◆問われる政府与党の責任
普天間飛行場移設問題の合意期限を鳩山総理は五月末までに、と発言しており、その起源は一ヶ月後に迫っている、という状況です。しかし、普天間問題は軟着陸できるのでしょうか、非常に不安です。
移設先の腹案をお持ちと言う事ですから、徳之島という距離的にも航空機運用上でも海兵隊が許容出来ず、徳之島の面積的にも合意するうえでは必要とされるであろう海兵隊地上戦闘部隊の収容が不可能な案が実は単なるフェイクであり、最近は聞かれなくなった勝連半島ホワイトビーチ沖に長大な滑走路三本を有する巨大埋め立て基地を建設して普天間飛行場と航空自衛隊那覇基地までもを収容する施設を建設する案というのは費用的にも建設期間的にも環境負荷的にも冗談だろう、というように考えているのですがどうなのでしょうか。このまま普天間飛行場を運用継続、という案が自民党時代では考えられなかったのですが現状の民主党政権下では最善となっているようにも思えるようになってきました。日米交渉というものの入口に普天間問題という障壁がありまして、もともとは全然大きくない解決済みの障壁だったのを掘り起こしてしまい、日米関係は普天間問題が解決できない限り何一つ具体的に進めないという状況に陥っています。対米交渉一つ出来ない日本を諸外国も外交交渉を展開するにはその評価を考え直す必要があり、外交が出来ない政府となりつつあります。
名護市辺野古沖が実現すれば最も理想的なのですけれども、名護市の自民党時代における日米合意の実現、埋め立て案が環境負荷の面では最も小さいのかも知れません。環境負荷を小さくすれば名護市辺野古沖でも住民の理解を得られるだろう、という期待から杭打方式で会場滑走路を建設する案を検討しているとのことですけれども、海流は変化しないものの日光は差し込まなくなりますので珊瑚礁への影響は結局出てしまいます。もっとも、予算を増加して滑走路に光ファイバーでも敷設して日光を海面下に照射できるというのならば話は別なのですが、杭打方式で沖合に出せば、その分海面に掛ける負荷は大きくなりますし、これで住民の理解を得られる、という考えは非現実的でしょう。まともな案が無いまま無計画にいろいろと進めていますので与党への不信感は大変なことになり、内閣支持率は20%に急落、総理は与党党首として支持率を回復させようにもこれといった目玉政策はもう無く、考えられるのは幹事長を更迭して党から除名処分にでもしないかぎり支持率回復の兆しは見えてきません。
この状況下にあって、沖縄の海兵隊によるポテンシャルが低下しつつある中で中国海軍は南西諸島近海での大規模な海軍演習を展開、これに脅威を感じたのか台湾政府は大規模な本土防衛演習と長距離弾道弾の開発を再開し、台湾海峡に火種が生まれつつあります。朝鮮半島では韓国哨戒艦沈没事案の背後に北朝鮮による魚雷攻撃説がいよいよ濃厚となり、他方北朝鮮は五月中にも日本海に向けて中距離弾道弾の発射試験を実施する構えを見せています。日米間の揺らぎはそのまま極東の軍事情勢に衝撃を与えており、言い換えれば在日米軍により日本周辺情勢は抑止力の均衡の中で発展を遂げる事が出来たという事を象徴的に示すこととなりました。沖縄の基地不要論を叫ぶ方々には在日米軍が沖縄に居なくとも自衛隊を抜本的に強化し沖縄の15旅団を師団に増強、航空団二個体制を確立させ、台湾を含め日本が責任を持って防衛する、という一言くらいは欲しいもの。
日米間の合意に至るのが五月末まで、という事なのですが、五月末までに具体的な交渉を経て、ということは非常に難しい、という印象です。腹案を出すにも住民との意見調整を行う時間は最早殆ど無く、ようやく来月四日に沖縄を訪問する鳩山総理ですが、土下座してでも現状の移設合意がある名護市か普天間飛行場がそのまま維持された場合での宜野湾市から合意を受けるのでなければ、日本案を集約してアメリカとの交渉のテーブルに着くことすらも不可能、という状況でしょう。現実的にこれが出来なければ総辞職するか、支持率が限りなく0に近い状態での政府、という形にならざるを得ないでしょう。あと一ヶ月、しかし、具体的な案は名護市の案を除けばあて馬ばかり、これを背景に日本の周辺情勢はどんどん緊迫度を増しています。こうしたなかで、文字通り与党としての責任を問われている、という状況になっている訳でどうにかならないのか、焦燥感を感じます。
HARUNA
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