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小松-装輪装甲車(改)の再評価【2】NBC偵察車基本車体応用の”機動防護車”という選択肢

2022-09-24 20:15:41 | 先端軍事テクノロジー
■仮称”機動防護車”の提案
 防衛予算における装甲車両の位置づけの低さ、人命に直結する装備でありながら、ここを冷静に考えるならば重要なのは”取得費用”なのかもしれません。

 小松製作所のNBC偵察車、機動戦闘車に随伴しての激烈な近接戦闘の弾雨鉄の暴風最中に進出するという運用を考えるならば1cmでも車高を低くし、しかしIED簡易爆発物に耐える最低地上高を維持するという厳しい制約が加わり、あの形状となることは残念ながら致し方ないところではあります、しかし他の用途ならばどうでしょうか。固い車両の需要は。

 NBC偵察車。激烈な戦闘を考慮しないのであれば、あの装輪装甲車(改)の無理な車高低下再設計でなくとも車内容積を十分に採ったNBC偵察車の小改造型でも、運転台の隣に車長席を配置していますし、十分対応できたように考えます。小改造というのは唯一、NBC偵察車は兵員輸送を想定していないため、後部扉が小さく下車戦闘に支障が生じる点です。

 装輪装甲車(改)ではなくNBC偵察車派生の車両、機動防護車、とでも表現すべきでしょうか、この試案は第一に後部兵員扉を96式装輪装甲車のような動力ハッチ式とするか、観音開き扉として左右両側に開くよう再構成するというところ。武装はハッチ部分が車高を挙げているため、前部の車長席真上に遠隔操作銃塔RWSを搭載する、などなど方法はある。

 指揮通信車。端的に挙げられるのはこの用途でしょうか、もともとNBC偵察車の前型である化学防護車が82式指揮通信車でしたので誰でも思いつく安直な案ではあるのですけれども。NBC偵察車は膨大な化学検知機材や分析装置を搭載する容量での余裕があります、これは通信機材の搭載容積に転じた場合でも、発電容量含め十分搭載し得るようにおもう。

 支援車両として。考え得るのは現在後方支援連隊の戦車直接支援小隊に配備されている96式装輪装甲車の後継です。戦車部隊に随伴し整備支援をおこなう部隊ですが、敵火砲による攪乱射撃や曳火射撃に巻き込まれることを想定し96式装輪装甲車が配備されています。そこまで激烈な戦闘に巻き込まれることは想定しないため、小松案でも対応可能でしょう。

 フクス装甲車。実はこの小松製NBC偵察車であっても十分用途がある、と考えるのはドイツ軍が冷戦時代に似た選択肢を採っているためです。ドイツ連邦軍の冷戦時代における装甲車といえば20mm機関砲の小型砲塔を備え敵の30mm機関砲弾の直撃にも正面傾斜装甲が耐える強力なマルダー装甲戦闘車を思い出すところですが、そればかりではありません。

 マルダー装甲戦闘車とともに、ドイツ連邦軍は汎用装甲車としてアメリカ製M-113装甲輸送車を多用していましたし、そしてもう一つ、装輪装甲車として汎用輸送に重点を置いたフクス装輪装甲車を大量生産していました。フクスはフランスのVAB軽装甲車をふた周り大型化させたような形状の装甲車ですが防御力も高く、後に改良型フクス2が開発された。

 フクスは車体後部兵員室を可能な限りフラットな形状としまして、もちろん折り畳み式ベンチシートを有していますので兵員輸送を念頭に考えているのですが、これを畳めば第一線への強行輸送に用いうる構造となっています。装輪装甲車ですがフクス2は防御力も向上し1990年代の設計ながら14.5mm機銃弾にも耐える比較的充実した装甲を持つもの。

 NBC偵察車に期待するのはこの点でして、また96式装輪装甲車よりは車高が高い分、車内容積も確保できていますので2個小銃班の乗車は不可能としても3両で4個小銃班、というような輸送力の高さを示せるかもしれません。車体は三菱の機動装甲車よりも安価ですが、なにしろ用途が違うのですがら一人当たりの費用を抑えられる点が重要でしょう。

 装輪装甲車(改)のように無理な改修をするのではなく、装甲が在ればいいのは当然だけれども、機動装甲車やパトリアAMVやピラーニャLAVを転用するには、数を揃える必要から防衛予算の上限もあり限界がある、こうした用途にNBC偵察車派生型は適している様に考えます。なにより装輪装甲車(改)開発の背景に安価、という利点があったのですから、ね。

 汎用装甲車として考えるならば、装輪装甲車(改)が制式化断念の背景に在った幾つかの問題が解決されます、例えば防御力の不足が挙げられましたが、第一線で16式機動戦闘車や10式戦車と共に突撃する装甲車と、支援用に運用する装甲車とでは防弾性能の要求水準が違います。また装輪装甲車(改)の難点、砲塔搭載等の将来発展性という問題もそれ程ではない。

 NBC偵察車派生型の装甲車、何しろ自衛隊には装甲車が不足しています、82式指揮通信車も232両も製造されていますが、後継をどうするのか。新たに装甲救急車を導入する事が決定しましたが、実際にはトラックに防弾板を張り付けるだけという始末で、あの程度で曳火射撃には生き残れない、こうした中の選択肢に、安価という点は重要な視点でしょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
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2 コメント

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難しい。。。 (ドナルド)
2022-09-29 00:23:37
この話題、「面白そう」とおもって、先週からつらつら考えていたのですが、やはりこの車体、スジが悪すぎるんですよね。。。

・NBC偵察車ベースだと、地雷で大被害を出すので、賛成できない。
・装輪装甲車(改)を見れば見るほど、NBC偵察車を、V字型車体にして地雷対策をしただけに見える。例えば全部の操縦室も残っていて、右に操縦手、左に座席(ハッチあり)、その後ろに砲手、車長の合計4名が並ぶ配置。
・73式APCに似たこの配置のために、後部兵員室はかなり後ろから始まっている。実際、第3輪の途中までエンジンがかぶっている

重心が高く転覆しやすそうなので、路外で使うのは難しそう。少なくとも路外機動力が不足気味と言われた96式よりもさらに悪くなることは自明。しかもこれば基本車体で、この先RWSの追加や装甲増加などすると、悪化しかしない。やはり幅が狭すぎて、未来が見えない車体と感じました。

ブッシュマスターのような路上機動を主とするなら、確かに良いのかもしれませんが、そうなると8輪もある足まわりのメンテが大変そうで、それならブッシュマスターの追加(ライセンス国産)で良いかと。(続く)
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その2 (ドナルド)
2022-09-29 00:49:25
はるなさんの案に乗っかって、もう少しだけ考えてみると、以下の案になりました。

ブッシュマスターと同じ任務で、ブッシュマスターの2倍の収容力があれば、8輪でもメンテナンスの手間は(相対的に)それほど増えないのではないか(車体数を半減できるので)?

案としては、
・第2輪と第3輪の間で、1.8 m 車体を延長をして、全長10.2 mとする。
・ここはV字とせず車幅いっぱいの装甲室とし、6名分の座席を追加(前向き5、後ろ向き1とか)。
・車体全部に4名(操縦手、車長+下車人員2名)+車体後部に14名の最大18名収容の「戦場のタクシー」ならぬ「戦場の装甲バス」とする。

1個小隊2両とし、3個分隊8x3= 24名、小隊本部4名、狙撃兵 or 前線着弾観測員 2名、操縦手2名、車長2名、合計34名を輸送する。1号車に「本部4名+追加2名+第1分隊8名+クルー2名」の16名、2号車に「第2・3分隊16名+クルー2名」の18名、というイメージです。

というのが思いつきました。4台に分乗する人員を2台にするので被弾時の被害が心配になりますが、そこは全部装甲室と後部装甲室の間に装甲板(ドア付き)を設ければ緩和できるかと。

位置づけとしては、フランスのVAB、イギリスのAT105 サクソン、ブッシュマスター、あるいは一部MRAPの位置付けです。

まあ、筋は悪いままですけどね。。。
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