北大路機関

京都防衛フォーラム:榛名研究室/鞍馬事務室(OCNブログ:2005.07.29~/gooブログ:2014.11.24~)

ユーロサトリ2022:"EMBT-MGCS欧州戦車-主力地上戦闘システム"は2035年完成期す異形の多砲塔戦車

2022-06-16 20:12:56 | 先端軍事テクノロジー
■独仏共同開発戦車混迷
 ラインメタル社が発表したKF-51パンター戦車はまさに2030年代を切り開くものですが、同時に発表されたEMBTは1930年代の流行を現代化したものでした。まあ90式戦車の写真と共にその話題を。

 ドイツフランスが共同開発を進めるEMBT-MGCS欧州戦車-主力地上戦闘システムの試作車がユーロサトリ2022国際装備展に展示されました、前回のユーロサトリ2018ではレオパルド2A7の車体にルクレルクの砲塔を積むというものでしたが、今回は2030年代以降を狙う戦車に恥じない画期的な試作車が展示されたかたちです。なんと多砲塔戦車です。

 EMBT-MGCS試作車は全長10.45mで車幅3.85mに全高3.24m、戦闘重量は61.5tです。主砲は52口径120mm滑腔砲で22発の自動装填装置を採用、副武装としてARX-30RWSの30mm遠隔操作砲塔、エンジンは1500hpのMTU-882EPPディーゼルエンジンを採用、乗員は自動装填装置を採用するも4名を維持する。トロフィーアクティヴ防御装置も持つ。

 EMBT-MGCS試作車で特に目を引くのは本体を削りセンサーを大量に載せた砲塔で、ミリ波レーダーか複合光学装置と思われるものを搭載、主砲弾は22発のみとし、戦車以外の目標は30mm機関砲が対応する模様、製造はクラウスマッファイ社とネクスター社の匿名合弁企業KNDSが進めており、これは試作車ですが早ければ2035年に実用化するという。

 ドイツとフランスの戦車共同開発は成功するか、ユーロサトリ2022にて公開のEMBT-MGCS欧州戦車-主力地上戦闘システム試作車両は、恐らく2035年までに完成するというものであり車体の多くはモックアップ、将来戦闘を留意した概念実証車だと考えられます、こう言いますのもレオパルド2試作車も一次試作車はレオパルド1改良型でした。

 その上で、フランスとドイツが戦車の共同開発を行うのは今回が初めてではありません、オイロパンツァー計画として1957年にドイツとフランスはNATO標準型戦車の開発を試みています、これは車幅3.15m以内で主砲は105mm、エンジンは空冷ガソリン方式を採用し懸架装置はトーションバー、トン当たり30hpの出力重量比として合意がありました。

 しかし、オイロパンツァー計画は挫折します、具体的にはドゴール政権のNATO軍事機構脱退と独自核戦略という施策にドイツが報復という形で離脱したのですが、結果、AMX-30とレオパルド1、両国は独自戦車を開発しています。今回の開発は上手くいくのか。ドイツとフランスの戦車運用に関する認識を摺り合わせる事への不十分さを感じる試作車です。

 EMBT-MGCS欧州戦車-主力地上戦闘システム試作車両は驚くべきものでした、しかし同じ会場で提示されたKF-51の先進性よりも、多砲塔という際物的な意味で、です。2020年代に多砲塔戦車というべき、120mm戦車砲塔上に30mm遠隔操作砲塔を搭載する案は、ユーロサトリ2018で示された、新しさは無いが手堅い案とは真逆のものとなっていました。

 ユーロサトリ2018からユーロサトリ2022へのEMBTの激変、これは言い換えれば設計が迷走している事を意味します。30mm遠隔操作砲塔は、主砲を使うには威力過大な軽装甲目標や航空機に対処するものと考えられますが、その分主砲弾は22発のみ、車体弾薬庫は省略されているもよう、しかしドイツもフランスも砲弾は22発で充分という合意なのか。

 2035年に量産開始を目指す戦車ですが、次のユーロサトリには全く別のEMBTが製造されるのかもしれません、つまり多砲塔は一時の気の迷いとも考えられるのですが、この他に大量に砲塔上に搭載された各種センサーは砲兵曳火射撃等で破壊されないのか、ドイツとフランスは合同旅団を編成していますが、戦車哲学は一致しているか、気になります。

 EMBT-MGCS欧州戦車-主力地上戦闘システム試作車両で驚かされた多砲塔設計、今回は上手くいくのでしょうか。フランスはルノーB1visという多砲塔戦車を1934年に開発、主砲の75mm砲を車体に搭載し旋回砲塔に47mm砲を搭載していました、実はこの設計は戦前には一つの潮流を形成しており、アメリカのM-3リー/グラント戦車などがあります。

 多砲塔戦車はしかし短期間で淘汰されます、その理由は戦車長が指揮するには砲手が二人いる為、どの砲がどの目標を狙うのかが煩雑となる為で、M-3リー/グラント戦車は車体に75mm砲と砲塔に37mm砲を搭載していましたが、乗員は通信士を合せ7名も居り、車長は全員の戦闘を指揮すると共に戦車小隊長の指揮と全体の概況を把握せねばなりません。

 EMBTは乗員が4名で、自動装填装置により装填手は不要となりましたがシステム通信士が乗車します、車長は外部視察装置に30mm遠隔操作砲塔を用いる場合、優先目標を発見した際はルクレルクやレオパルド2A7の様にオーバーライド照準を行うのでしょうが、それでは30mm砲の用途が薄くなります、現代の多砲塔戦車の今後、関心事といえましょう。

北大路機関:はるな くらま ひゅうが いせ
(本ブログに掲載された本文及び写真は北大路機関の著作物であり、無断転載は厳に禁じる)
(本ブログ引用時は記事は出典明示・写真は北大路機関ロゴタイプ維持を求め、その他は無断転載と見做す)
(第二北大路機関: http://harunakurama.blog10.fc2.com/記事補完-投稿応答-時事備忘録をあわせてお読みください)

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ヨーロッパ各国防衛当局者悩... | トップ | 【G3X撮影速報】F-35A戦闘機... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

先端軍事テクノロジー」カテゴリの最新記事