八八艦隊の内訳は、ヘリコプター護衛艦を旗艦として、ミサイル護衛艦二隻からなる護衛隊、そして汎用護衛艦からなる二個護衛隊によって構成されるものだ。
この構想は、イージス艦『みょうこう』の就役を以てミサイル護衛艦8隻体制が確立し、ミサイル護衛艦『たちかぜ』を護衛艦隊旗艦とした為、イージス艦『ちょうかい』の就役を以て完結した。
横須賀・佐世保・舞鶴・呉に配置された護衛隊群は、常時一個護衛隊群を洋上展開させ、一個護衛隊群を基地待機、一個護衛隊群を訓練待機として、最後の一個護衛隊群をドックでの重整備状態に置く構想であった。つまり、二個の即応部隊と二個の待機部隊に分けられるわけだ。
この8隻からなる勢力は、ヘリコプターをアスロック対潜ロケットを搭載する艦艇により高い対潜戦闘能力を有し、イージス艦を中心とする防空能力により高度な防空能力を有する。各艦は艦齢も若く、データリンクにより連携して戦闘を展開させる事が出来るので、8隻による総合的な戦闘能力は中小国一国の海軍力にも相当する。加えて、わが国周辺海域における作戦任務であれば航空自衛隊による航空支援も期待でき、実力は大きいといえた。
一方で、海上自衛隊には沿岸警備任務にあたる地方隊を編成に有しており、従来は小型護衛艦による二個護衛隊を横須賀・呉・佐世保・舞鶴・大湊に配置していた。1995年の防衛大綱改訂により、地方隊の護衛隊は削減され、佐世保・大湊地方隊以外は護衛隊を一個削減された。しかし、削減される一方で、護衛艦隊から旧式化した(とはいえ、一番艦は1982年就役と比較的新しいのだが)『はつゆき』型護衛艦を配属させ戦力の維持を目指した。同艦はガスタービン推進、データリンクを可能とし、哨戒ヘリコプターと対潜・対空・対艦ミサイルを搭載する優秀艦だ。
ここで問題となるのは、指揮系統の問題である。艦艇が削減された結果、個艦の任務は広くなり、結果的に1999年の能登半島沖不審船事案のように地方隊護衛艦を必要に応じて護衛隊群隷下に配属させ作戦任務に当たる事例も見られるようになった。即ち、任務の重複である。
また、護衛艦隊でも、八八艦隊という、いわばタスクフォースを常時維持する事は艦艇の運用に大きな制約を与える結果となった。
機動運用状態に置くためには同一の護衛隊群に所属する八隻が常時運用可能な状態となっている必要があるが、上記のように地方隊と護衛隊群の任務が重複している以上、地方隊任務地域には一定の護衛隊群艦艇が稼動していなければならないが、例えば第一護衛隊群と第四護衛隊群が重整備・訓練部隊に指定されている時期には太平洋ががら空きになってしまう。
こうした運用上の支障を考えれば八八艦隊編成はもはや時代に適応していない実情を見る事が出来る。一方で、個艦の能力は著しく向上している、海上自衛隊最初のDDG『あまつかぜ』が搭載したターターSAMの射程は18kmであり、シースパローとほぼ同規模である事からもその能力の大きさが分ろう。
また、20㍉高性能機関砲の搭載など、個艦防御能力も向上しており、独立した作戦能力も強化されただけではなく、ヘリコプターの運用機能は陸上航空基地のヘリコプターへ海上における作戦拠点を提供させる事となり、総合的には海上自衛隊全般の作戦能力も上がったわけだが、陸上航空基地のヘリコプターも護衛隊群隷下の護衛艦に着艦させ支援に充てれば、ますます地方隊と護衛隊群の運用上の重複が進む。
稼動艦艇に関して柔軟性を付与させるべく、護衛隊群隷下の護衛隊に大規模な改編を行う構想が推進中である。
従来までは護衛隊群を一個の作戦単位として行動していたのに対して、今後は作戦能力を分散させ柔軟性を向上させようという目的である。
即ち、フォース編成からタイプ編成への移行である。
具体的には、ヘリコプター護衛艦、ミサイル護衛艦各一隻と汎用護衛艦二隻によって一個護衛隊を編成、同時にミサイル護衛艦一隻と汎用護衛艦三隻によって一個護衛隊を編成させる方式への移行である。
共通性を向上させる為にはヘリコプター護衛艦とミサイル護衛艦を中心に四隻体制とする編成を普遍化させれば互換性が向上すると思うのだが、ヘリコプター護衛艦は今後、16DDHのような大型艦に移行するためこうした編成に移行させられたのだろう。
これならば、一個護衛隊群の内、どちらかを洋上待機か即応待機という運用状態にしておけば、半数の艦艇を使用する事が出来る。しかしながら、運用できる艦艇に関しては若干際が生じる事が問題点として挙げられる。
こうした点を踏まえて、もう少し大規模な改編を提案したい。
即ち、横須賀・呉・佐世保・舞鶴・大湊という五個警備区に関する編成を改編する提案だ。
横須賀と呉に関しては太平洋警備区として統合が可能だろう。佐世保は南西諸島の防衛が重視される為現行の体制を維持する。舞鶴と大湊に関しては日本海警備区として統合し、北朝鮮、そして脅威度は大きく減退したがロシアへの対応に当たる。こうして三個体制への移行を提案したい。
警備区に関する改編は、旧帝国海軍の鎮守府以来の改編であり、現場には抵抗があるかもしれないが、護衛艦定数の削減や脅威の多様化という状況は、こうした部分にも本質的な変革が必要になったことを背景としてこうした改編案を提案した。
三個に集約する事で幕僚機構を統合する事が出来、より幅広い作戦機能を獲得する事が期待できる。また、艦艇の性能向上は、任務範囲の拡大に充分対応できる事が期待でき、ヘリコプターと統合した運用により今まで以上の作戦能力整備も可能となる。
この改編案には、中核部分として護衛艦隊と地方隊の統合が含まれていることをここに明示したい。
すなわち、『はつゆき』型、もしくは『あさぎり』型護衛艦により護衛隊を構成する地方隊の戦力は、現行の護衛隊群隷下の汎用護衛艦による護衛隊と全く同じである(ただし、地方隊配備の護衛艦にはヘリコプター運用能力が一部制限されているが)。
横須賀=第一護衛艦隊、佐世保=第二護衛艦隊、舞鶴=第三護衛艦隊、という編成である。
ヘリコプター護衛艦(ヘリ空母)を旗艦として、イージス艦を中心とするミサイル護衛艦三隻で一個護衛隊を編成、常時一隻を運用可能状態に置く。汎用護衛艦三隻から成る護衛隊を三個ないし四個整備する。
可能であれば従来型ヘリコプター護衛艦を多数配置し、対潜戦闘の中核艦として運用する事を提唱したい。無論無理な提案ではあるかもしれないが、従来型ヘリコプター護衛艦を護衛隊の旗艦に用いる意義は多少なりともある。
本論から若干脱線するが、三隻の汎用護衛艦であればヘリコプター三機を有し、一機を飛行、一機を燃料補給及び待機、一機を整備に当てる事が出来る。従来型のヘリコプター護衛艦があれば更に三機のヘリコプターを加える事ができる為、計六機で常時二機を戦闘行動に充てる事だ出来る。
また、外洋におけるヘリコプター整備支援にも用いる事が出来、16DDHのような大型艦では不可能な柔軟な運用を可能にする。『たかなみ』型護衛艦の拡大改良型としてヘリ格納庫を拡大させれば、ヘリコプター護衛艦とすることも出来よう。ヘリコプター護衛艦を編成に含む場合は四隻の護衛隊三個、含まない場合は三隻の護衛隊四個を想定している。
閑話休題。
三個の艦隊に移行することで、地方隊、護衛隊群の八つあった幕僚機構を三つに集約できる利点は大きい。
潜水艦も、三個に区分する事を提案する。
潜水艦は16隻が配備されているが、潜水艦隊を独立させて運用すれば友軍狙撃の可能性を捨てきれず、任務分担区域ごとに運用する事は意義がある。掃海隊群に関しても、タイプ編成のまま三個に区分された護衛艦隊に編入して、艦隊独自の独立した作戦能力を付与させ、任務への達成能力を向上させる。
一方で、海外派遣に関しては海外派遣担当艦隊を一個指定し、12ヶ月周期で交代させ、担当艦隊旗艦を中心として、各艦隊から稼動艦艇を抽出し、任務に当たることとなる。
即ち、有事の際には実質的に本国艦隊と外洋艦隊に部隊を二分し、外洋艦隊を海外派遣担当艦隊中心に編成するという意味である。これにより、多種多様な事態にも対応できる事となろう。
テロ、大量破壊兵器拡散という非対称型の戦いや、対米支援が任務に加えられようとも、海上自衛隊の任務は専守防衛が基本であり、アメリカが言うホームディフェンスを第一に任務を編成しなければならない。
結論として、護衛艦隊と地方隊を統合し、日本周辺海域を作戦範囲に区分する。そして、シーレーン防衛やテロ対策任務、邦人救出の際には、新たにタスクフォースを編成し外洋艦隊として本国艦隊より切り離して運用する提案を行った。
少々勝手ながら、海上自衛隊の一編成案を提示したが、現行の体制に比して、稼働率や作戦能力は向上しているはずである。
大規模な改編でありながらも、今日の国際情勢は、こうした聖域なき構造改革が必要となっている、私はそう思うのである。
HARUNA