◆福島大臣罷免 新しい日米合意へ
鳩山首相は本日、懸案でした普天間飛行場移設問題について、現行の日米合意に基づく名護市辺野古に移設する旨、閣議決定した事を記者会見で発表しました。なお、予定を変更して自衛隊行事予定は暫定的に予備ブログの第二北大路機関に掲載しました。
民主党政権は社会民主党、国民新党との間で連立政権という形を執っていたのですが、今回、基地の国外移設を提唱する社会民主党を鳩山首相は説得することが出来ず、閣議決定に署名を求めたものの閣僚である福島党首がこれに応じなかったことから、罷免する事となり、こうして連立政権から社会民主党は締め出された形となりました。
鳩山首相の日米合意に関する記者会見は福島党首の説得に要した分数時間遅れる事となりましたが、日米合意を日米同時発表させるべく、今回もアメリカのホワイトハウスは日本国内の合意を待ちました。こうして、臨時閣議を経て本日2100時に鳩山首相は記者会見へと臨んだ訳です。
しかし、今回は名護市辺野古に移設することが決定したのですけれども、言い換えればそれだけで、日米合意では遅滞無く代替飛行場の建設方式を、埋め立てかその他か決定する事、環境アセスメント評価を予定通りに行う事、という事が盛り込まれており、まだ全てが解決したわけではありません。
普天間飛行場には海兵隊のヘリコプター部隊が展開しているのですが、この飛行場が太平洋戦争の沖縄戦において焦土となった旧市街地に造成された戦時の応急飛行場であったことで、戦後住民が基地周辺に戻ってきたため頭上を飛行する航空機の騒音や墜落の危険性に対し不安の声が高まりました。
そこで政権交代を果たして昨年の九月に発足した民主党鳩山政権は海兵隊飛行場の国外か県外への移設を提唱したのですが、海兵隊航空部隊は沖縄の第三海兵師団と不可分の運用が為されていて、航空部隊だけを沖縄から遠く離れた場所へ移設することは出来ないという事が難点となりました。
海兵隊を何処か他の地域に移設できないか、ということになったのですが、海兵隊とともに航空部隊を移転させる以上、その海兵隊部隊の地上訓練を行う演習場が無ければ移設そのものが成り立たず、関西空港等単なる空港だけでは移設できない、近くに演習場、それも沖縄の北部訓練場のような大型の演習場に隣接している地域への移設が模索されました。
移設先を模索している最中、中国海軍が沖縄近海において大規模な艦隊演習を実施、海上自衛隊が警戒へ出動したのですが砲の照準を向ける、艦載機を護衛艦に異常接近させるなど挑発的な行動を繰り返し、日本周辺には脅威が健在であるという事が明確に示される事となった訳です。
そもそもなぜ沖縄に海兵隊が展開しているのか、沖縄は中国が武力統一を行う可能性がある台湾、台湾海峡に程近く、第三次大戦の引き金となるだろうと警戒されていた朝鮮半島にも近い場所にあります。海兵隊はヘリコプターを中心として機動運用されますから、沖縄に位置することで台湾、朝鮮半島への軍事行動を防ぐ抑止力となっていた訳ですね。
こうしたことから、逆に海兵隊は直接日本を防衛している訳ではないので、海兵隊は日本には必ずしも必要ではない、という論調も生まれました。しかし、台湾有事に介入できず台湾が占領されれば、台湾を拠点として脅威が日本へ向かう可能性も出てきて、その場合日本は沖縄を最前線に中国と防衛力で向かい合わなければならなくなる訳です。
さて、普天間をどこに移設しようか、と既に日米合意があるにもかかわらず最高賞の構えを行った事でアメリカの日本への信頼は急速に低下してゆきました。そもそも自民党時代にはアメリカのテロとの戦いをインド洋海上阻止行動給油支援により協力していたのですが、民主党政権が樹立して以来これを打ち切ったのですから元々関係は冷え込む進路にあったのです。
元々鳩山内閣は、インド洋海上阻止行動給油支援ではなく、実際にアフガニスタンの復興に資するような直接的な人道支援をアフガニスタン国内で行う計画でした。アフガニスタンは内陸国の山国ですから民主党ではアフガニスタン国内で日本の給油支援が評価されていない事を気にしていた訳ですね。
ところがアフガニスタン情勢は悪化の一途をたどり、流石に鳩山首相を始め民主党が構想していたような自衛隊や民間人の人道支援の為の派遣、という事は到底不可能であった訳でして、戦車や野砲といった戦闘部隊でも派遣しなければ生きて帰る事も難しいような状況となっていました。
さて、アフガニスタンへは高山部への空中機動部隊の派遣や航空自衛隊輸送機の派遣などいろいろな選択肢があったのですが民主党は全ての選択肢を放棄し、日本はテロとの戦いから撤収する、という流れを形成しました。こうして日本はアメリカから不信感を更に深める結果となってしまった訳です。
普天間問題について、幾つかの解決への期限が鳩山首相により区切られたのですが、どれも破られ、その都度、腹案がある、期限は月末、期限は法律で決まったものではない、期限を区切ったつもりは無い、と続け、県外移設が可能であるが如く幾度も国会答弁や記者会見に臨みました。
遅延に遅延を重ねた移設予定候補の絞り込みは、外相から嘉手納基地統合案が提示され、これは嘉手納基地の面積、特に有事の際のキャパの問題と海兵隊回転翼機、空軍固定翼機との運用特性の相違から現実的ではない、と撥ねられたものの首相以外から案が提示されるようになり政府部内が一枚岩でないことが露呈します。
これを皮切りに移設先候補地の乱立が始まり、九州の大村航空基地を拡張して移転する案、佐賀空港を海兵航空基地へ転換する案、静岡県の東富士演習場に海兵航空基地を移設する案、沖縄県外の鹿児島県徳之島への移設案、離島である馬毛島の私有地を基地化する案、中にはハウステンボスの転用案まで出たとのことでした。
政府部内での意見調整を行えないまま、個別に様々な情報が飛び交い、この結果、政権の指導力に疑問がもたれた事で内閣支持率は低下するとともに、予定地の候補として挙げられた自治体からは、住民や首長の意見を聞かずに一方的に突如挙げられた事で、次々と反発の声が上がります。
特に沖縄県には米軍基地が集中していることは確かなのですけれども、北部訓練場が含まれる事で面積は多いものの、第七艦隊と第五空母航空団を抱える神奈川県、第五空軍司令部と横田基地を抱える東京都、海兵航空団が置かれている山口県、戦闘航空団の置かれた青森県など、沖縄以外にも負担はあった訳です。
こうした中で社会民主党は与党の一員として必死にグアムへの移転を模索していたのですが、そもそも沖縄本島よりも遥かに小さなグアム島にはアンダーセン空軍基地を筆頭に数多くの米軍基地があり、しかも訓練受け入れを行っている関係もあり、これ以上受け入れられない、という声が伝わってきます。
政府部内では、台湾海峡や朝鮮半島への緊急事態に日本では責任を持てず海兵隊の抑止力を必要とする事から沖縄への移設もやむなし、という方向へと流れてゆきます。しかし、その決定を行うまでに民主党は当初の日米合意で移設が行われる予定の名護市長選挙に移設反対の候補を支持、結果僅差で反対派が当選する事となり、名護市への移設は難しくなりました。
沖縄県勝連半島、ホワイトビーチ沖合に広大な埋め立て地を築き、長大な滑走路を数本持ち、那覇基地の航空自衛隊とも共同利用できる巨大海上基地を建設できないか、という案が浮上しました。物凄い環境負荷を与えることだけでなく、そもそも普天間飛行場代替施設の完成予定日までに実現できる可能性が無かったことから案は流れます。
埋め立てるのが問題なのならば、内陸部のキャンプシュワブの陸上部分に短い滑走路を建設して運用する、という案が検討されましたが、それでは短い滑走路しか建設できず、ヘリコプターを輸送機で空輸した場合やティルトローター機を運用できないという事とその場合住宅が言おう空を飛行するという事で、この案は流れます。
それならばいっそのこと普天間飛行場の滑走路を短縮して、そうすれば必然的に住宅街から滑走路は離れるので問題は無いのでは、という意見が出されたのですけれども、いくらなんでもそれでは飛行場を移設した事にはならないだろう、という事で、やはり非現実的でした、この案も流れます。
そこで、やはり名護市辺野古沖に建設するしかない、という事となり、しかしながら攻めて自民党時代の合意案とは異なる方法で建設できないか、という、最早殆ど執念と言います海自と言いますか、アリバイ工作と言いますか選挙対策と言いますか、面子と言いますか、方策がいろいろと検討されました。
海上に建設するのならば、普通は埋め立てなのですけれども、それでは珊瑚礁が大変なことになるというので、杭打ち方式で海面と滑走路を放して構造物を建設する案が提示されます、それでは光合成が出来なくて結局サンゴ礁は全滅しますからガラス製滑走路や光ファイバーを通す案が出るのですけれども、これはテロ攻撃に弱いという事で流れます。
海に浮かんでいれば問題は無いだろうという事で浮体構造物メガフロートを海上に浮かべる案が提示されるのですけれども、こちらも弾道ミサイル攻撃を受けて大破した場合の修理が現在の技術では不可能だし、さすがに沖縄の台風には浮体構造物は耐えられないだろう、という事で、こちらも流れます。
辺野古沿岸部に埋立方式で滑走路を建設したい、という方針を漸く定めた事で、鳩山首相は沖縄へ飛び、知事や県民の説得を試みます。しかし、散々ひっかきまわされ、そして県外移設が実現するだろうからと支持したにもかかわらず、やっぱり県内でお願いします、という発言は受け入れられませんでした。
首相は全国知事会を招集して、米軍基地置負担を沖縄県外に求めるべく働きかけましたが、沖縄には自衛隊の施設が無い分米軍の施設がある訳で、誤解を恐れずに記せば自衛隊演習場を含めた防衛用地全体で沖縄県が占める負担は、言われるほど大きく無い、という事が確認される形となりました。
また、既に沖縄の米軍基地からの訓練を受け入れている自治体も多い訳なのですから、これ以上は、という事にもなった訳です。まあ、航空自衛隊や陸上自衛隊の訓練をテニアンにでも移転すれば話は別なのでしょうけれども、現時点でこれ以上を受け入れる訳には、という話になった訳です。
その最中で、朝鮮半島の黄海で韓国海軍の水上戦闘艦が北朝鮮の潜水艇により撃沈されるという事態が発生し、この結果韓国と北朝鮮の間での緊張は極度に増して、それを打開する方策が見つからないまま現時点で状況は進展中、日本の周辺情勢が想定外に悪化してしまった訳です。
こうして、鳩山首相は現行案以外に解決策が無い事、日本周辺情勢がどうにもならない程度に悪化していることから今回の決断へと至った訳です。ただし、前述の通り今回は日米合意に至ったということ、そして連立が解消したということだけで、完全な解決はもう少し時間が必要です。ともあれ、一歩は前進したという事は特筆すべきというべきでしょう。
HARUNA
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