◆海上自衛隊護衛艦定数は10隻増強方針
NHKや時事通信の報道によれば、年末に閣議決定を目指す防衛計画の大綱改訂について、護衛艦10隻の増勢と本土配備戦車全廃100両削減という方針が示されました。
戦車の本土配備廃止という決定には驚きましたが、105mm砲を搭載する機動戦闘車が約200両配備され、90式戦車と10式戦車は北部方面隊と西部方面隊へ集中配備、本土の師団戦車大隊は1:1で74式戦車から機動戦闘車に置き換えられることとなるようですが、こちらについては後ほど。
戦車を100両削る半面、海上自衛隊は大幅に強化され、護衛艦は10隻の定数増強となります。現在の防衛大綱定数は48隻、ここに10隻が増強されることで58隻となり、90年代前半の護衛艦数最盛期の63隻に準じる規模となります。また、58隻の護衛艦を将来にわたり維持するには毎年2隻程度を建造する必要が出てくるのですが。
これについては、別稿に挙げようと思いますが、冷戦時代に大量建造され、活躍している護衛艦はつゆき型の後継として、護衛艦定数削減のたびに一隻当たりが大型化している護衛艦にたいし、3000t前後の米海軍沿海域戦闘艦のコンセプトにあるような艦艇を導入する構想とされます。沿海域戦闘艦は現時点で失敗と言わざるを得ない状態ですが、コンセプトをある程度入れ、新しい体系を構築する、というものなのでしょう。
ヘリコプター搭載護衛艦は、いずも型とともに全通飛行甲板型護衛艦が四隻揃い、潜水艦定数は前回の防衛大綱改訂により16隻から22隻へ増勢され、既存潜水艦の延命改修が開始されますので、当面は維持されるものと考えられ、護衛艦に加え潜水艦の規模と共に海上防衛力は非常に高い水準となります。
更に航空自衛隊へグローバルホーク無人偵察機の導入が方針として示される模様です。戦闘機定数については言及がないのですが、今後、仮に増勢という方針が検討されるならば、世界のF-35導入計画にも好ましい影響は出てくるやもしれません。
他方、グローバルホークの導入ということは即ち、無人機の運用基盤、通信と情報面で整備されるという事となりますので、戦闘機としての能力を有する無人機、MQ-9やX-45のような無人機を運用する基盤をも整備することとなります。これは大きな一歩でしょう。
さて、陸上自衛隊。陸上自衛隊へは、五個方面隊を統合指揮する陸上総隊の新編、陸上自衛隊の本土配備師団を機動師団として全国への緊急展開に対応する編成へ転換、島嶼部防衛戦に備える水陸両用部隊として水陸両用団の新編、更にMV-22可動翼機の導入などが盛り込まれると報じられました。
陸上総隊は、航空自衛隊の航空総隊にあたる新組織で、記事には併せて西部方面隊隷下の第8師団を筆頭に機動師団への転換を行う、という表現が為されていたため、一時期検討が報じられた方面隊制度の廃止に依拠した陸上総隊の創設ではなく、方面隊の上部組織として配置される模様で、これは陸上自衛隊の運用面からの悲願とされています。
方面隊は残る、という明示は為されていないのですが、仮に廃止されるのであれば、方面隊直轄の部隊、例えば方面航空隊などは包括運用するために70年代に言われていたような陸上自衛隊航空集団の話が出ていなければなりませんが、そうした話は聞きませんので、上部機構が出来る、という理解が合理的です。
戦車の本土配備終了についてですが、恐らく北部方面隊と西部方面隊へ戦車輸送車と戦車回収車を集中配備するということでしょう。逆に言えば戦車輸送車や戦車回収車を必要としない機動戦闘車は、防御力と不整地突破能力で戦車に対して不安が残るものの、この点が利点ということになります。
演習は兎も角実任務で機動戦闘車が戦車の大隊を担えるかはまだ新開発の装備であり未知数ですが、機動戦闘車への完全置き換えで11式装軌車回収車と90式戦車回収車を北海道と九州に集約し、本土の後方支援連隊に編成されている戦車直接支援中隊や補給隊の負担を減らし、戦略機動能力を高めることが狙いでしょうね
。
戦車300両だけで国土を守れるのか、と問われるかもしれませんが機動戦闘車200両が明示されています、戦車300両と併せ機動打撃の根幹車両を500確保する、というかたち。これは機動戦闘車200両を本州の東北方面隊と東部方面隊に中部方面隊に集中配備する、という意味にもなる。
それでは200両の機動戦闘車はどう配備されるのか、と言いますとこれは本州の戦車所要で観た場合、戦車大隊が9戦、6戦、1戦、10戦、3戦が各二個中隊で十個中隊140両、それに旅団戦車中隊で13戦と14戦に二個中隊、12戦を再編成する話もあるので併せて三個中隊42両、併せて本土の戦車所要は182両だから、機動戦闘車が200両あれば数の上で置き換えは可能でしょう。
戦車300両の配分ですが、現在のところ機甲師団である第七師団の編成は維持されるようです。その上で北部方面隊と西部方面隊に集中配備される、ということでしたので、北部方面隊は第7師団の戦車連隊から連隊を構成する各一個中隊づつ削減した場合で戦車所要数160両、となります。
機甲師団で戦車160両は少々物足りませんが、戦車連隊は他の戦車大隊の二倍程度の編成ですので、総合的に機動打撃力としては問題ありません。他方、今回の“本土からの戦車全廃”方針は、当然戦車が維持される富士教導団戦車教導隊や東部方面混成団第一機甲教育隊の存在が省かれていることが分かり、大綱定数外に一定数の戦車が教育所要として維持されることが分かります。
こうしたうえで、2戦車を連隊編成から大隊に再編し、二個中隊編制に置き換え、5戦車と11戦車の大隊編制を旅団戦車中隊へ置き換えると所要四個中隊で、西部方面隊の戦車所要は4戦と8戦に四個中隊、機甲師団所要160両を除いた戦車定数の残り140両なので、丁度10個中隊所要となります。
普通科部隊の戦闘団を編成した場合の、特に本土師団の打撃力は、戦車が機動戦闘車に置き換わるということで若干の不安は否めないのですが、普通科連隊は中距離多目的誘導弾が各普通科中隊の対戦車小隊へ配備され、これは従来の87式対戦車誘導弾よりも射程が数倍に延伸し、レーダーと熱画像映像により多目標同時射撃を可能としており、対戦車能力は強化されます。
01式軽対戦車誘導弾に加えて多用途ガンとして84mm無反動砲の新型の配備が開始されているため、普通科部隊の火力全般ではかなり強化されている部分があります。変な話ですが、戦車の縮小により失うものよりも、全般的に多数の装備が導入されている印象があります。
来年度予算で開発開始予算が盛り込まれる新装輪装甲車が全国の普通科連隊へ配備が実現すれば全国の四個普通科中隊の普通科連隊は、軽装甲機動車中隊×1、新装輪装甲車中隊×1、高機動車中隊×2、重迫撃砲中隊×1、中距離多目的誘導弾16セット、ここに155mm火力戦闘車が4門、機動戦闘車が4両、こんなかたちになってゆくことに。
一つ気になるのは、防衛大綱改訂のたびに戦車と同数に縮小されている火砲の縮小という話が今回出ていないなあ、というところで、まあ、特科は対砲兵戦を火砲以外の大綱定数外装備、例えば長射程精密誘導弾等を装備すると余計高くつきますし、情報中隊の対砲レーダ装置など、火砲以外の装備の比重がかなり大きいので、安易に火砲を北海道と九州に集中させることはできないのですが。
しかし、戦車定数の話ばかりが出ていて、特科火砲の話が出ないというのはある意味不思議な気がしますね、まさか増える、ということは無いと思うのですが、仮に若干数縮小し、特科連隊が全て特科隊に縮小された場合でも、火力戦闘車の開発で全特科部隊の自走砲化が始まりますので、質的向上は凄いことになります。
他方、気になるのは陸上自衛隊の師団を機動師団へ転換する、という報道のみある事でして、逆に言えば旅団の立場はどうなるのでしょうか。警備管区を持つ以上、結果的に自衛隊草創期の管区隊と混成団、警備管区を持つ管区隊と機械化して機動運用する混成団、という方式を現在の旅団は継承していないわけだし、実質的なミニ師団とするよりは、扱いを考え直した方が、と思ったりもする。
ここからは、榛名案(ビック自衛隊のマキシマム防衛計画についてエターナル語る)、第5旅団(道東)・第11旅団(道南)を統合し第五師団再編、第1師団(首都)・中央即応集団を統合し大臣直轄第一師団へ再編と第1師団の静岡山梨警備管区を第12旅団へ統合増強し第十二師団再編、第13旅団(山陽山陰)・第14旅団(四国)を統合し第十三師団再編、第8師団島嶼部警備管区と第15旅団(沖縄)と統合し、第十一師団へ再編、旅団は全廃され、全てが調和する。
なにやら本稿締切となる零時も近くに急に収拾のつかない話題を始めてしまいましたが、細部は、10連隊を11旅団から2師団へ編入して甲師団化し、5師団は残る五個連隊のうち四個を残し甲師団化させ、浮いた一個連隊を西方へかつての24連隊ではないですが、転用する。
1師団は普通科連隊を中央即応連隊に準じた編成として、防衛管区を東京近郊に特化させつつ緊急時には機動運用を視野に含む。そして12旅団へ1師団から34連隊を編入させ甲師団化、13師団も山陽山陰から一個連隊を西方へ転用する、もしくは8連隊を3師団へ編入させ3師団を甲師団化する。
各旅団戦車中隊は二個中隊基幹の戦車大隊へ転換できる、施設隊や通信隊も二つ加われば大隊編制に戻ることが出来るとか、さっと考えてみた。旅団普通科連隊と師団普通科連隊の中隊数の違いや重迫撃砲中隊とかどうするのか、考えていませんでしたが。こうすれば、全て機動師団に改編できますし、師団と旅団の混在というアンバランスから脱却できるでしょう。
さて、最後の最後に大脱線しましたが、戦車定数と機動戦闘車の集中配備の構想は、後方支援の面からかなり評価できるものといえます。このほか、どのような防衛大綱となるかは未知数ですが、少なくとも限られた予算と厳しい財政状況を背景としても、核たる防衛力整備の覚悟と姿勢は見えてきました。
北大路機関:はるな
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