ海上阻止行動給油任務に六隻しかない補給艦をローテーションで派遣してきました。距離的にも先島諸島は佐世保基地など本土の主要基地から近く、沖縄には沖縄基地隊の置かれる勝連基地があり、実現可能性は八隻ならば充分ではないでしょうか。
自衛隊は現在統合運用の試みが進められていますが、対領空侵犯措置任務にあたるバッジシステムと海幕情報システムを連動させ、護衛艦から航空機を緊急発進させ、対処する、こうした運用も可能性は検討されるべきです。特にこうした任務は、対空ミサイルでは警告を行えないため、鉄壁の防空力を有すると表現されるイージス艦では対応できません、八八艦隊だからこそ、ということ。
これはヴェトナム戦争中に米海軍がヴェトナム沖に複数の航空母艦展開海域を設け、様々な突発的事態へ艦載機を出動させる体制を構築したヤンキーステーションを思い出させるもの。併せて現在中国海軍は航空母艦の実戦化を急いでおり、恐らくその能力とは別に砲艦外交的な運用が為されることでしょう、これは軍事的威力が絶無でも政治的威力は大きいため、DDHの運用はこの圧力への対抗手段ともなることは、忘れてはなりません。
もちろん、制約は大きいです。簡単に海上自衛隊へF-35B,と書きましたが、まず取得費用は大きい。しかし、この機体にしかできない任務という観点から必要ともいえます。しかし、重ねて、今度は海上自衛隊にはP-3Cといった固定翼機以外、戦闘機のような装備は教育体系にない。
それだけではなく、搭乗員養成に必要なT-4練習機も、もちろん訓練体系もありません。これを一から構築することは並ならぬ努力と予算と人員と政治の理解が必要ということになります。そして、予算的裏付けを行うべく、政治主導と財務当局との調整が無ければ、計画が破綻するだけではなく、海上自衛隊の装備体系にも大きな影響を及ぼしかねません。
ただし、これしか方法が無いのではないか、とも言えます。差k島初頭、石垣島か下地島に航空基地を建設する、という代替案はあり得るのですが、前述の通り膨大な中国短距離弾道弾の射程内にある先島諸島では、最初の一撃、発射から十数分で滑走路が破壊され、基地機能は喪失する。
基地のあらゆる機能を地下シェルターに収め、予備滑走路を大量に確保し、高射隊複数の高射群を新編すれば、多少は維持できるのかもしれませんが、例えば先島諸島で最も航路の余剰がある下地島空港は海抜7.5m、地下10mに施設を置けば高潮時や沖縄トラフ地震時に全滅しかねませんので、飛行場全体を10m程度、弾道弾に耐えるには通王の土砂ではなく、コンクリートで嵩上げせねばなりません。
そして、標高45mの宮古島空港、標高24mの石垣島空港ならば物理的に航空機を津波から防護しつつ地下施設を構築できるのですが、いずれも周辺が住宅街で航空航路が過密状態でありながら拡張できず問題でなっている場所ですし、これをクリアしたとして宮古島にしろ石垣島にしろ、これをどう有事に際して補給維持するか。ガダルカナル強行輸送のような困難を抱えていることは確かで、空輸支援だけで基地を維持するに十分な輸送機数と、基地一個まるごと地下に構築する予算、1個高射群まるごと新設しての配置、いったい幾らかかるのでしょうか。
見積もりは当方では出来かねるのですが、一兆円二兆円、そんな予算があれば中距離弾道弾の射程内にある那覇基地や、米軍が有事の際には基地機能喪失による放棄の可能性を示唆した嘉手納基地を中距離弾道弾の脅威から守らなければ、南西諸島全般の防衛、我が国のシーレーン全般の維持に支障を来すことを忘れてはならない。
それならば、先島諸島へは地対艦ミサイル連隊や航空自衛隊宮古島分屯基地への基地防空隊創設などにより防備を固めると共に、無謀な施策を提示し、南西諸島の南端い航空基地の維持などの一人消耗戦を演じれば仮想敵の思うつぼ、現実的に有事に機能する装備体系を構築せねば、自衛隊全体の任務遂行に支障を来してしまうでしょう。
基地機能の絶対維持ではなく、都市防空ならば、第15旅団の新設される高射特科連隊に、連隊本部のレーダー支援を受けずとも運用できる野戦防空部隊を創設して必要に応じ派遣し防空に充てるという方法でも対応できるのですし、宮古島分屯基地へ、那覇の高射隊を一部派遣するかたちでも対応できます。
少なくとも先島諸島に戦闘機の飛行隊を配備するという案は仮想敵に貴重な一個飛行隊を初動戦果に献上するようなもので、しかも航空基地を普通科連隊駐屯地よりも敵に近い地域へ、戦闘機部隊を展開するなんて冗談でしょう、というくらいですが、有事の際には第15旅団から部隊を展開させる、という運用を行うのですから実質先島諸島に戦闘機を配備する、ということは冷戦時代に名寄以北に千歳基地を移駐するようなことになってしまう。
冷戦時代、航空自衛隊は千歳基地以北に戦闘機を置きませんでした、開戦第一撃で破壊される場所に戦闘機を置いてはならない。中には、冷戦時代道央に自衛隊が集中していたのは内陸誘致戦略のため、という指摘をなさる方もいるようですが、あれは陸上自衛隊の運用、航空自衛隊は内陸誘致戦略をとっていません。
短距離弾道弾は年々増大しています、しかし、那覇基地ならばその射程外にあり、無意味な前線飛行場に、前線運用に向かない航空自衛隊の戦闘機を保全し維持するための予算を投じるならば、その予算で早期警戒管制機の増勢や空中給油輸送機の部隊増強など、先にやらねばならない項目は数多くあるのです。
短距離弾道弾の脅威ですが、ヘリコプター搭載護衛艦であれば、動くことのできない陸上の航空基地と異なり自由に航行することが可能です。また、前述のようにイージス艦全てが弾道ミサイル防衛対応となる展望があり、全ての護衛隊に配備されているミサイル護衛艦は将来的にイージス艦となるのですから、中国が開発を進めているという誘導方式が不明ではあり、実用性に疑いはありつつ不気味な新兵器、対艦弾道弾へも生存性は高まるでしょう。
併せて自虐的と批判されるかもしれませんが、海上にヘリコプター搭載護衛艦が航空基地としてF-35Bを運用するのであれば、中国の短距離弾道弾は海上に向けられます、これは即ち、国民の生活する先島諸島へ向けられ得る弾道弾を護衛艦が引き受けられるわけで、身を以て国民の生命財産を守る、ということにもなるわけです。
現状の二倍ものヘリコプター搭載護衛艦、建造費だけで四隻ならば4400億円に達し、艦載機も各艦5機で航空隊を編成したとしても予備機を含め50機、5000億円に達します。現在の護衛艦は、旧式艦の代替艦建造もままならないにもかかわらず、余りに非現実的ではないか、という批判は反論のし様もありません。はつゆき型、あさぎり型、あぶくま型、これら後継艦は一隻700億円前後、毎年一隻、可能ならば二隻必要なのですから。
しかし、護衛艦の建造もさることながら、現実的に大陸からの圧力が増大し、航空母艦による恫喝が行われる近い将来、我が国が主権を維持し、海洋自由航行による繁栄を享受するにはどうするのか、こうした視点から、考えるべき部分は多くなっているのだ、そういえるのではないでしょうか、明日発足する安陪内閣には、こうした視点を大事にしてほしい、切に願う次第です。
北大路機関:はるな
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