◆ハリアーという選択肢
最初に訂正、信濃について昨日掲載した折、巡洋艦筑紫の話題を出したが、遡る事五年、明治11年に装甲コルベットの扶桑が就役、基準排水量3717㌧で当時の日本海軍最大はこちらであった。
本日は、海上自衛隊の洋上航空機運用体系について、少し記載したい。昨日正規空母の重要性を示して、必要なのであれば、海上自衛隊の装備体系や部隊編成体系に大きな変革を加える覚悟とともに、その可能性を模索云々記載して、本日は、ひゅうが型や22DDHへハリアーを搭載し、軽空母のように運用できないか、という模索は、やや身勝手のようだが、ご勘弁のほどを。
海上自衛隊は、これまでに幾度かハリアーの導入を模索した、とされている。垂直離着陸が可能なハリアーは、カタパルトを有さない小型の母艦からでも発進することが可能であり、しかも改良型のハリアーⅡ+はAPG-65レーダーやAMRAAM空対空ミサイルの運用能力が付与されていることから、航空阻止任務にも対処可能で、米海軍のような大型の航空母艦でなくとも、一定以上の能力を有する軽空母的な艦船とすることが可能だ。
さて、ハリアーであるが、垂直離着陸を行うと著しく航続距離が低下する。原型のハリアーは、垂直離着陸の場合、ペイロード1.36㌧で戦闘行動半径は92.6km、このあまりもの短さで英空軍では欠陥機扱いされてしまったのだが、180㍍の短距離滑走路を用いた場合ペイロード2.27㌧で戦闘行動半径は231.5kmに達するため、英海軍が注目する運びとなった。
こうしてハリアーは、全通飛行甲板型巡洋艦として計画された基準排水量16000㌧のインヴィンシブル級に搭載されることとなる。英海軍では、軽空母にスキージャンプ台と呼ばれる上向きスロープを設置したが、これにより従来の場合燃料と装備4.5㌧を搭載した場合、180㍍で発艦するには222km/hの速力が必要となるのだが、これが130km/hで発艦することが可能となる。
ひゅうが型は、その全長は197㍍であるが、ヘリコプター発着甲板に用いられている部分はそれよりも短く、滑走距離を最大限とった場合で160㍍程度となろう。また、現時点では、スキージャンプ台にあたる発艦補助設備を、当然有していないが、改修して取り付ければ、高いハリアーの運用能力を有することができるといえる。
それでは、ひゅうが型にハリアーを搭載する場合を想定しよう。ひゅうが型の格納庫は、120×20㍍であり、このうち20㍍が整備区画、40㍍がエレベータとなっているので、60㍍の格納部分が残り、二つの格納庫区画に細分化されている。ハリアーは、14×9.3㍍であるから、格納庫の半分をハリアーに充てた場合、整備を甲板で行うとすれば最大限4機、向かい合わせに搭載した場合で3機だろうか。
米海軍の航空母艦の場合は、半分程度を飛行甲板に搭載しており、風雨に曝されることで保守点検の手間は増えるものの、海上自衛隊も甲板上に2基程度を配置する運用を採れば、哨戒ヘリコプターと併せ、SH-60K4機、ハリアー6機を搭載することも可能となる。6機であれば、かなり苦しいものの、2機毎に待機態勢を採る運用も考えられる。
また平時の観念と有事の状況を区別して考える、という方法もあろう。たとえば英海軍のインヴィンシブル級空母は、平時の搭載するハリアーの数は5機を基本としており、有事の際には哨戒ヘリコプターの搭載数を調整し、加えて甲板上に係留する機体を増強し、搭載機を充実させる手法を採っていたが、海上自衛隊もこの方法を採るならば、搭載数は増加しよう。
単純に艦隊防空を考えるのであれば、ハリアーにAMRAAMを搭載し、待機するよりは、イージス艦を増勢したほうが効果的であろうが、イージス艦の防空圏外での戦闘空中哨戒や対艦攻撃任務の面では、ハリアーに軍配が上がる。ミサイルよりも航空機の方が柔軟性が高い点は、陸上の要撃機が迎撃ミサイルに代替されない点がなによりも物語っているともいえる。
現時点で、ハリアーを調達することは非常に難しい。ハリアーは機体形状や超音速性能付与の模索などが現実的に不可能であると結論付けられたことから、後継機には垂直離着陸が可能なF-35Bが導入されることとなったこともあり、イギリスやアメリカでのハリアー生産が終了したためだ。結果、日本国内でハリアーをライセンス生産する以外に導入する方法は無いのだが、これは過去に記事として掲載している。
●http://blog.goo.ne.jp/harunakurama/d/20090811
●http://blog.goo.ne.jp/harunakurama/d/20090812
海上自衛隊は、ハリアーを運用する場合、必然的に航空自衛隊の基地から発進する航空機の戦闘行動半径よりも外側で生じた、日本の死活的利益を左右する状況に対応するための戦力投射手段として運用することを想定するのだが、同時に、平時から、親善訪問や合同演習、災害派遣などを通じてポテンシャルを誇示するという任務にも用いられる。
この点、昨日の記事に、遠方での洋上脅威に対しては、原子力潜水艦などの手段で無力化することができるのでは、という指摘をいただいたが、平時からカウンターバランスとなるポテンシャルを誇示できるのは水上戦闘艦だけであり、親善訪問や一般公開などで、友好国の国民に対してしますことができるのも、また水上戦闘艦のみであることを考えれば、潜水艦よりもこの種の任務には、水上戦闘艦が向いているといえる。
HARUNA
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