◆旅団規模の展開能力強化と総合戦闘能力を訓練
四国善通寺駐屯地に司令部を置く第14旅団は、6月24日より北方へ機動する第一次協同転地演習を行い、これを完了し四国への帰投を開始しています。
厳密には機動展開は撤収までが訓練なので官僚では無いのですが、海空自衛隊の輸送艦や輸送機による協力は勿論、鉄道貨物輸送、民間船舶の協力を受けての展開演習を完了して、再度四国へ撤収を順調に行っており、8月2日までに各所属部隊の駐屯地へ撤収を完了する予定のもと、行動中です。
協同転地演習は、もともと北方機動演習と呼ばれ、本土の部隊を有事の際に北海道へ緊急展開させ、北海道の防衛力を急速強化するという目的で冷戦時代より行われてきた北方機動演習は、冷戦後の今日では陸上自衛隊の全国への展開能力を強化するという積極的目的に発展して、行われています。
今日では本土の部隊を北海道に展開させる要領の修得と演習場環境に恵まれた北海道での大規模部隊による実動演習を行うという意義、そして北海道駐屯部隊を中心に本土に急速展開させ、強力な機甲部隊を以て危機に対処するという協同転地演習に名称を改めま、今日に至ります。
冷戦終結後、北海道へ師団規模の大規模な着上陸が想定されるという可能性は著しく軽減したものの、日本周辺では朝鮮半島、台湾海峡は勿論、わが国の南西諸島までもが潜在的な脅威を受ける地域となっており、全国へ機動展開し、対岸や直接地域へ類が及ぶ事を抑止する観点から、この種の訓練の重要性は高まっています。
また、東海、東南海、南海地震や南関東地震等政経中枢地域での広域災害のリスクを常に背負っている日本としては、如何に自衛隊が即応し、民間復興に繋がるまでのインフラ復旧を迅速に行い、完了するか、という意味からも機動能力と広範な配置は不可欠となっており、これらを支える要領の取得という意味でも協同転地演習は重要です。
昨年度は名古屋の第10師団が7000名規模の部隊を北海道に展開させ、一方で第二次演習として東千歳駐屯地の第7師団が本州に展開しました。本年は第一次演習の第14旅団に続いて、第二次演習として東北方面隊の神町第6師団が第二次演習を実施する事となっています。
今回の第14旅団による協同転地演習は、訓練の最中に旅団長が第4代井上武陸将補に交代するという状況で行われ、指揮命令系統の引き継ぎといった従来行われない面での経験も蓄積することが出来たのでしょうが、その分、第14旅団としては厳しい経験と自信の蓄積が出来たのではないでしょうか。
一方で、今回の訓練ですが、陸上自衛隊は冷戦後の規模縮小と戦車部隊や特科火砲部隊の縮減の一方で装甲車両の充実による戦闘消耗の低減と部隊機動力の向上を目指した車両化を進めてきました。今年度までの改編を以て遂に陸上自衛隊の全普通科連隊が自動車化、装甲化を果たしたとも報じられる一方で、車両数の増加はこの種の訓練に課題を投げかけています。
それは自衛隊の輸送力です。車両化されていない時代であれば、おおすみ型輸送艦は短期間であれば戦車中隊とトラック数十両を含め1000名の人員を輸送することが出来たのですが、高度に車両化された今日の連隊は師団普通科連隊の編成で車両数は100両に達する規模があり、海上自衛隊の輸送艦による輸送能力では到底追いつかないのが現状です。
この点、民間カーフェリーの輸送能力の大きさには驚かされるものがあり、実質、車両化された一個普通科連隊と戦闘団の車両を一隻で充分に輸送する能力があります。このあたり、自衛隊での輸送能力には限界がある事も確かで、民間との協同も演習の最も重要な基幹部分の一つを占めているという事が出来るでしょう。
HARUNA
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