◆単に新型機が導入されるという意味を越えて
陸上自衛隊は無人機の面で後れを取っている、これは少し前では常識のように語られていましたが、まもなく過去の論理となるかもしれません。
陸上自衛隊はこれまでの装備体系に加え、2011年の東日本大震災を契機として、無人機による広域情報収集能力の欠如を痛感することとなり、この分野の遅れを極めて短期間で取り戻すべく、海外製無人機の導入という選択肢を選んでいます。こうしてスキャンイーグル無人機の導入が決定、今年5月14日に豪州ブリスベーンのインシツ社工場にて、スキャンイーグル無人機が陸上自衛隊へ納入され、協力企業である三菱重工とともに我が国での運用研究と整備支援の準備を開始、来年上旬には評価試験が終了し、運用へと展開してゆくこととなりました。
スキャンイーグル無人機は、ボーイング社の子会社であるインシツ社製の無人機で米軍の要請を元に開発、2004年から海兵隊や海軍にて実運用に尽きました。重量13.1kg、全長1.37m、全幅3.11m、グローバルホークのような無人機と比較すればもちろん小型ではありますが、これまで陸上自衛隊が装備してきた無人機と比較すればかなりの大型化と言えます。そしてなにより、スキャンイーグルは24時間以上の連続飛行が可能で、気象条件にもよるようですが最大で30時間程度の飛行も視野に入れており、加えて高度6000mまでの上昇も可能です。
発進は空気圧方式カタパルトより射出、GPS航法装置によるプログラム飛行や遠隔管制が可能となっており、高高度に滞空しての監視任務へは赤外線暗視装置等を搭載し必要な情報を地上部隊へ伝送できるほか、CRP:通信中継器としての能力を有していることから通信可搬範囲を迅速に広域へ展開させることが可能です。また、高度6000mから得られる莫大な情報ですが、特に洋上での運用では自動船舶識別能力を備えており、船舶などを同時多数を捜索、識別し追尾が可能ということですから、必要地域の情報を得るだけではなく哨戒任務にも用いることが可能となりました。
無人機の安全性について、これは技術的に馴染みが無くとも新しい物への一般的な理解、という意味を含めてですが、特に議論となりそうな部分がありますが、巡航高度の6000mという高度はヘリコプターの巡航高度よりも高く、旅客機の巡航高度よりは低い空域ですが、離着陸航空機との不意衝突を防止するべくエンコーディングトランスポンダー機能を重点化し、旅客機や他の軍用機はもちろん、無人機同士の衝突も回避する性能を有しているほか、着陸はネットで自機を回収する巣快復捕捉システム方式を採用しているため、飛行場の無い地域でも運用が可能、とのこと。
これまでの自衛隊の無人機と比較し、長時間の滞空が可能ですので大規模災害時においては被災地域を連続して飛行し、火災などの延焼を監視するほか、孤立地域の捜索、陸上部隊の展開に必要な道路状況の把握など、いま、いったい何が起きているのか、という状況の把握に大きな力を発揮します。高度6000mを飛行しますので、輸送ヘリに多用途ヘリから観測ヘリに加え、都道府県の防災ヘリや民間報道ヘリに民間のボランティアヘリ輸送よりも飛行高度が高く、ヘリコプターの飛行を邪魔しません発進にカタパルトを用い、着地にスカイフックを用いるため、飛行場の混雑状況はもちろん、飛行場が被災した場合でも運用が可能、これらのポテンシャルはかなり大きなものと言えるでしょう。
通信中継能力は、災害派遣はもちろんですが防衛出動に際しても、特に南西諸島では陸上のように旅団通信隊が通信網を整備するためには、離島という性格上、陸上のように通信隊が車両で展開し通信中継網を展開できないため、無人機の通信可搬任務は非常に大きな意味を持ちます。このほか、巡航高度の6000mは携帯式地対空誘導弾の有効射高を越えており、VL-MICAとローランド3や11式では届くという話もありますが、クロタルや日本の81式、レイピアやHQ-7といった地対空ミサイルでも届きません。
陸上自衛隊はこのスキャンイーグル無人機を導入することで、これまで遅れがちであった無人機の分野にてかなりの部分を取り戻すことが出来ます、そういうのも、無人機を自衛隊が実際に導入することで、これまでの航空法に明示されていた部分、航空機は操縦者が搭乗して飛行するもの、という航空法を無人機は最初に満たさず定義から外されるため、無線操縦機と扱いが区分されてしまい、高度150m以下を飛行する、航空管制を邪魔しない、飛行場周辺での飛行を禁止する、という、実用性を省くこととなる制約をそのまま乗り越える一手となるためです。
既に日本では無人機をこの範疇で何とか進める方策を模索しており、実のところ日本は航空目標の標的機という部分では1950年代から無人機を運用しています。航空自衛隊はF-104戦闘機の無人機運用を行い、特に航空管制の制約を受けない硫黄島などを拠点として空対空ミサイルの実標的としてきましたが、海上自衛隊は1950年代、それこそ創設間もないころから対空戦闘の訓練目標として無人機を用いていますし、陸上自衛隊は無人標的機を無人偵察機に改造し、冷戦時代の強行偵察任務へ備えていました。
ここに加えて、標的機ではなく無人航空機への任務を強化する観点に依拠し、航空自衛隊は硫黄島にて航空管制の圏外での無人機運用を継続してきました。技術研究本部は有人機を無人機化し、航空管制の圏内では有人飛行を行い離陸後に無人機として運用する形で技術研究を蓄積、陸上自衛隊は無人偵察機を方面隊レベルで運用し、富士総合火力演習などでは実際に飛行させていますし、小型無人機の一部普通科連隊や偵察隊への配備を進めているほか、高高度滞空型無人機の開発も進めており、決して手放しで後れを取っていたわけではない、状況でした。
航空法という、無人機開発最大の障害は制度面で、しかし、航空法が制定された時代には、まさか無人機が安全性を以て実用的な偵察任務等に就くことや、リアルタイムで無人機からの情報伝送が可能となる子と、24時間以上の滞空が可能な通常動力の無人機が開発されるなどは夢にも思っていなかったでしょうから致し方ないことではあるのですけれども、この航空法を乗り越える第一歩がひつっ用ながら実現しませんでした。東日本大震災に間に合わなかったことで遅きに失した、という印象もなくは無いのですが、次の地震に備え、という必要性が、航空法へ切り込む無人機の導入へ進んだことは評価されるべきでしょう。もっとも、自衛隊へMQ-8のような有人機を同等の機体規模を有する無人ヘリコプターが導入されたとしても市街地での駐屯地祭で現行のOH-6観測ヘリコプターのように無人ヘリコプターが航空部隊駐屯地から編隊で飛来したり、訓練展示模擬戦へ無人ヘリコプターが参加する、という構図が当方では想像できないのは、東方の考えがまだまだ古いからなのでしょうか。
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