一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

「武蔵の国・府中けやきカップ」へ行く・お詫びだらけ(後編)

2010-03-26 00:47:09 | LPSAイベント
まだ序盤なので、私は後方のグッズ売り場へ顔を出す。この日から、中倉彰子・宏美女流姉妹の扇子が発売されたのだ(税込2,000円)。彰子女流初段が「専」、宏美女流二段が「心」と揮毫している。宏美女流二段が売り子をしていたが、この扇子はいつでも買えるので、見送る。こうやって無意識にまわりをガッカリさせてしまうのが、私の悪いところだ。ただ彰子女流初段だったら
「一公さん、きょう発売だから、買ったほうが縁起がいいですよ!」
とか言って、私もふらふらと購入していたかもしれない。
宏美女流二段が呼ばれたようなので、私も席に戻る。局面。藤田麻衣子女流1級の銀が3六と4六に並んでいる。☗5五歩に、島井咲緒里女流初段は☖5三金。島井女流初段は左金の動きが独特で、いつもは「6三」(4七)が定位置である。本局も金が三段目にいくので指しづらいと思ったが、この手は解説の堀口弘治七段推奨の手で、さすがは島井女流初段だと思った。
42手目☖7四歩と突いたところで、解説が中座真七段、聞き手が中倉女流二段に交代する。
さっそく中倉女流二段が
「島井女流初段は前局で穴熊を指して、暴力的な将棋で殴り倒しました」
と、平然と言う。そういう中倉女流二段もけっこう穴熊の暴力を振るっていると思うが、まあ人間、自分のことはよく分からないものだ。それはともかく、相変わらず中倉女流二段の話は過激で面白い。NHK杯将棋トーナメントでの聞き手は、相当自分を抑えていたのだろう。
将棋は中盤の難所に入っている。☖7三の角が4六に躍り出て、これが5七の飛車取りになるとともに、その陰にいた7二の飛車が7七の馬を直射した。
☗5六飛に☖7七飛成! ☗同桂にも角を逃げず、☖7六歩と追撃の手を緩めない。「シマイ攻め」の面目躍如だ。☗7六同飛に☖5七角成。ここで☗6八銀と一枚入れるかと思いきや、藤田女流1級は☗7二歩! 両者の持ち味がよく出ている、華やかな攻め合いだ。
会場内は満席に近い。私の後ろには椅子が追加されている。
藤田女流1級が☗3一飛と6一の金取りに打った。しかしこれ、その瞬間だけ気持ちがいい緩手。島井女流初段はおまじないのように☖4一歩と打つ。これを不用意に☗同飛成と取ったのが疑問で、すかさず☖1四角と詰めろ飛車取りに打たれては、大きく形勢が傾いた。私ならここで嫌気がさして投了、というところだが、藤田女流1級は☗5八銀と打って頑張る。
しかし☖5八同馬☗同金☖4一角と飛車を取られ、その角に再び1四に飛びだされた手がまたもや詰めろとなっては、これは大勢決した。
ところが、藤田女流1級が☗6五桂と玉の逃げ道を開けた手に対し、島井女流初段が☖7六飛と打ったのが、負ければ敗着という不用意な一手。☗7六同飛☖同歩に、☗8一金☖同玉☗7三桂打と迫られ、一気に詰むや詰まざるやの局面になってしまったのだ。
先ほどまでなら、ここで☖9一玉と寄る手があるから何でもなかったのだが、いまは横の利く駒を渡してしまったので、それは☗8一飛で詰んでしまう。3日前のエントリでも述べたが、島井女流初段にはこうしたスッポ抜けがあるのだ。
仕方ないから島井女流初段は上部に逃げる。追撃する藤田女流1級。どこへ逃げても詰みそうな気がするが、島井玉はスレスレのところを生き延びる。際どい攻防が続き、☗7五香の王手に☖6四玉。このとき、島井女流初段が水分を口に含んだのが見えた。
あれは昭和63年放送の第38回NHK杯将棋トーナメント戦・大山康晴十五世名人対田丸昇七段(当時)戦で、終盤必勝だった田丸七段が大山玉を捕まえ損ね、大山玉が9八まで逃げ延びたことがあった。そのとき大山十五世名人が「やれやれ…」とお茶を口に含んだ光景がダブる。
ここで藤田女流1級が投了し、島井女流初段の嬉しい優勝となった。決勝戦にふさわしい、実に見応えのある1局であった。
このあとは、各種控えている表彰式の前に、中倉彰子・宏美女流姉妹による、扇子新発売のお知らせがあった。この日は25本用意したが、すでに20本売れたそうだ(最終的には完売したらしい)。彰子女流初段は、けっきょくこの日は、5階のイベントに専念したようだ。
準備が整って、「詰将棋タイムトライアル」の表彰式が始まる。1位は、詰将棋大好き人間のT氏。2分08秒は神業だった。私は3分01秒だったが、それでも2位だった。私の参加によって、あぶれる子供さんもいるかと危惧したが、それはなかったようだ。ありがたく賞品をいただいた。
中倉女流姉妹の師匠である堀口七段の講評のあと、けやきカップの表彰式が行われた。優勝の島井女流初段は、
「藤田さんの☗6五桂はただ玉の逃げ道を空けただけの手だと思って、☗8一金からの攻めをうかりしていました。最後詰みがなかったのは好運でした」
と語った。また藤田女流1級は、
「☗6五桂から飛車が入って、後手玉が詰むと思ったら明快に詰まなくて、ガッカリしました」
と言った。現役最後の対局が悔しい結果となったが、その表情は晴れ晴れとしていた。この悔しさをバネに、引退を撤回するのかと淡い期待も抱いたが、さすがにそれはなかった。
さて1dayトーナメントは、賞金はもちろんだが、副賞が魅力的なことで知られる。ましてや今回は「府中けやきカップ」であり、後援や協賛会社が多い。食物や酒類など、副賞の山だった。もっともこれらのお酒、酒豪が多いLPSAだから、「同僚へのおすそわけ」として、すぐになくなってしまうのだろう。
次は優勝者クイズ当選者の抽選である。今朝の島井女流初段のかわいらしい挨拶で、私はうっかり島井女流初段に投票してしまったのだが、そのために私は、ここでも抽選の対象に入っている。
しかし結果は外れ。まあ、これは仕方ない。
次はアンケート投票者と、優勝者予想クイズの外れ組を対象にした、お楽しみ抽選会である。この3人目で、金曜サロン常連のW氏が当たった。
私が懸賞詰将棋で当たったときに、「一公さんはいつも何か貰っていく」と言っていたが、彼こそいつも、何か貰っていくような気がする。
司会者が、優勝者と準優勝者にあらためてコメントをもらう。
島井女流初段は
「きょうの2局は得意の穴熊を指したわけですけど、これからは違う戦法も指していきたい」
と、頼もしいコメントを述べた。
藤田女流1級は
「穴熊相手に急戦を指したんですけど、わりあいうまく行って、互角に戦えることが分かりました。皆さんも対穴熊でも、急戦で戦ってみてください」
と述べた。これが女流棋士としては最後になる、私たちへのアドバイスだった。
結びは中倉女流二段の御礼の挨拶である。中倉女流二段は、来場してくれた観客に御礼を述べたあと、
「長々と話しちゃいましたけど、本当はこういう挨拶をする予定じゃなくて、優勝してコメントを言うつもりでした。私が優勝するまで、皆さん『けやきカップ』に是非お越しください」
と会場のみんなを笑わせて、「第3回・武蔵の国 府中けやきカップ」は無事閉幕した。しかしそれなら私は、あと何回「けやきカップ」を観戦することになるのだろう。
私の横には紳士氏が座っている。私は心の中で詫びながら、駅へ急いだ。

(2日前のクイズの答えは「とでん」。東京都には三ノ輪から早稲田まで都電が走っている。また高知県にも土佐電鉄という路面電車が走っており、地元の人に「とでん」と呼ばれ、親しまれているのだ。しかし以前のファンクラブイベントで、高知県出身の島井女流初段は「地元のことをあまり知らない」とコメントしていたので、答えを言っても、ピンと来なかったと思われる)
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「武蔵の国・府中けやきカップ」へ行く・お詫びだらけ(中編)

2010-03-25 00:15:54 | LPSAイベント
とりあえずほかを見て回る。1回戦敗退の中倉宏美女流二段、大庭美樹女流初段が指導対局を行っている。
中倉女流二段は「府中けやきカップ」の主役だし、大庭女流初段は昨年の同カップにエントリしながら、急病で不戦敗となった。今年のけやきカップへの意気込みは並々ならぬものがあったはずだが、現実は厳しい。
個人協賛をしているH氏が、自由対局コーナーで将棋を指している。もし私なら、デカイ顔をして公開対局を観戦しているところだが、こうして将棋を指しているのが粋である。
どうしても「詰将棋タイムトライアル」が気になる。子供の挑戦者が数人いなくなったので、意を決しチャレンジする。担当者から説明を受ける。あとでその筋の人に聞いたのだが、彼ら担当者は、詰将棋の世界では有名とのことだった。
さて、問題は全部で15問。1~7手詰で、マークシートに最終手が3つ記されており、正解をマークする。もし間違えるとペナルティで30秒が加算される。タイムの早いほうから、横綱、大関、関脇…とランクづけされ、成績優秀者は閉会式で表彰される。けっこう大掛かりだ。
私が上位入賞してしまったら、はじき出される子供が出るのではないか? やはり大人の出る幕ではないのではないか? とも思ったが、詰将棋を解く誘惑には勝てなかった。
担当者がストップウオッチを持ち、スタート。級位者のチャレンジも想定してか、1手詰と3手詰が多い。その3手詰でどうしても分からない問題があったので、マークシートの最終手をカンニングし、1手目を推理した。自己嫌悪だ。
15問、終了。タイムはノーミスで3分01秒だった。
午後2時35分、6階の大会議室(会場)へ戻る。☗島井咲緒里女流初段対☖渡部愛ツアー女子プロの対局は20分前から始まっている。解説は堀口弘治七段、聞き手は大庭美夏女流1級。
将棋は、島井女流初段の振り飛車穴熊に、渡部ツアー女子プロが銀冠で対抗。渡部ツアー女子プロは振り飛車党だが、現在は芸域を拡げるべく、居飛車を勉強しているようだ。
本局はLPSAのアイドル決戦でもある。盤上、盤外とも、お互い負けられない一戦だが、私は最後列の席に座っているので、ふたりの雄姿は見づらい。しかしその熱気はここまで伝わってくる。
盤上は島井女流初段が☗5六歩と突きだしたところで、いよいよ本格的な戦いである。細かいやりとりを経て、渡部ツアー女子プロが8筋にと金を作れば、島井女流初段も6三に馬を作り、後手の飛車と銀を牽制する。
会場を見渡せば、ほぼ満席である。階下の来場者と合わせれば、いったいどのくらいの数になっているのだろう。とにかく盛況である。
渡部ツアー女子プロの☖6二歩が指された。すかさず堀口七段が異を唱える。
島井女流初段は☗8五馬と飛車を取り、☖同桂に☗6四角と銀を取って、労せずして優勢となった。☖6二歩には☗6四馬の一手と錯覚したのかもしれない。それなら馬筋が逸れるので、☖3六香と、角・飛車の田楽刺しが打てる。
☖6二歩は確かに悪手である。しかしこの類の手は、将棋が強くないと浮かばない。逆説的だが、この手に渡部ツアー女子プロの実力を見た気がした。
以降は島井女流初段の手が冴え、歩使いの妙技が続出する。堀口七段の解説どおりに手が進む。☖4四銀引の飛車取りに、構わず☗3四歩と銀取りに叩いたのが最後の決め手。ここで渡部ツアー女子プロの投了となった。
これで決勝戦は、第1回優勝の島井女流初段と、泣いても笑っても最後の公認棋戦対局となる、藤田麻衣子女流1級の顔合わせとなった。
その準備の間、室内前方では、岡本眞一郎氏出題の懸賞詰将棋の解答発表と、正解者の抽選が行われるようだ。聞き手は中倉女流二段が呼ばれた。
今回は3問すべて解答したから、楽しく聞くつもりだった。ところが…。1問目、必然の6手が終わった後、大盤では私の記入した手と別の手が指されて進む。
これはおかしい。たしかにその手順でも詰みだが、これは受け方に誤った応手があるのだろう。しかし大盤は何事もなかったように進行する。…あれっ?! 私が間違えたのか!? …あっ!! 私が解答した☗3一金は☖同角で詰まない!!
整理すると、この将棋は13手詰で、7手目以降の作意は☗3三銀☖同玉☗4二銀不成☖3二玉…となる。しかるに私は☗3一金☖同玉☗4二銀打☖3二玉…と書き、作意と同じ収束をしたのだ。何たるケアレスミスか(しかも帰宅後、封筒に書いた詰め上がりの駒の配置を見たら、「サ」になっていなかった)。投票の〆切まで時間がたっぷりあったのだから、詰み手順をとことん確認するべきだったのだ。
2問目「オ」、3問目「リ」は正解。しかし私の気分はさえない。いよいよ抽選となったが、正解者は12名とのこと。昨年は難問だったので、2問正解でも抽選の権利があったが、それでも該当者は6名しかいなかった。今年は「易しくした」というから、全問正解者が対象だろう。
中倉女流二段が解答用紙を6枚選ぶ。ところがその4人目だかに、私の名前が呼ばれたので、「エッ!?」と驚いた。
とまどいつつ前方に向かうと、私の2つ前の席にいた金曜サロン常連のW氏が、
「一公さん、相変わらず何か貰っていくねえ」
と茶化す。しかし私は混乱していて、返事ができない。
岡本氏から賞品をもらうが、この雰囲気、場の流れの中では、「ワタシ、1問目間違えてたんですけど…」とは言えなかった。
席に戻り、いただいた封筒を開けると、岡本眞一郎氏の詰将棋集だった。扉には、中倉宏美女流二段が「慧眼」と揮毫してある。詰将棋好き、宏美ファンにはたまらないお宝である。しかし、私に戴く資格があるのだろうか。
左横には、やはり賞品が当たった金曜サロン常連のI氏が嬉しそうである。私にも話しかけてくれるが、私は上の空だ。
決勝戦の用意が整い、岡本氏、中倉女流二段がこちらへ戻ってくる。私は熟考のすえ、ふたりに歩み寄った。
「あのう…先ほど賞品をいただいた者ですけど…あれは全問正解者が対象なんでしょうか」
「はい」
と岡本氏。やっぱり…と思う。
「あれ、私、1問目を間違えていたんです。だからこれは戴けません」
すると岡本氏は笑って、
「ああ、それはいいですよ」
と応じる。そういえば前年も、「分かりません」と書いた女性の解答も正解扱いにしていた。岡本氏も、自分の創った詰将棋を一生懸命考えてくれただけで、満足なのだろう。
そこで私も引きさがった。先ほどの男性は、決勝戦を間近で見るべく、前方へ移動した。
決勝戦の前に、島井女流初段、藤田女流1級のインタビューがあった。島井女流初段はジャケットを脱いで、白系のワンピースになっている。昨年のマイナビ女子オープン一斉対局のときのように、1枚脱いだときの島井女流初段は強い。
一方の藤田女流1級は、これが現役最後の対局とは思えない平静さである。
解説は、堀口七段と、渡部ツアー女子プロ。
将棋は☖島井女流初段の四間飛車穴熊に、☗藤田女流1級の左4六銀戦法となった。急戦を得意とする、藤田女流1級らしい選択だ。
しかし私の頭には、やはり詰将棋の件が頭に残っている。確かに私の誤答は、紛らわしかった。あぶりだし文字と詰め手数は合っていたし、間違えた箇所も1問目の7手目と9手目だけなのだ。これは採点者が見落としたとしても無理はない。
だがこの詰将棋は、岡本氏が1ヶ月もかけて創ったという労作である。その詰将棋を誤答しながら賞品を戴く、というのはやはりどうかと思う。
本当なら、この本が残り6名の誰かに行くはずだった。この本はファンランキング2位である中倉女流二段の揮毫入りだから、私だって手放したくはない。しかしこの6人の中に、同じ宏美ファンがいるかもしれないと思うと、やはりそのまま黙っているわけにはいかなかった。
私は再び、ふたりのところへ足を運ぶ。
「やはりこれは戴けません」
「……」
「私、7手目の☗3三銀を☗3一金と寄ってしまったんです。☗3三銀は、この詰将棋のキモです。それが見えなかったんだから、やはりこれは戴けません」
そう言うと岡本氏は笑って、
「解りました。じゃあこれは(最後に行われる)お楽しみ抽選会に回しましょう」
と受け取ってくれた。
しかしこの顚末を先に記せば、「お楽しみ抽選会」では、この賞品は提供されなかった。私は最初、連絡不行き届きかと思ったが、そうでないことに気づいた。この抽選会は、優勝者予想クイズの正解者とアンケート提出者の中から選ばれる。しかしその人が詰将棋好きだとは限らない。もちろん中倉女流二段の揮毫はあるが、メインはあくまでも本のほうである。「猫に小判」になってしまう恐れがあるのだ。
では結局、私のしたことは何だったのだろう。温情を見せてくれた岡本氏と、魂を込めて揮毫してくれた中倉女流二段を困惑させ、このブログにすべてを書くことによって、正解者の残り6人がこのエントリを読めば、その方にもイヤな思いをさせることになる。
結局、誰もトクはしないのだ。それでも書かずにおれなかった。つくづく私はバカだなあ、と思った。
(つづく)
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「武蔵の国・府中けやきカップ」へ行く・お詫びだらけ(前編)

2010-03-24 00:32:38 | LPSAイベント
22日(月・祝)は、東京・府中市で催された「第3回 武蔵の国 府中けやきカップ 女流棋士トーナメント」を見に行った。もちろんLPSAの主催で、第34回1dayトーナメントを兼ねている。
開催地は京王線・府中駅から徒歩1分の「府中グリーンプラザ」。午前10時の開場、10時30分開会だが、例によって私は遅刻し、10時35分に6階の大会議室に入る。財団法人府中文化振興財団の挨拶が行われていた。
部屋の後方で、いただいた封筒を覗いてみる。このイベントのスケジュール表と優勝者予想の投票用紙、岡本眞一郎氏出題の詰将棋(3題)、それとアンケート用紙が入っていた。
今回のトーナメント戦出場棋士は、表の左から蛸島彰子女流五段(シード)、中倉宏美女流二段・藤田麻衣子女流1級、大庭美樹女流初段・渡部愛ツアー女子プロ、島井咲緒里女流初段(シード)の6名。解説者は堀口弘治七段、中座真七段。聞き手は大庭美夏女流1級をはじめ、空きの女流棋士が交代で務める。
「府中けやきカップ」は、中倉彰子・宏美女流姉妹のお膝元なので、当然彼女らが主役である。しかしこのトーナメント戦は藤田女流1級の引退試合でもあり、今回は彼女の応援である。優勝者予想は、当然彼女を推すことにした。
女流棋士の挨拶が終わり、引き揚げる。ドア付近にいた私は、女流棋士と目が合ってしまうと味がわるいので、やや離れて目を伏せる。と、
「おはようございます」
と島井女流初段に挨拶され、慌ててしまった。2年前の第1回けやきカップでは、当時LPSAの人気№1だった島井女流初段に「東京都と高知県だけにあるものは何でしょう?」とつまらないクイズを出し、対局前の島井女流初段を困らせてしまったことがある(クイズのヒントは「乗り物」)。あれ以来、私は勝負前の女流棋士との会話は控えているのだ。しかし相手側から声を掛けられれば、その限りではない。
「あ、ああ…どうも。そういえば先日のファンクラブの更新のことですけど…」
と私も返す。そうやって島井女流初段を窺うと、やっぱり魅力的だ。先月改訂したファンランキングでは、島井女流初段を4位から10位に落としてしまったが、大失敗だったと思う。
私は空いている席につくと、優勝者予想用紙の「□島井咲緒里初段」にうっかりチェックを入れ、投票してしまった。
1回戦の2局は別室で行われ、ナマ観戦はできない。室内の前方にプロジェクターとスクリーンが設置され、そこに2局分の盤面(ソフト)が映し出された。
「一公さんですよね?」
と紳士氏が声を掛けてくる。自己紹介されたが、このブログにもときどきコメントをくださる方だ。
「ああ! あなたが…」
私がこのブログを開設してから1年近くになるが、最近はこのパターンが定着してきた。私など大した存在ではないのに、ブログは人と人との距離を近くした。聞くと、彼はかつて東京在住だったが現在は地方に赴任中で、今回はけやきカップを観戦するために上京したらしい。
LPSAにとってはありがたい話であろう。LPSAは、全国のファンに支えられていることを忘れてはならない。そして、ファンを失望させることがないよう、活動しなければならない。
紳士氏が横に座り、私は話を続ける。
「でもさっき金曜サロンのWさんと挨拶してましたよね」
「むかし金曜サロンに行ったことがあるんです」
「ああ、そうですか!」
「でも一公さんはいいですよねぇ。友だちがいっぱいいらして」
「? いやあ、私なんか全然友だちはいませんよ」
「でもいろいろ女流棋士と話をされてるじゃないですか」
第三者が私のブログを読むと、やはりそういう感慨を持つのだろうか。そういえば2年前のけやきカップでは、北尾まどか女流初段と、マンデーレッスンの生徒氏が親しそうに話していて、私も羨望の眼差しを送ったものだった。
「いや、そんなことないですよ。皆さん勘違いされますけど、ブログに書いている女流の先生との会話は、あれがすべてです。本当はもっといろいろしゃべってるんじゃないか、と錯覚させるところがテクニックなんです」
「……。一公さんと話したいと思ってたんですよ。帰り、一杯飲みたいなあ…」
「スミマセン、私はサッと帰る主義なので…」
その言葉にウソはない。もっとも私は友だちがいないので、誘われれば喜んで飲みに行く。しかしこの日は、私を慕う5歳のめいと2歳のおいが自宅に遊びに来ており、イベント終了後は即帰宅の必要に迫られていたのだ。せっかく誘ってくださった紳士氏には申し訳なかったと思う。この場でお詫びしたい。
すでに対局は始まっているが、公開対局は準決勝からなので、現在は堀口七段と大庭女流1級の解説が行われているのみだ。ただしプロジェクターを見やすくするため、前方が暗くなっており、やはり見づらい。
将棋は☗渡部ツアー女子プロ対☖大庭女流初段は、先手が指し易い。☗中倉女流二段対☖藤田女流1級は後手が圧倒的優勢。
「私プロレスが好きなんですけど、地方に行くと、だいたいそこ出身のレスラーが勝つものなんですね。だけど将棋は全然そういうことがないんですね」
と大庭女流初段が言う。たしかにそうで、将棋は相手に花を持たせることがない。そこが素晴らしいのだ。
私は岡本氏作の解答に没頭する。詰め上がり図はあぶり出しになっており、昨年は大駒の不成りをテーマにした「ケ」「ヤ」「キ」、一昨年は「ム」「サ」「シ」だったか。昨年は超難問で、1、2問目は解けたのに、3問目は変化の確認で滞り、正解に到達できなかった。今年もどんな文字が浮かびあがるか楽しみだが、1問目を解かなければ話にならない。
まず1問目を解いた。封筒の裏に、駒があるマスに「○」付ける。「サ」。これはなんだ!?
2問目も解けた。「オ」。そうか! 「サ・オ・リ」か。第1回けやきカップ優勝者・島井咲緒里女流初段の名前だ。これは島井女流初段も嬉しいだろう。
ところでスクリーンの盤面が先ほどから動かない。何かの通信トラブルがあったか。持ち時間は15分、秒読みは30秒なので、2局とも秒読みに突入しているはずだ。
6階は140席ほど用意されており、開会式のときはほぼ満席だったが、5階で「こども15面指し」が始まったからか空席が目立ち、現在は人が戻ってきている。
3問目が解けた。やはり「リ」だった。今年は大駒の不成りはなし。難易度は、あとのほうが易しかった。
大庭女流初段と渡部ツアー女子プロが目立たず入室する。これは…もう終局したことを意味する。会場ではふたりの勝敗が分からず、大庭女流1級の機転で、勝敗を伏せたまま戦いを振り返っていただくことにした。
結果は渡部ツアー女子プロの勝ち。中盤からは優勢だったが、大庭女流初段にも粘る順があり、それを逸したのは惜しまれる。大庭女流初段は昨年の同棋戦では病気不戦敗だっただけに期するものはあったはずだが、諦めが早かった。
中倉女流二段、藤田女流1級が入室し、バトンタッチ。中倉女流二段は今回初めて洋装(クリーム色のスーツ)だが、藤田女流1級は気合の袴着用だ。こちらも勝敗は分からない。しかし藤田女流1級の快勝だったろう。
しかし指し手を進めると、中倉女流二段も容易に腰を割らず、藤田女流1級に決め手を与えない。それどころか藤田玉に詰めろがかかった。王手ラッシュで反撃する藤田女流1級。☖2九竜の王手に☗2八銀合。大盤での感想戦では、これが疑問だったらしい。ここは危ないようでも3八の金を☗2八金と寄るのが良かったようだ。
最後は藤田女流1級が中倉玉を鮮やかに寄せて、薄氷の勝利。中倉女流二段にはつらい敗戦となった。こめかみを指で押さえ、悲痛な表情だ。けやきカップに対する意気込みは並々ならぬものがあっただけに、その心情は察するに余りある。
局後、藤田女流1級とたまたま接触したので、まずは1回戦勝利のお祝いを述べる。
「先生、終盤がねえ…。中盤で判定すれば、いつも先生が勝ちなのに…」
アマチュアがプロの将棋を批評しているのだから、失礼極まりない。しかし藤田女流1級は笑って聞いている。もっとも私が何を言おうが、藤田女流1級はきょうが最後の公認棋戦なのだ。なんだか虚しい。
「とにかく次の将棋もガンバッテください!」
と激励したが、私は島井女流初段の優勝を予想している。ちょっと後ろめたい。
お昼の時間だ。私は懸賞詰将棋解答回収箱に用紙を入れ、昼食に出る。さんざん迷って、入った店は天丼チェーン店の「てんや」。相変わらず似たような食事を摂っている。
準決勝第1局は午後1時から。エレベーターに乗っていると、途中階から中倉彰子女流初段が乗ってくる。
あら、と私の名字を呼ばれ、ちょっと嬉しくなる。女流棋士がファンを獲得しようと思ったら、一回会ったファンの名前を憶えるのが早道だろう。
「今年は出場しなくてすみません」
「いえいえ。聞き手のほうが中倉先生をずっと拝見できますから」
と、怪しい会話を交わす。
準決勝の1局目は蛸島女流五段×藤田女流1級。本局より、室内前方に対局者が座り、公開対局となる。解説は中座七段、聞き手は島井女流初段。島井女流初段は、「島井ブルー」ではなく、ブラウンのジャケットを着ている。
右の塀際に、渡部ツアー女子プロがいる。彼女はこの4月でやっと高校2年生である。きょうも高校の制服姿だ。やはり制服はいい。
☗蛸島女流五段の初手5六歩に、藤田女流1級は☖5四歩。一昔前だったら奇異に映る手も、現在では十分「ある手」である。
5階では、1回戦の敗者による指導対局や、詰将棋タイムトライアル、どうぶつしょうぎのコーナーなどがあるが、藤田女流1級の将棋を見ないわけにはいかない。
その将棋は、藤田女流1級が巧妙に指し手を進めている。中盤、☖5四角と打ったところで、解説が渡部ツアー女子プロに替わった。
ところでどうぶつしょうぎは、必ずしも将棋棋士が強いとは限らない。将棋づけになっている人ほど錯覚することがある。以前私が植山悦行七段と対局したとき、私の■B4ライオンに、植山七段がガシッと、□D2ゾウと打ったことがある。ゾウを角と間違えたらしい。
中座七段によると、きょうは女流棋士も、子供相手に何回か負けたらしい。いや、緩めてあげたのかもしれない。
盤上は、女流棋士らしい、激しい攻め合いになっている。藤田女流1級が飛車を成りこめば、蛸島女流五段も金取りに角を打ち反撃する。終盤近くまで藤田女流1級が優位を保っていたはずだが、どこかで逆転したらしく、蛸島女流五段のほうを持ちたい形勢になった。
しかし当然と思えた☗4一銀が緩手だったようで、手抜きで☖4七との詰めろが冷静な判断だった。以下☗3二銀成に☖2四玉と逃げた形が妙に寄せにくい。さらに蛸島女流五段の錯覚もあって、藤田女流1級の再逆転勝ちとなった。
2時15分からは準決勝の第2局だが、私は5階展示室へ下りる。
ここは前述のイベント各種のほかに、自由対局コーナーもある。満員で、机を足す有様だった。盛況でなによりである。
どうぶつしょうぎのコーナーは、大庭女流1級の担当。ここは母子ペアが圧倒的に多い。どうぶつしょうぎは、ゲームのひとつとして、また本将棋への入門ツールとして、その存在を完全に確立した。ルール開発の北尾女流初段、デザイン考案の藤田女流1級には、将棋関係者が何らかの報償を贈呈すべきであろう。
多田佳子女流四段の顔も見える。多田女流四段は、こうしたイベントにはいつも顔を出してくださる。ご本人が目立つことを潔しとしないせいか、表だった行動はしないが、普及に懸ける情熱には頭が下がる。
さて、私の目当ては「詰将棋トライアル」。15問を何分で解けるかを競うものだ。しかしそのブースを見ると、それを解いているのは小学生と思しき子供しかいない。
こんなところに大のオトナが参加の申し込みをしていいものか。私は躊躇した。
(つづく)
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金曜サロン・島井咲緒里女流初段①

2010-03-23 00:16:44 | LPSA金曜サロン
1月29日のLPSA金曜サロン、夜は島井咲緒里女流初段の担当だった。言わずと知れた、LPSAで唯ひとりのアイドル系女流棋士である。
昨年の島井女流初段は体調不良から、公式戦以外の対局を休場していた。今年の指し初め式で拝見したが、その前となると、昨年7月の「マイナビ女子オープン・予選一斉対局」で、凄みのある対局姿を拝見して以来であった。
島井女流初段との指導対局は、これまで角落ち1局、香落ち3局、平手5局の計9局だが、私がこのブログを始めてからは、初めての対局となる。金曜サロンレギュラー・最後の大物が、ついにエントリとなったわけだ。
指導対局に入る。盤の前に座っていると、島井女流初段がいらっしゃる。かなり久しぶりなので、緊張する。私が2年前、金曜サロンに通い始めたころは、島井女流初段に教えていただくのが、いちばんの楽しみであった。
島井女流初段は私を見て何か言いたそうだったが、そのまま駒を並べる。私も何も発しない。
指導対局開始。指導女流棋士にも長考派と短考派がいて、LPSAの早指しは、島井女流初段と船戸陽子女流二段が双璧だと思う。こちらが「本当に考えてんの?」と思うくらい、早い。それでいて指し手は急所を突いてくるから、始末がわるい。
ただしこちらもそこが付け目で、ただでさえ多面指しでは上手に見落としがでる。島井女流初段にもそのケが多分にあり、いままで必敗の将棋を何局か拾わせていただいた。こういうことがあるから、わるくなっても粘り強く指すことが肝心である。
将棋は島井女流初段の十八番・四間穴熊に私の棒銀。島井女流初段が私との平手戦で穴熊を志向したのは前局(08年12月)が初めてで、かなり珍しい。初めて穴熊に潜っていただけたのは、平手で3局教えていただいたあとの香落ち戦だったが、そのとき、少しは本気を出していただけたかなと、嬉しかったことを覚えている。
島井女流初段は△7二飛と廻り、私に▲6六銀を余議なくさせてから△3二飛と振り戻すなど、自在の指し回し。実戦不足はまったく感じられない。
なおも島井女流初段にいいように動かれて、迎えた局面が以下のごとくである。

71手目、私が▲7七角と打った局面。この直前、△4二金取りに▲2二飛と打った手が悪手で、△3三角から△6七歩成~△9九角成とされ、一遍にこちらが悪くなってしまった。
ここで島井女流初段に△8八香と打たれ、投了。▲8八同角は△9八飛と打たれ受けがない。捨て置いても△8九香成で、▲9九角は△7九飛で詰んでしまう。と言って▲6九玉の早逃げも、飛車の王手から2九の桂を取られ、ジリ貧は否めない。もっと島井女流初段と盤を挟みたいのはヤマヤマだが、苦しい将棋を指し続けるのはやはり無理で、投げてしまった、というわけだ。
久し振りの指導対局だったのに、島井女流初段を手古摺らせることができず、自分の棋力不足が情けなかった。次回はもう少しマシな将棋を指したいと思った次第。
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金曜サロン・神田真由美女流二段⑥

2010-03-22 01:39:34 | LPSA金曜サロン
きのう21日(日)にクリックされた女流妻恐戦、女流最強戦は、中井広恵女流六段が矢内理恵子女王を降して、同棋戦2連覇を飾った。元女流名人のおふたりらしい、重厚な戦いだったと思う。中井女流六段にはお祝いを申し上げます。

1月29日のLPSA金曜サロンは、昼が神田真由美女流二段、夜が島井咲緒里女流初段の担当だった。
まずは神田女流二段との指導対局。この日は黒系統のスポーティーな服装だった気がするが、よく思い出せない。
神田女流二段は戦形のレパートリーが広く、いつも予想がつかない。この日は☖4三銀型から☖3五歩と伸ばし、三間飛車から石田流に構えた。下手は石田流に組ませて指すのも一法だが、飛車を振る前に☖3五歩を突いたので、先に☗2五歩☖3三角を決めてしまう手もあった。
これだと上手は☖3五歩を守るためにどこかで☖3四銀と上がることになるが、「それは銀が取り残される懸念がある」と、植山悦行七段に聞いたことがある。
神田女流二段は☖4五歩~☖8八角成~☖5五歩と軽快に捌く。神田女流二段はこんなに軽い棋風だったろうか。とまどいつつ応接していたら、いつの間にか不利になっていた。
そのあとは神田女流二段に飛車を切って猛攻され、下手玉は落城寸前。その局面の符号を以下に記す。

上手・神田女流二段:1一香、1三歩、3二金、3五歩、6一金、6二銀、6三歩、6七馬、7二王、7三歩、8一桂、8三歩、9一香、9三歩 持駒:金、銀、歩3
下手・一公:1七歩、1九香、2六歩、2七金、2八飛、2九桂、3七歩、4五銀、4七歩、5五歩、7六歩、8七歩、8八玉、8九桂、9七歩、9九香 持駒:飛、角、銀、桂、歩

神田女流二段が☖6七馬と、歩を取りながらひとつ寄ったところ。
私は☗2七金が遊んでいて、この金を見るだけでウンザリする展開。☗4五銀もいまひとつの働きだ。以下☗7八角☖同馬☗同玉☖6六銀に☗6七歩と打ち、小康を得た。このあたりは局後検討をしたのだが、☖7八同馬では☖6六銀とつないでおくのが良かったかもしれない。これなら次に☖7八馬☗同飛(☗同玉)☖6七角が厳しい。だから☖6六銀には☗6八歩と辛抱するのかもしれないが、ここは研究課題であろう。
本譜は☗6七歩に☖5七銀成☗6五角と進み、以下むずかしい戦いが続いた。
神田女流二段の自在な指し回しが勉強になった一局だった。
コメント (4)
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