近年、陸上自衛隊の防衛大綱改訂に併せた師団改編が進展し、青森県の第九師団や北海道の第十一師団、沖縄県の第一混成団などを除きほぼ改編が終了しており、従来の着岸上陸阻止や水際撃破という本土直接武力侵攻対処に加え、対ゲリラ・コマンドといった新しい脅威や国際平和維持活動に対する対応能力付与に向けた編成に移行する過渡期にあるといえよう。
師団改編において最も重視されるのは、普通科部隊の近代化にあるといえる。これは、新防衛大綱作成に大きな影響を与えた“防衛懇談会”の報告書にも「普通科への大胆なシフト」として明記されており、戦闘の最終段階における地域占領に不可欠であると同時に、市街地や山間部における近接戦闘から、限定的ではあるが対機甲戦闘にも対処しうる普通科を“柔軟性に富んでいる”という観点から重視する方向にあるといえよう。
こうして、普通科連隊に対して、軽装甲機動車の配備による限定的機動打撃力の付与、対戦車中隊新設に伴う対戦車戦闘能力の向上、対人狙撃班新設による対ゲリラコマンド能力の向上が行われ、加えて89式小銃やMINIMI分隊機銃といった小火器や01式軽対戦車誘導弾という小銃班向けの新装備、加えて個人用暗視装置などの隊員個々の能力向上を目的とした装備近代化が行われ、かつて73式中型トラックなどによって展開していた普通科隊員は、高機動車や軽装甲機動車により高い展開能力を有するに至っている。ただ、普通科連隊隷下の重迫撃砲中隊に関しては第一師団では縮減という動きもあり、すべてが一概にいえるというものではないともいえる。
普通科部隊の近代化に際して、もっとも挙げられるシンメトリーな改編は、特科・機甲科の改編である。
普通科連隊の改編は前述の改編がほぼ共通的に進展しているが、特科連隊に関しては特科隊として縮減されるものと即応予備自衛官による特科大隊を連隊隷下に維持し、連隊編成を維持する事例がある。他方、特科隊に縮減する事例では、新規の隊員配置を縮減し改編に先んじて極力充足率を新編成に対応するべく低減し、かつ余剰となった人員を重迫撃砲中隊に配属するなどして対応しているとのことだ。
戦車に関しては、旅団に縮小された師団をみるかぎりでは例外なく戦車大隊が戦車隊に縮減され、例えば帯広の第五師団隷下の戦車大隊は戦車隊改編によって78輌から20輌に、海田市の第十三師団が旅団改編した際には30輌の第十三戦車大隊は戦車中隊に縮減されたというが、師団改編では第十戦車大隊のように逆に一個中隊増強(即応予備自衛官であるが)、定数を増強した事例もある。
機甲科の改編では、縮減、維持、増強というように師団に付与された任務に応じて差異があるようである。
一方で、多用途ヘリコプターの師団飛行隊配備が師団改編に際する大きな変更に含まれるといえよう。
従来は小規模な連絡や物資輸送、急患搬送にも対応可能な観測ヘリコプターOH-6を配備していたが、加えて積極的な空中機動任務を付与するべく3~4機程度の多用途ヘリコプターUH-1H/Jが配備され、全て集中投入すれば一個普通科小隊、単機でも普通科連隊情報小隊のヘリボーン能力を部隊に付与することが出来る。
また、普通科連隊の機械化や各部隊の自動化に際して、各部隊の本部管理中隊隷下の整備小隊の能力を超える規模の機械化が進んでおり、後方支援連隊も二個大隊体制に改編している。
これは、一個大隊が後方における整備や医療、輸送といった師団任務全般を後方支援し、もう一個の大隊が、各連隊・大隊に整備支援を目的とした直接支援中隊を派遣し、装備品の稼働率維持を目的とした運用が為される編成で、従来からこうした編成に移行する需要はあったという。
加えて、師団司令部付隊であった化学防護小隊を化学防護隊に増強するなど、様々な改編が実施されているが、機甲科・特科の改編により従来、普通科連隊を主力とした連隊戦闘団を編成し任務に当たる方式であったのが、必ずしもこうした編成を新編成において実施することは出来なくなりつつあり、新編成に対応する部隊運用が如何に為されるかについては、小生個人としても興味は尽きないといえよう。
HARUNA
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