◆精鋭部隊によるイーグルの機動飛行
前回着陸を行ったイーグルですが、編隊飛行の次に新田原航空祭の展示を行うのもイーグルでした。
飛行教導隊のF-15,独特の迷彩が施されているこの部隊こそが日本最強のイーグル飛行部隊で、全国の部隊に対し最高度の技術を以て仮設敵を担う飛行隊ですから、この部隊は、日本最強部隊でなければその役割を始めることも出来ないという重責と共に日々の訓練に当たっています。
航空自衛隊ですが、先進国の空軍装備体系を俯瞰しますと恐らく航空優勢確保に此処までの重点を置く空軍機構は、我が国の航空自衛隊だけではないか、と思います、装備体系はもちろんですが、訓練体系も航空優勢確保にものすごく大きな重点を置いている。
航空自衛隊が先進国で最も航空優勢確保に重点を置いているという根拠は、航空自衛隊の要撃部隊が、F-15飛行隊七個とF-4飛行隊二個にF-2飛行隊三個と、半数以上がF-15飛行隊というところからも端的に表れています。F-15Jは制空戦闘型の米空軍F-15Cの日本仕様ですので、文字通り防空専任というもの。
空軍の任務は防空戦闘による航空優勢確保、航空打撃力として敵基地機能の破砕、対艦攻撃や対地攻撃での航空阻止を行う、近接航空支援による陸上支援、戦闘機部隊についてはこの四つが任務でしょう。国土の防空は前半二つによって成し遂げられるのですが、航空自衛隊は敵基地無力化を任務としてほとんど考慮していません。
我が国土防衛の手段として、敵基地ごと戦闘機や爆撃機を破砕し、その安全を図る、これは第三次中東戦争でイスラエル空軍が達成したように選択肢としては有力な一案ですけれども、憲法上日本ではこの選択を散り得ない、そこで航空優勢確保のための制空戦闘機の整備に注力してきました。
この装備体系としてのF-15は、一応爆弾の搭載は可能ですが、主としてこの任務は米空軍ではF-16と戦闘爆撃型のF-15Eの任務となっています、一方で世界の航空装備体系を見ますと対地攻撃能力と空対空能力を半々程度に重視した戦闘機が大半です。
戦闘機として空対空戦のみを重視しているのはF-15CとF-15J,イギリスで引退しイタリアとサウジが併せて50機程度を運用するトーネードADV、冷戦時代の各国で活躍したF-104は防空専用の性能ですが最後の機体がイタリアで引退しましたし、米本土防空専用のF-102もF-106もNASAで最後に残った支援用の機体は1998引退、このほかは思いつくところでソ連製MiG-31とその原型となるMiG-25くらいではないでしょうか。
このように防空専用型で対地攻撃をほぼ考慮の外においている機種というものは非常に少なく、機種さえも少ないのにこれを主力としている航空自衛隊は防空重視の、どちらかというと航空自衛隊よりも防空自衛隊と称したほうが相応しい装備体系となっていることに気づかされるところ。
ただ、特異な例として航空自衛隊の編成が挙げられるのですが、一歩引いてみますと、防空重視は敵基地を叩かないという運用であり、言い換えれば全面戦争を最大限回避するという運用であるやもしれません。例えばフォークランド紛争ではイギリスはその能力がりながらアルゼンチン本土を叩かず、限定戦に徹していました。
これは重要な点でして、冷戦時代、特にF-15を選定するまでの日本は事実上の仮想敵をソ連としており、日本有事に際し敵基地を叩くという事はソ連本土の基地を叩くこととなり、これは全面戦争になることを意味します。さすがに内陸部を含め全面戦争を行うのは能力的に限界があったのではないでしょうか。
NATOは航空打撃力重視の編成でしたが、敵基地を叩く場合でも東欧以東を叩く可能性が少なかったことを考えれば、ソ連本土を叩き全面戦争に展開することは、まずすべてのソ連軍基地を叩くには米軍なみの戦力が必要でもあり、不可能だった、ということ。この点を考えれば制空戦闘機重視の編成は冷戦時代、一定の説得力があったといえます。
航空自衛隊の現在の編成ですが、一方で冷戦後の今日となりますと、もちろん本土防空の重要性は変わらないのですけれども、その手段として策源地攻撃が検討されることとなりました、これは主として北朝鮮の弾道ミサイル危機を契機として、1998年頃から広く討議されることとなりました。
一方で、策源地攻撃、これは弾道ミサイル防衛の技術が途上の時期に、本土を防衛する手段が我が方での迎撃のみによって達成できる見通しが立たなかったことに起因するもので、それならば敵の発射施設を叩くしかない、ということになり考えられたもの、冷戦時代もSS-20を筆頭に弾道弾脅威はあったのですけれども。
日本では今日、弾道ミサイル脅威が北朝鮮以外からも投射される実情に好むと好まざるとに関わらず、注視しなければならない時期が近付いています、時期とは、ですけれども仮に南西諸島防衛に際して先方がその威力を提示した場合、これはその時期、という事になるのでしょう。
しかし日本の場合に分が悪いのはNATOとして集団的自衛権の行使を目的とした同盟条約に基づいて、多数の航空打撃能力を整備する、という事が憲法上の問題もありますが地政学的に頼ることが出来る近隣の同盟国が無い、ということでしょう、我が国周辺には同程度の国力と技術力を持った国がありません。
この事実が意味するところは、日本が制空戦闘機偏重の編成を、支援戦闘機のような対地攻撃能力重視の体系へ置き換えるという施策を行ったとしても、航空機の絶対数が少ないため、比率の転換だけでは覆うことが出来ないという問題を認識しないわけには何も解決しない、ということ。
これは歴史をやり直せるならば、台湾や韓国との政治的関係の強化や装備の共通化などを行うべきだったかもしれませんが、日中関係がここまで悪化するという事を共有知識として政治の意思決定過程に内部化することが出来なかった点に根源を見出せるのですから、今更こうした話はどうにもならない。
ううむ、難しい問題を前に防空を考えてゆくのですが、戦闘機は現在の数がどうしても必要となります、一方、新戦闘機は、例えば機体が比較的低い調達費用で、もしくは維持費用が低い機体で数を揃える、こうした選択肢も有り得たのではないか、とも考えてしまいました。
と、まあ、このように迫力ある機動飛行の撮影をしつつどうしてもこうしたことを考えてしまい、その写真を見返すと共に今現在も、こうしたことを考えてしまうところです。一方で部隊紹介や装備紹介のネタを使ってしまったので、こうした内容の記事となったのでもあるやもしれませんが、こんなところで機動飛行が完了し、着陸しています。
北大路機関:はるな
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