恍惚とは→
1 物事に心を奪われてうっとりするさま。「―として聴き入る」「―の境地」
2 意識がはっきりしないさま。
3 老人の、病的に頭がぼんやりしているさま。有吉佐和子著「恍惚の人」(昭和47年)により流行した。
(デジタル大辞泉の解説より)
このパソコン、昨年買ったばかりで老人でもないのに、早くも恍惚の人。いや、人じゃないので恍惚のパソコン。
だって、ある日突然「分かる」が分からなくなってしまったのだ。
「わかる」を打つと、「輪」と「駆る」に必ず分かれる。
大体、「わかる」には少なくても「判る」「解る」「解かる」「若る」「分かる」、ひらがなカタカナなども含めて7以上のパターンがあるはずだ。そして「分かる」「分かりません」は本当によく使う言葉なのだ。
チョーが三個つくぐらい不便。変な所で切れるのは、パソコンが変な風に学習してしまったからだと思って、いろいろ試したけれど直らない。
そう言えば、ちょっと前から他の言葉も変換がスムーズでなくて、「このパソコン、お利口じゃないわ。」と夫殿にボヤいていたのだった。きっとその悪口を聞いていたのに違いない。ひねくれてしまったのか、とうとう分かるが分からない恍惚のパソコンになってしまったのだった。
パソコン生活を始めて何年も経ったというのに志低く、未だに分からない事だらけで、とうとうラッタ君にお願いすることにした。
「これダメだな。」と何かを何かにチェンジしてくれた。その何かの部分は、彼に聞けばいいのだけれど、面倒なので「何か」で良い事にする。なんたって志が低い・・・・むにゃむにゃ。
「しかし『わかる』が『わからない』なんて、なんて哲学的なパソコンなんだ。」と、ラッタ君がのたまう。
「確かに。しかもなんで『わかる』が『わからない』のか、『わからなくなった』事が『わからない』と言う言葉の迷路。」と私。
そう言って振り向いたら、すでにラッタ君はいない。
ちょっとムカッ。
まあ、いつもの事なんだ。
だけど「恍惚のパソコン」ではなく、マイパソコンは「哲学するパソコン」だったらしい。
※ ※
「ああ、分からない。」
「何が分からないと言うの?」
「何が分からないのかが、分からないんだよ。」
「そうね。その分からない何かが分かれば、きっとすべてが分かるわ。」
「何も分かっちゃいないくせに、分かったような口をきくな。」
「ごめんなさい、あなたの事が分かりたくて。」
「ああ、ごめん。俺も強く言い過ぎた。」
―ああ、今、分かった。
だけど男はその時ふと思った。
―俺はこの女を愛していない。
女はやたら感が良かった。その時なぜだか男が何を考えたのかが分かってしまった。
ーだけど、私は昔から『愛』ってなんだか分からない。そんな女だって自分で分かっていたの。だから精一杯に微笑んで、精一杯愛している振りをしているの。
「ねえ、あなた、愛してるわ。」
「俺もだよ。」
不確かなものを確かなものにするように悲しげに女が言うと、そう男も何かを閉じ込めるように言葉を返した。
「あなた、穏やかな顔になったわ。何が分からないのか分かったの?」
「ああ、たぶんね。『分かる』って事にはあんまり意味がないって事が分かったのさ。」
※ ※
これでもかって言うくらい、使ってやりましたわ!!
どう?分かった?