◆自衛隊PKO部隊活動中、アフリカ連合・国連調停へ
建国間もない南スーダン共和国において非常事態です。クーデターが発生し反乱軍が北部ユニティ州とジョングレイ州を制圧、情勢は緊迫化しています。
自衛隊の派遣部隊の状況は?、戦況の展開は?、などなど関心を要する状況です。南スーダンは自衛隊PKO部隊が派遣中で、今月も福知山第7普通科連隊より連隊長を指揮官とした第五次派遣部隊が出発しています。これまでのようにアフリカ中部の新興国での騒乱という認識ではなく、日本が新しい国造りに協力している状況下での事態、ということ。そこで今回は、南スーダンでの今回の事態の現状とその背景について、そして自衛隊の派遣部隊や他のPKO部隊の状況と各国の対応等について、情報をまとめてみましょう。
南スーダンは2011年7月にスーダン共和国より分離独立し誕生した新しい国家で、新国家建設と共に国連は新国家建設を支援するべく国連安保理決議1996号に基づきPKO任務の展開を決定、国連スーダン派遣部隊UNMISSとして各国より8000名規模の部隊の協力を受け活動中で、現在、陸上自衛隊は福知山第7普通科連隊を中心に400名規模の部隊を派遣中です。自衛隊派遣部隊は施設車両のほか、部隊防護用装備として軽装甲機動車やMINIMI分隊機銃、89式小銃などを携行しています。
南スーダンでの大規模な戦闘に展開している今回の事態について、発端は12月16日の在南スーダン大使館情報として南スーダンの首都ジュバ市内複数個所において断続的に爆発音や銃撃戦が展開し治安が突如として悪化したことが発端で、外務省は12月16日に本省岡村アフリカ部長を長とする外務省連絡室を設置、情報収集に当たってきました。現地報道では大統領警護隊部隊内において部族間対立が激化し友軍双撃の状況になったとのこと。
この銃撃戦はBBC等の報道から、今年罷免された南スーダンの元副大統領マシャール氏が実施したクーデターによるものとされています。なお、マシャール元副大統領はこの一連の擾乱を去るばきーる大統領による性的排除の粛清として避難している模様。同国のサルバキール大統領は難を逃れたためクーデターは失敗しましたが、マシャール陣営の同調者が反乱軍を組織し、北部の油田地帯でありユニティ州において武装蜂起、同州治安部隊等を撃破しこれを占拠すると共に18日には南スーダンの主要都市であるボル市を占領するに至りました。
ボル市は産油地帯である東部ジョングレイ州の州都で反乱軍は22日までにジョングレイ州を制圧、政府軍部内においても反乱軍であるマシャール元副大統領陣営への合流を宣言する部隊が出るなど情勢は混とんの一途をたどっており、反乱鎮圧へ向かった南スーダン軍との間で大規模な戦闘へ展開し、既に数百人が死亡したとの報道があります。これをうけ自衛隊南スーダン派遣部隊は戦闘による戦災者への首都ジュバ市内での給水支援などを実施しています。また、アフリカ連合や国連は停戦へ向けた仲介を開始した模様です。
現時点で、陸上自衛隊の南スーダンPKO任務は同国の首都ジュバ市内とその近郊での道路及び橋梁の復旧や構築支援や輸送任務、支援調整所運営となっており、このほか今年から自衛隊の任務範囲が拡張され、任務管区へ西エクアトリア州と東エクアトリア州が含まれることとなっていますが、首都での戦闘は散発的となっており、現在、情勢悪化を受け自衛隊のPKO任務はいったん中断し、宿営地を拠点とした情報収集などに重点を置いていますが、戦線が現状の反中であれば、戦闘に巻き込まれる切迫性は幸いありません。
しかしながら、情勢は流動的で予断を許しません。19日にはPKO派遣のインド軍部隊宿営地が攻撃され2名の戦死者を出しており、アメリカ空軍及びイギリス空軍、フランス空軍は南スーダン国内の自国民救援へ空軍輸送機部隊を派遣しているほか、国境周辺の自国民に対し、不可能でなければ隣国のウガンダへ脱出するよう要請が為されています。我が国でも外務省は危険情報を渡航延期から最大度である退避勧告へを転換し既に出していますが、幸い、現在のところ南スーダン国内には政府職員と一部を除きいない、とのこと。
更にPKO部隊へも危険は及んでおり、ジョングレイ州に駐屯する韓国軍PKO部隊はジョングレイ州が反乱軍により制圧されたため、現在韓国軍は包囲されています。これは韓国軍宿営地の市長が既に行政能力を反乱軍に掌握されていることを発表しており、事実上孤立していることを示します。ただ、韓国国防省によれば韓国軍部隊は包囲されているものの現在のところ韓国軍部隊に対して攻撃が向けられていないことから宿営地内において情報収集を実施しており、現在のところ撤退は考えていないと発表しました。
しかし、今後情勢が悪化した場合、2000年のシエラレオネPKO部隊の救出作戦、イギリス軍主体のパリサー作戦のような緊急展開任務が必要となる可能性があります。パリサー作戦、これは英連邦加盟国であるシエラレオネにおいて2000年5月、統一革命戦線が武装蜂起、首都を制圧する反乱事件が発生し、国連シエラレオネ派遣団のPKO要員500名が撤退することも出来ず人質となった事案が発生し、このPKO部隊を救出するべく実施されました。
このシエラレオネの事件では派遣部隊を送り出した西アフリカ経済共同体加盟国軍では対処できず、パリサー作戦が開始されました、即ちイギリス海兵隊が緊急展開し救出した作戦です。今回もこうした事態となる可能性は皆無ではありません。そしてシエラレオネは英連邦加盟国であるためイギリス海兵隊が主体として軽空母や強襲揚陸艦等を派遣し救出作戦が行われましたが、南スーダンは英連邦加盟国ではないため、他のPKO派遣国等を中心として任務を実施することが求められるでしょう。
こうした中で、本日21日、ジョングレイ州へ自国民救出へ向かった米軍のV-22可動翼機3機が地上から攻撃を受け搭乗員4名が銃撃で負傷する事案が発生しています。攻撃を受けたV-22は救出活動を断念し、ウガンダのエンデベ空港へ転進、負傷者はC-17輸送機によりケニアのナイロビへ急送されました。米軍機への攻撃に対し、オバマ大統領はこれを強く非難し、特にアメリカ大使館などの機能維持へ海兵隊緊急展開部隊45名を南スーダンへ派遣しています。
南スーダンは冒頭に記したとおりスーダンより内戦を経て2011年に独立を果たした新国家ですが、その北部、スーダンとの国境地帯を中心に石油を産出するアフリカ大陸屈指の産油地帯を抱えていることから、スーダンとの外交関係や国境地帯などの問題で流動的な要素を抱えていました。2012年4月には南スーダン軍が越境し、スーダン国内のヘグリグ油田を武力制圧、これに対しスーダン軍が反撃し戦闘に展開したほか、国境地帯の緊張状態は続き、国連PKO部隊のヘリコプターが南スーダン軍の誤射を受け撃墜された事案も発生しています。
PKO部隊は国境の平和維持よりはインフラ整備を主目的として展開しています。他方、独立間もない南スーダン軍が重装備を殆ど保有していないのにに対し、スーダン軍は中国製99式戦車や81式小銃、長射程ロケット、中国製J-7戦闘機を保有しているほか、MiG-29戦闘機やMi-35攻撃ヘリコプターなどを装備しています。これは、非民主国家とは石油取引を行わないという日欧米の指針に対し、中国政府が非民主国家との間でも取引を行い独占的な販路を確保するに至り、その見返りとして最新鋭の兵器を販売したことによるもの。
人権抑圧国家とはいっても建前と本音を使い分ければいいのだろうにいったい何をしたのか、と思われる方もいるでしょうが、スーダンは西部のダルフール紛争において2003年以降、実に自国民を40万名以上虐殺しているとされ、民族浄化が今世紀に入り繰り広げられたわけです。民族浄化、40万、これでは流石に日欧米も認める事は出来ません。ただ、スーダンと南スーダンの国境紛争を見ますと、南スーダン側はPKO部隊を政治的な盾とする政策を採っており、感心は出来ません。
南スーダンは産油地域を中心に独立した国ではあるのですが、南スーダンは石油精製施設は不十分であり道路や鉄道網などが未整備でパイプラインも敷設されていないことから石油輸出を行うことが出来ません。他方、南スーダン建国でこの地域の石油はスーダンのような人権抑圧事案が発生していないことから日欧米には取引を行う余地があります。他方で、スーダンとしては産油地帯を削られた形となるもので、このあたりも今回の事案の背景にあるのでしょうか。
こうした状況下で、スーダンから内戦を経て産油地帯と共に独立した南スーダンという国は政治体制がまだ盤石ではなく、更に産油地帯を巡り国境紛争も発生しています。そこに今回のクーデターとこれに続く反乱軍の大規模な攻撃が重なっており、我が国も派遣している自衛隊PKO部隊について、その進退を慎重に考え、部隊への危険が迫るという場合によっては持ち帰れない機材を破壊し、人員のみ撤退する判断についても考える必要は出てくるかもしれません。
現在、アメリカ軍やイギリス軍、フランス軍の救援部隊に加えて、ケニア軍都ウガンダ軍が国境地帯での安定確保へ部隊を投入しています。他方、今回の国連南スーダン派遣任務は国連憲章第七章措置に基づくものとして安保理決議のもと派遣されているため、場合によっては平和維持任務から平和執行任務へ転換することも考えられるかもしれません。こうした要請が国連より為された場合、我が国としてどういう対応を採るのかは、検討する必要があるでしょう。
北大路機関:はるな
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)