―姉は長女らしい文字をその名前の中に持ち、次女であり2月生まれの私には「春」を望む音があり3月生まれの妹には逆に冬を偲ぶ音が名前に隠されている。一番下の妹は7月生まれで、まさに夏の象徴的な名前である。そんな私達には秋はない。つまり飽きは来ないのである。―
久しぶりに4人が実家に集合で、四季の家のお話です。
お盆だったからか、父はあのよ~って所から帰ってきているのか、なんでか見えないけれど、その辺にいるような気がして仕方がありませんでした。
という訳で、久しぶりの家族6人(父は無理やりカウント)+姪がひとりの賑やかな家族の食卓です。
私が感じた父はその辺にいるという感覚を母はいつも感じているようです。だからなのか母は父の夢を見たことがないと言います。
姉と夏と私は父の夢を見たことがありますが、夢の中でも父はちゃんと死んでいるという設定です。
私の見た夢はすこぶる私らしいというか・・・・
まだ亡くなってすぐの頃見た夢。
父はいろいろな人の体を借りて、私と二人でいろいろなところに行くのです。昨年見た夢なので物語は忘れてしまいましたが
「パパ!!この手があったじゃない。こんな風に誰かにのり移って行けばイイよ。そんで私達の傍にずっといて。」と私は言い、父の姿じゃない男の人の肩をそっと抱きしめるのでした。ホラー&自分勝手&ちょっと切ない夢の話。
姉の見た夢は、とにかく父は満足そうに笑っていたという姉らしい良い夢でした。
だけど夏が見た夢は、ちょっと怖いと思いました。
なぜなら父は棺の中からムクリと起き上がり、無表情に手を振ったというもの。
なんかホラーチック。
でもその後に、彼女がどこかのドアを開けると、そこは昔住んでいた家でそこに家族全員がいて、みんなで手を振っているというのです。
幸せで何の心配のない幼い時代の甘酸っぱい思い出が、彼女にそんな夢を見させたのでしょうか。
ところで我が家、しょうもない決まり事があるのです。
その決まり事が守れるか否かは運命次第なのですが、出来ればその決まり事どおりにしたいと思ってはいるのです。
その決まり事というのは、年功序列に死ぬということ。
80歳を過ぎた母が言いました。
「とにかくみんなも80歳までは粘り強く生きていくんだよ。」
こういう話になると、一番歳下の夏だけは、ちょっとだけ不安な表情を隠せません。彼女には子供がいないし、姉とは一回りも離れているからです。彼女が80にたどり着いた時には、姉は92歳。私は89歳。生きているかは微妙です。故に彼女が戦うものは老いのみではなく置いて行かれる孤独なのかもしれません。
すぐ下の妹の冬が言いました。
「私の娘には言っておくから大丈夫よ。」
「うん。でもね面倒を見てもらうのはお葬式の時だけよ。後時々生存確認ね。他の時はひとりでたくましく生きていくのよ。今から鍛えてさ、いろいろ。」と私は厳しいことを言います。
「それで一人になっちゃって、しかもぼけちゃったら、すぐに迎えに来てあげるわ。」と妹。
「そうね。ひとりになっちゃってそしてぼけちゃったら、厳しいものね。じゃあさ、徘徊しようと玄関を開けて道路に出たら・・・」
「そうそう、道路の向こう側にみんながいて手を振ってるの・・・。あれっ!?これってさっきの夢じゃん。予知夢か?」
こうなっていくと妄想は止まらないのです。
「道路の向こうはなぜか子供の頃の家。そこでみんなが『お茶の時間よ、早くおいでよ』って手招きするのね。」
「やっだー。あんまり痛いのはやめてね。」って夏。
すっかりその気になってるじゃん。
「じゃあ、大きなダンプが来た時に呼ぶね。」と冬。
うっ、それちょっと怖い発言。それで
「びゅーん、くるくる・パッ!!着地成功~!『ヤーヤーお茶の時間に間に合ったね。』っていうのね。」
だけどこの辺でオチがなくちゃね。
「そこであなたが、『あらっ、まだ姪や甥たちは来てないの?』ってニコヤカに言うと、それまで優しい顔のお姉ちゃんたちがみんな鬼のような顔になって、『まだ早いんじゃい。呼ぶんじゃなーい!!』って取り囲んで、『えーん』ってあなたが泣くのね。」
夏はいつまでたっても私達にとっては小さな妹なのかもしれません。
未来の不安は、たとえそれがブラックであってもジョークで笑い飛ばす。
だけれど、母はそのブラックジョークにはついてこれなくて、オロオロと
「なあに、あなた達はなんで死ぬ死ぬという話をしているの。」と文句を言いました。
だけど私と冬は真顔になって母に言いました。
「ううん。お母さん。私達は80過ぎまでシブトク長く生きるっていう話をしているのよ。」
※ ※ ※
今年の夏は(妹じゃなくて)、私は一応病気。それとうまく付き合ってるふりをしています。
熱を出し、この前姉妹四人で会う約束を流してしまったのは私のせい。
そんな私を何かにつけて妹の冬は心配してくれるのです。
だけどみんなで山梨に行った時には元気で美しい顔をしていた彼女は、その後かなりハードな病気が見つかって闘病中。
頑張っています。薬がきついのでその副作用がひどくみかんも剥けません。(この前あのドラマで言っていたことは本当だったのです。)
その副作用を和らげる薬の副作用がまたまたひどくてふらふらしています。
見た目もボロボロです。
でも彼女の強さは、そんなのは過程に過ぎなくて、今に全部いい風に終わるんだと思えてくるのです。
それでも、私は時々彼女の強さが逆に怖くて、ポキンと折れてしまわないかとドキドキと不安になるのでした。
そんな私の気持ちを電話で聞いて、姉が言いました。
「まずはみんな、自分の心配をしましょう。」
※ ※ ※
みんなより先に帰る私を玄関まで見送ってくれた冬。
「じゃね~。じゃあ、次は自由が丘で焼き肉ね。」と言って靴を履いて外に出た私でしたが、
ふと気になってもう一度振り向いて彼女を見て「じゃね」ともう一度言い頷き合いました。
その時なんの根拠もないけれど、
「ああ、大丈夫だ。」と私は強く思いました。
来年は鬼怒川温泉に行って、前に行って楽しかった日光江戸村にも行くけれど、鬼怒川ライン下りもするという予定も立ちました。
その時は、みんなで今年の夏(妹じゃなくて)を肴に笑い合おうと思います。