◆防衛予算2011
平成23年度防衛予算について、昨日に続き本日も装備品の調達概要をみてゆきましょう。
前回は航空自衛隊や海上自衛隊の装備が中心で、その削減幅も大きくはなかったのですが、今回の陸上自衛隊装備は大きく概算要求から削られています。憲法九条の下で軍事力と脅威を無いものとして専守防衛を貫く我が国が現実に引き戻されるのは開戦即時本土決戦の瞬間、これで大丈夫なのでしょうか。
誘導弾関連、火器、火砲、車両について陸上自衛隊と航空自衛隊の装備が来年度どれだけ調達され更新されるのかをみてゆきます。全般的に陸上自衛隊の車両は除籍数が調達数を大きく上回っている状況で、これだけの数しか調達できないのならば、生産終了となった装甲戦闘車のような車両を思い切って要求してみては、とも考えます。
誘導弾関連。陸上自衛隊は03式中距離地対空誘導弾が1個中隊215億円で、認められ、新装備の11式短距離地対空誘導弾が1セット要求を3セットに増強され66億円。96式多目的誘導弾システムは12セットが1セットとなり25億円で認可。中距離多目的誘導弾は要求通り12セットが46億円で取得となります。
03式中距離地対空誘導弾は旧式化したホークの後継として配備が進められているものです。改良ホークも改善3型はかなり能力が向上しているとのことなのですが、根本的に新設計の本装備はさらに上を行く装備といえるでしょう。なぜかこの射程のミサイルはこれだという外国製装備が稀有なものです。
11式は81式短SAMの後継装備となるもので、11式として制式化されたようです。96式多目的誘導弾の調達数削減は厳しい結果となりました、甲立つ終了も中距離多目的誘導弾の開発で間近なのがみえるのですが光ファイバー誘導による間接照準射撃が可能で離島防衛には重要な装備です。
中距離多目的誘導弾の調達が開始されたのですが、この任務区分は対戦車隊のように運用するのか、普通科連隊に配備するのか。そして、01式軽対戦車誘導弾はどうなったのでしょうか。戦車が縮小され、他方で日本周辺では機甲脅威と経空脅威が大きい以上、ミサイルに関する調達も重視してしかるべきなのだろう、と考えます。
ただ、まあ、対戦車ミサイルがあれば戦車は不要、という論調が過去に遭ったのですが、これは明確に反対します。ミサイルは木立の中や市街地の電線に安定翼が引っ掛かってしまい、誘導が出来なくなりますので甲初速の直接照準による戦車砲を代替できるものは余りないのですが。
航空自衛隊の誘導弾関連は、ペトリオットミサイルの取得が93億円の要求に対して91億円、この数字にPAC-3は含まれていません。ペトリオットミサイルシステムの改修は今回の防衛予算では要求されず、基地防空用地対空誘導弾が教育用一式の取得が45億円で承認という事になっています。
BMD関連ではペトリオットシステムの改修と定期整備が206億円で認可されました。ペトリオットミサイルはミサイルシステムの新規取得では無くミサイル本体の取得ということでしょう。基地防空用地対空誘導弾は基本的に陸上自衛隊に装備される11式短距離地対空誘導弾を元に開発されたというものです。
ペトリオットシステムの改修は前年度6セットが認可されているのでしょうが、終了した、という事なのでしょうかね。弾道ミサイル防衛関連は航空自衛隊ではPAC-3とデータリンクの方に軸が置かれています、形には現れないものですが、これが達成されるか否かでその能力が発揮できるかが表面化する訳ですね。
陸上自衛隊の火器について。9mm拳銃が137丁0.3億円で満額承認、全年度は1004丁取得されています。89式小銃は10033丁が要求通り29億円で取得、全年度の10012丁とほぼ同数です。対人狙撃銃は91丁が1億円で取得、全年度は105丁でしたのでほぼ同数。
5.56mm機銃MINIMIは265丁の要求に対して212丁を4億円で、前年度は123丁取得されています。12.7mm重機関銃は118丁の要求に対して113丁が6億円、全年度は123丁が認可されてます。機関銃については要求数はかなり認められレイル、といい事が出来ます。
近接戦闘に不可欠の小銃や機関銃は基本的に認可された、と言って差し支えないでしょう。89式小銃は生産数を大幅に増強した上で継続されていますが、まだまだ戦闘支援職種や一部の戦闘職種には64式小銃が残っています。9mm拳銃については、警備用と近接戦闘用にもう少し多くても良いとは思うのですが。
火砲。81mm迫撃砲L-16が5門の要求に対して大幅に下方修正され1門が0.2億円で予算承認。120mm迫撃砲RTが4門の要求に対してこちらも大幅に下方修正されて1門のみが0.4億円で予算承認となりました。99式自走155mm榴弾砲は9門の要求に対して6門が57億円で予算承認前年度は9門が調達されています。
迫撃砲の調達数下方修正が著しいですね、メーカーに対して生産ラインを維持してほしい、というだけの調達数にも見えなくはありません。精度こそ榴弾砲には及びませんけれども、特科火砲に含まれない重迫撃砲は今や普通科連隊の支援火力に欠かせない装備です。
しかし、重迫撃砲は師団普通科連隊では重迫撃砲中隊が編成されているのですが旅団普通科連隊では編成を縮小しているため本部管理中隊に重迫撃砲が配備されています。編成も小さく、火力も小さい、もちろん対戦車中隊もありませんし、これもなんだかなあ、と。
99式自走榴弾砲についても75式自走榴弾砲の除籍が続いており、更新は急務です。しかし、なんといいますか、特科火砲が400門に修正されたのですから、99式自走榴弾砲に集中し全般支援火力を重視し、加えて自走榴弾砲による集中と分散による少数運用を行うべきなのでは、と思ったりもします。
ただ、99式に集中してしまうと特殊大型車両扱いになって移動は夜間だけになってしまいますからFH-70榴弾砲のように74式特大トラックを原型とした中砲牽引車により昼間に堂々と長距離起動できなくなります。・・・、すると重装輪回収車を元にした自走砲を開発、という事になるのでしょうか。
車両。10式戦車16両の要求に対して13両が認可され132億円で調達、全年度と同数です。軽装甲機動車は107両の要求が半減され56両が17億円で、全年度の93両と比べても大幅減です。96式装輪装甲車は要求通り11両が13億円で、しかし全年度の17両とくらべ、かなり縮小されています。
90式戦車の配備数も少なく、74式戦車を置き換えられるのか、という事が問題視されていましたが、それでも最盛期には30両が生産されていた時代もあったはずで、これに対して、生産が開始されたばかりなのですから一概には言えないですけれども、生産数が量産効果に繋がりますので、心配ですね。
74式戦車は50両や70両生産されました。しかし、その分一斉に耐用年数を迎えているのですから急速に数は除籍により縮小されていますから、10式戦車が必要な訳ですけれども、戦車定数が400両に下方修正されたとはいえ、すぐに縮小を完了する必要はなく、逆にいえば数が減った分、質的向上は不可欠な訳ですから、10式も生産数はもう少し考慮されていいのでは、と。
87式偵察警戒車は要求通り1両が3億円で、しかし全年度の3両と比較して縮小。NBC偵察車は11両の要求に対して僅か2両が14億円で認可されたのみ、全年度の初期生産数3両よりも量産数が縮小されました。このほか車両・通信機材・施設機材等が650億円認可。航空自衛隊では軽装甲機動車9両が3億円で認可、全年度の26両にたいしてこちらも大幅削減です。
10式戦車の下方修正は以前からは為されていた事なのですが、軽装甲機動車の大幅削減は普通科部隊の機動運用の足を殺ぐものでして、ヘリコプターの取得数も少ない中、どうやって機動運用を実現させるのか、という事が危惧されるというところでしょうか。
加えて将来装輪装甲車体系の鏑矢となるNBC偵察車が要求11両に対して2両のみ認められた、これでは大量生産により価格を縮減し防衛費の抑制を行う、という目的すら果たせられそうにありません、ううむ、他の装甲車もこれで高価格になってしまわないでしょうか、開発前に早すぎる心配ですが。
装備品は、少数長期間調達を行うよりは短期集中調達を行うのが望ましいのですが、これを行ってしまいますとメーカーのライン維持や消耗品の生産に影響が出てしまいますので、一概にいいとは言えません。すると、極力規格化し、基本部品の相互互換性を高める事ではないでしょうか。
他方で現在は一個師団や一個旅団を毎年近代化する、という方式で陸上自衛隊の装備がある程度近代化されるまでには9個師団6個旅団で15年単位の期間を必要としています。これでは部隊の能力が差異が生じてしまいますので、職種ごとの近代化、大量生産と維持生産のシフトを行ってみるというのも検討してみるべきでしょう。
HARUNA
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