◆空から海から、日本海を守る
観閲式と祝賀飛行、これに続いて展示訓練が開始されます。舞鶴展示訓練なのですから、ここも注目です。
潜水艦うんりゅう、浮上した様子、本型はAIP潜水艦で潜ったまま発電を行い動力を得ることが出来るため、これまでの通常動力潜水艦よりも水中航行能力が大幅に向上しました。後部の操舵装置が斜めになって二枚見えるのが日本の従来潜水艦との外見上の特徴、オーストラリアが昨今、輸出を希望していることで有名になりました。海上自衛隊の潜水艦は広大な太平洋での任務遂行上、大型で航続距離が大きくなっています。オーストラリアのコリンズ級も同じですが、大型で騒音が大きくなり過ぎ、日本製潜水艦に注目したのでしょう。
SH-60K哨戒ヘリコプターが飛行展示を開始しました。米海軍のSH-60Bと非常によく似たSH-60Jの改良型ですが、日本のSH-60系統は写真のような吊下げ式のソナー、ディッピングソナーを搭載する対潜哨戒を重視したヘリコプターとして開発されました、見えるのはトランデューサ、マイクロフォン部分です。哨戒ヘリコプターはソノブイの情報を元に複数機が磁気探知装置MADを梯団飛行で使用し、潜水艦航行による磁気異状を捕捉、別の機体がソナーを降ろし、徐々に追いつめる方式がとられるようです。
海上自衛隊の艦上航空機運用は今から40年前、1973年の護衛艦はるな就役から始まり、米海軍が空母搭載用対潜ヘリコプターであったHSS-2を3機搭載していました、空母1隻で6機のHSS-2が定数となっていましたので、しらね、ひえい、の第51護衛隊に、はるな、くらま、の第52護衛隊、ヘリコプター搭載護衛艦2隻を集中運用する当時の護衛艦隊の運用は、空母の対潜ヘリコプターが有する哨戒能力に匹敵していたといって過言ではありません。
ソナーを海面下に降ろしています。奥の方ではSH-60が機上救難員を降ろしています、SH-60は対潜哨戒のほか、護衛艦の対艦ミサイル誘導、救難任務等多用途に使われます。海上自衛隊は、ソノブイを投下し、大まかな敵潜水艦の位置を把握すると共に、ソナーを搭載し最も潜水艦が潜伏していると思われる海域を正確に捕捉し、魚雷により攻撃することが出来ました。ところが、米海軍のHSS-2に続いて導入されたSH-2とSH-60Bはこうした任務を想定していません。
SH-60と護衛艦はやゆき、写真は2011年のものですので、まだまだ護衛艦はまゆき、現役です。この半年後に、はまゆき、自衛艦旗を返納し除籍され、一昨日舞鶴基地に行きますと保管艦として桟橋にいました。さて、海上自衛隊のHSS-2とSH-60は上記の通り、潜水艦を発見し撃破する独立した武器システムなのですが、米海軍のSH-2と続くSH-60BはLAMPS,軽空中多用途システムといわれ、水上戦闘艦のセンサーの一部をヘリが運んで移動している、という概念の装備で、独立した運用に限界があり、とくにソナーを搭載していませんでした。
対してSH-60Jは、ソナーで潜水艦を直接追いつめることが出来ます。もちろん、護衛艦と一体運用することが基本で、HSS-2も対潜情報を護衛艦と共有しますし、そのために護衛艦のマスト頂点には円盤状のヘリコプターデータリンク装置アンテナが搭載されています、ただ、自前のソナーを搭載している自衛隊のSH-60Jに対し、SH-60Bはソノブイの運用と更に母艦など水上戦闘艦のソナー情報に基づき目標の潜航が考えられる海面に魚雷を投下する、かなり限られていた、ということ。
高性能を盛り込んだ海上自衛隊のSH-60、対して水上戦闘艦の移動センサーであった米海軍のSH-60,実は高性能に一本化した自衛隊の艦載ヘリコプター体系ですが、元々はその前に運用していた無人ヘリコプターDASHの発展型がLAMPSであり、日本のSH-60とは出自を別としていました。ただ、日本も70年代の第四次防衛力整備計画検討時にはHSS-2に対し、新しく建造する汎用護衛艦にはOH-6を原型としたSH-6というべき研究がありました。
基準排水量2000tくらいの護衛艦に小型ヘリを搭載する、というものなのですが、これが石油危機により計画がとん挫、改めて再検討された際に、中途半端なものよりは高性能で一本化しよう、ということで、汎用護衛艦にもヘリコプター搭載護衛艦と同じヘリコプターを搭載する方針が定められ、建造されたのが護衛艦はつゆき型です。基準排水量は2950tで、実のところ、高性能の大型哨戒ヘリコプターで一本化したことから、護衛艦隊の護衛艦の航空機運用が一本化した、といえるやもしれません。
ミサイル艇の機動航行展示が開始されました、舞鶴警備隊に現在2隻のミサイル艇はやぶさ型が装備されています。以前は、護衛艦あぶくま型、写真の護衛艦ちくま、等小型護衛艦が地方隊に装備されていたのですが、現在は平時の訓練を護衛艦隊が一括運用することとなり、全て自衛艦隊隷下の護衛艦隊へ移管されています、つまり、必要な時に必要な分だけ地方総監へ護衛艦が回される、というかたち。結果、地方総監の地位がかなり下がってしまい、海幕長人事に自衛艦隊司令官出身者が多くなってしまった、という指摘もあります。
一方で、ミサイル艇だけは、地方総監が常時保有している手駒として残されたようです。ただ、海上自衛隊のミサイル艇運用構想を紐解けば、魚雷艇からミサイル艇への転換を構想していた際に、ミサイル艇こそ中央で一括運用し、一定の水準に或る高練度部隊を常時地方隊にローテーションで配置する、という構想はあったもよう。こう考えますと、護衛艦にしてもミサイル艇にしても高練度部隊は、護衛艦隊から地方隊に回す、任務群を常設し、地方総監の位置づけを強化の方向で考えるべきでは、ないかと。
護衛艦とミサイル艇の連携、ミサイル艇の武器は強力な対艦ミサイルで、命中すれば巡洋艦でも撃破できるのですが、センサーが護衛艦に搭載されるような大型のものが搭載できないため、目標がどこにいるのか、位置データを陸上や航空か洋上や海中から伝送してもらわなければ能力が最大限発揮できませんし、攻撃された場合、自艇防空能力が護衛艦のような強力な対空レーダや防空火器を搭載できないため、運用が限定的とならざるを得ません。
ただ、一撃離脱の威力が大きいので、例えば陸上の地対空ミサイル部隊が沿岸部でミサイル艇へ防空の傘を供し、護衛艦に搭載するような高出力の沿岸レーダ装置を陸上に配置すれば、かなり有用に運用できます。それならば陸上の地対艦ミサイル連隊も運用しているミサイルは基本同型なので一本化すれば、と思われるかもしれませんが、対領空侵犯措置に要撃機が必要で地対空ミサイルに一本化できないのと同じように、水上戦闘艦であるミサイル艇であれば、一撃で沈める前に、警告を発し、戦闘を回避することが可能です。
海上保安庁の巡視船つるぎ型、最高速力40ノット以上といわれるのですが、最高速度で航行するミサイル艇はやぶさ型を悠々と訓練で追い抜くため、護衛艦の乗員の方からは50ノットはでるのではないか、とのこと。管制式20mm機関砲による遠距離での警備能力と、防弾板の装備、北朝鮮の工作船侵入事案を契機として建造されました。ただ、高性能を目指したため建造費が大きくなってしまい、結果、十分な数を揃えられない、というかなり大きな壁に直面することに。
高速で航行する様子を流し撮りにしてみました、奥にはもう一隻見えます。ミサイル艇は、80年代に建造が計画され、とりあえず、横須賀、佐世保、舞鶴、呉、大湊の垣内砲隊へ2個艇隊6隻づつを配備することが計画されましたが、冷戦が終わり、護衛艦隊の護衛艦が量産により余剰が生まれましたので、そのぶん地方隊にも護衛艦隊用の大型護衛艦を回すこととなり、それならばミサイル艇で一撃離脱という方法を採らずとも、堂々と護衛艦で脅威を排除しよう、ということになりました。
ただ、日本海での北朝鮮工作船浸透事案における海上警備行動を踏まえ、護衛艦では対処が難しい武装工作船対処へはミサイル艇のような小回りが利く艦艇が必要、となり、速度を計画よりもさらに向上させた新ミサイル艇として、はやぶさ型が建造されました。しかし、海上自衛隊全体で6隻と少数に留まったのですが。他方、工作船対処が重要視される以前に元々はやぶさ型は双胴型船形を志向していたとのことで、この方式は後部甲板を大型のものと出来ますので、速度は下がりますが、ヘリの発着能力等、運用の幅は広がったでしょう。
大きく旋回し、小回りを誇示するミサイル艇、この天敵は航空機です。日本の周辺国には多数のミサイル艇を運用する国が多いのですが、実はこの天敵は小型対艦ミサイルヘルファイアを運用するSH-60K哨戒ヘリコプターだったりします。一方、はやぶさ型は毎分80発を発射し、射程16kmの3インチ単装砲を搭載、FCS-2により管制しており、データリンクシステムを搭載しているので航空攻撃情報を航空自衛隊のレーダーサイトや早期警戒機から受信すれば、そう簡単には無力化されません。
ミサイル艇、舞鶴、沖縄、余市、父島、このあたりにもっと数を配備してもいいのでは、と思うのですが、対潜戦闘は全くできませんし、単体では能力に限界があります、もっと護衛艦があれば、それに越したことはないのですが、ミサイル艇を見るたびにこうしたことを考えます。ただ、前述の通り、ミサイル艇の天敵はミサイルを運用するヘリですので、ヘリ搭載小型艦、というものも、検討されるべきやも。もっとも、同様の構想は海上自衛隊にもあるにはある、過去にもあったようです。
北大路機関:はるな
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