◆八八艦隊か巡視船群か
近年、中国海軍が大量建造している056型コルベットが東南アジア地域の島嶼部沖に大挙出現し、東南アジア諸国海軍はその体制の転換を強いられています。
海上自衛隊は専守防衛を掲げ、我が国周辺での海軍力による軍事的挑戦に対し有利な装備と運用体系を以て警戒に当たっています。特に、冷戦期に大型水上戦闘艦と取得費用で匹敵する対潜哨戒機を100機調達したことで、海空両面での優位を担保する装備体系が確立しており、この点で水上戦闘艦と一部の潜水艦に偏重した周辺国の海軍力とは違いが際立つところ。
一方で、我が国は海洋国家故のシーレーン防衛という防衛上の重要課題を掲げつつ、専守防衛という我が国土に敵を迎え撃つという防衛政策を国是としています。ここで冒頭に掲げた056型コルベットの影響が顕著化しているわけです。056型は満載排水量1340t、艦砲と自衛用短距離ミサイルを中心とした小型水上戦闘艦艇で海上自衛隊ではミサイル艇はやぶさ型と除籍された護衛艦いしかり型の中間に当たる艦艇ですが、安価であるため2012年の一番艦進水式いらい23隻が就役乃至建造中です。
056型は外洋哨戒艦に対艦ミサイルを搭載した程度、即ち能力的には潜水艦や本格的な水上戦闘に対応し得るものでは性能面から厳しいものがありますが、兎に角数が多く、アジア太平洋地域においてこの高速度の建造に対し物量で対抗し得ているのは我が国海上保安庁だけです。
海上保安庁は尖閣諸島周辺での中国海警船艇の行動増大に合わせ、総トン数1700tの巡視船くにがみ型の大量建造を進め、2012年の一番船建造開始以来18隻もの数を就役建造乃至計画中です。巡視船とコルベットの相違はありますが、共に平時の運用では外洋哨戒艦と巡視船は共通点も多く、数では唯一対抗できているというべきでしょう。
しかし、シーレーンの延長上における東南アジア地域には海上保安庁の協力にも限界があるため、政府開発援助の延長線として巡視船提供を熱望し海軍機構とは別の海上法執行機関を創設し武器輸出三原則の枠外にて日本からの巡視船を望む動きはありますが、重ねて民主党政権鳩山内閣時代に開始された友愛ボートとしての海上自衛隊輸送艦の親善訪問や練習艦隊の親善訪問を大きく歓迎し、日本の影響力を間接的に以てして中国からの圧力を何とか避ける方法を模索するなど状況は深刻と言わざるを得ません。
海洋国家日本の大きな問題点は、シーレーンが我が国排他的経済水域を遙かに超えて延伸している状況下で、平時におけるシーレーンに近接する諸国間が求める海洋の自由の保障が一つの国により海洋の占有へ転換しようとしている状況下、グレーゾーン事態というべき状況が生起している中で対応できる選択肢が非常に限られてしまっているところで、状況が武力紛争に発展し我が国へ直接被害が及ぶ状況までは如何なる選択肢が採られるのかについても不明確となっているところ。
現況で中国が進める砲艦外交に対しては、周辺国との親善訓練を強化するなどの方策を以て海洋自由の国際公序への中国の参画を進め、日中友好とアジア友好へつなげるほかありません、実力が全てという政策を進める中国がこれ以上孤立しないように軍事的冒険を選択肢から除外させる協調の方策を求める際、東南アジア地域と海上自衛隊との防衛協力を進め国際公序の連環を強める事で軍事的冒険を選択肢現状変更を求める選択肢を採れない状況を醸成するほか方法が無いためです。
この場合、南シナ海海域での日本と東南アジア諸国との協力体制を更に深化させる施策として、定期的に象徴的な規模を有する艦艇、具体的にはヘリコプター搭載護衛艦、中でも全通飛行甲板型護衛艦を派遣し、共同訓練、これは防衛目的を正面に出さずとも協力関係を推し進め信頼醸成に資する体制を構築する目的が背景にあるのですから、特にアジア地域において防衛と並び安全保障面での価値観を共有しやすい巨大災害への対応と協力体制というものも含めて、進めてゆく選択は考えられるでしょう。
一方の選択肢としましては、海上保安庁の多国間協力体制を大きく進めると共に警察比例の原則の範囲内においてまた海上保安庁設置法と自衛隊法の関係はありますが、万一の際に自衛用の装備を追加搭載し得る程度の体制を構築したうえで、憲法上の制約の無い海上保安庁の海上法執行機関としての多国間協力体制を構築する、考え得る選択肢はこうしたところでしょうか。
東南アジア地域の友好国との間での海上法執行機関同士の協力を進めるという意味での多国間協力は、現行憲政下でも大きな問題は無く、また海洋法執行機関同士の協同巡回に対し、現状では海軍が運用する056型コルベットが軍事圧力をかけた場合、海上自衛隊という次の段階に一挙に状況と緊張が進まないよう対応する緩衝にも成り得る点もこの選択肢の利点の一つ。
現状の緊張は今までの放置して情勢の沈静化を待つ方式では逆に緊張が増大し、武力紛争に発展し、状況が我が国まで及ぶほどの非常に大きな状況に陥るまで、対応できず、特に近年のアメリカによる多国間安全保障面での協力を軍事面で非常に抑制的とし、紛争が武力紛争へ展開した場合でも対応が遅く小規模にとどまる現状では、現在の危惧を放置とした場合のリスクは高まるばかりと言わざるを得ません。
こうなりますと、海上自衛隊と海上保安庁の双方の特性を、海上自衛隊と海上保安庁の任務を維持しつつ、我が国の国家戦略としての海洋安全保障政策と国際安全保障政策に連関させる必要が大きく、平時と有事にこの命題を一つの政策として推進する慎重さと大胆さが求められるようになった、と考えるところです。
北大路機関:はるな
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