=夏の思い出を語りましょう。=
なにやら世の中の節電事情に合わせて、テレビでは江戸の暮らしを取り上げる機会が、此処のところ多かったのではないかと思います。
江戸には江戸の、その時代の知恵があったのですね。
だけど・・・・
知恵があったかどうかは知りませんが、ほんの少し前の日本の夏だって、こんなに電気を使う夏ではなかった事だけは確かです。
「今日は本当に暑いね。」と言った日の気温が30度。
冷えたスイカを食べてれば凌げる温度だったと思います。
私は夏が大好き。
それはきっと夏の思い出が美しいから、毎年そう思うのだと思います。
清少納言の枕草子では
「夏は、夜。月の頃はさらなり。闇もなほ。蛍の多く飛び違ひたる。また、ただ一つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」(夏は、夜がよい。満月の時期はなおさらだ。闇夜もなおよい。蛍が多く飛びかっているのがよい。一方、ただひとつふたつなどと、かすかに光ながら蛍が飛んでいくのも面白い。雨など降るのも趣がある。)と言っています。
確かに夏の夜は良いのですが、実は早朝も良いと思いませんか。
子供の頃からお風呂に入った後にトイレに行くのが嫌で、入浴後はさっさと寝てしまっていました。それが7時半であろうと8時であろうと。そうすると、そこから9時間10時間は寝ていた子供時代でしたが、それでも家族の中で一番早く起きてしまっていたと思います。
そんな私は、ひとり庭に出て庭の木々と戯れて、手足を濡らしていました。木々に舞い降りた朝露はひんやりと冷たかったと思います。
庭にひとり佇んでいると、
「どうしたの?」と朝の早い豆腐売りのお兄さんが、声を掛けてくれました。
朝の豆腐売り・・・・
いたのですよね。夕方の豆腐屋さんの姿は映画の「三丁目の夕日」などにも出てきたと思いますが、実はお豆腐屋さんは朝も早くから出来立てのお豆腐を売り歩いていたのですよ。
とう~ふ~♪
あのラッパの音は、不思議にちゃんとそう聞こえてきます。そして何故だか物悲しくも聞こえるのです。
でもそれは私が小さかった頃のお話。その豆腐屋さんは近所にあって結構長くやっていたけれど、朝に売り歩く事はいつの間にか止めてしまっていました。きっと冷蔵庫が普及したからかも知れませんね。
ところで金子みすゞの詩で
「誰にもいわずにおきましょう。
朝のお庭のすみっこで、
花がほろりと泣いたこと。」
と言う文があるのですよ。
素敵な表現ですよね。これは5年生の国語の問題集に載っていたのですが、
「どのような様子を『花がほろりと泣いた』と表現しているのですか。」と言うのが問題です。
これを解いていた少女には、答えが分かりません。
私は心の中で
「だってさあ~、答えがタイトルに書いてあるじゃん。」と思いつつ、笑顔で
「夏の朝にね、早起きして・・・」と上に書いてあるような思い出話をしたところで、
「この詩の題名はなあに?」と聞きました。
この詩は「露」と言う題名なのですよ。
「ああ~。」と頭の良い少女は笑いながら分かったと言う風に言いました。
でもその目で、頭の中で「露=花がほろりと泣いた」が良く分からないと言っていたのが分かりました。
「露」。その言葉を知ってはいても、意識して葉の上の花の上の水滴を見たことがないんじゃないかなと思ったのです。
今時の子供はいろいろな事を知っているけれど、また、いろいろな事を知らないなと思ったのでした。