早いものでもうすぐスノウさんの49日がやってきます。
※「約8年 その7」の続きです。(『その1』から『その6』まではその記事にリンクしています。)
じゃあ、その49日になる前に、小さな告白をしておきましょうか。この話には姉の蝶子さん、スノウさんが登場してきますが、私はずっと口を閉じ真実を語らなかったので、二人とも知らないお話です。と言うよりも、そもそも覚えているような事ではないのです。
それは私のちっぽけ過ぎる罪と罰の物語。
このお話には、かなり嫌な女の子が出てきます。それって、私の事ですが。
だけれど中学生の国語の教科書にも長年載っている、ヘルマン・ヘッセの「少年の日の想い出」の主人公の少年だって、友人の自慢の蝶を盗み、それを屈折した自分の心のせいで、その蝶をくしゃくしゃにしてしまうと言うクソガキ・・・いやいや・・・成長途中の少年が出てきますし、作者名は失念しましたが、どうしても欲しいからとロクタルカンを万引きして、それが壊れていたからって、真夏の夕方をひとり黄昏ている様な、まったく庇いたくもないような少年が出てきます。
だからって言い訳にはなりませんが、みんなそうして学び大人になっていくのだ !! ←無理やり^^
それはいつの事だったかしら。たぶん私が小学校1年生から4年生の間。
とにかく名都さんが生まれる前のスノウさんは、我が家の王女様でしたから、なにげに我儘。
だけどまだ幼児なわけですから、いろいろと当たり前のことだったのです。
例え人の物をかってに触り、ひっくり返して片付けなかったとしても。
だけどある日、私はキレました。
そして泣きました。
まだ新しかった色鉛筆のケースをひっくり返して、色鉛筆たちが部屋中のあっちこっちに散乱していたからです。
「もう嫌だから!!」とヒステリックに泣く私を慰めて、姉の蝶子さんが言いました。
「大丈夫だよ。無くなっちゃってたり折られちゃっているものがあったら、みんなお姉ちゃんが買ってあげるから。」
それで私は泣き止んで、寧ろ、また新しい鉛筆を買ってもらえることが嬉しく感じてていたのです。
それで部屋中に散乱していた色鉛筆を片付け始めたのです。
ところが、鉛筆は1本も無くなっていないし、それらは皆芯さえも折れていなかったのでした。
普通なら「なーんだ、ああ、良かった。」で終わった日常茶飯事な出来事でした。
だけどその時、ふと、先程大泣きをしてヒステリックに騒いだ自分を思い出し、なんだかバツの悪い気がしてしまったのでした。
そしてとんでもない事に、私は二本ランダムに鉛筆を選んで、ポキリポキリと折り、蝶子さんに「ほらねっ。」と言って見せ、そしてスノウちゃんが如何にとんでもない子なのだと訴えたのでした。
「じゃあ、約束したから買いに行こう。」と蝶子さんは言って、そして二人で近くの文房具屋さんに行きました。
そこには色鉛筆のばら売りのコーナーがあって、私はいつも、そのコーナーを意味もなく見る事が楽しみでした。
同じ色が何本もひとつの所に納まっていて、それが何種類も並んでいる、それが綺麗で楽しくワクワクさせるものがあったからです。
そしていつか私もそこから、鉛筆を抜き出してバラバラと買いたいなと思っていたのです。
チャンス到来です。
スノウちゃんにも蝶子お姉ちゃんにも、少々の罪悪感を感じながらも、私はちょっと嬉しくなってそのコーナーに行きました。
ところがー。
私は吃驚し、そしてがっかりしてしまいました。その色鉛筆コーナーに、私が抜き出して折った二本のその色たちだけが1本もなかったのです。
本当にそれらの色だけ !?
お店のオバサンに聞いたら、そのコーナーは、ほとんど売れないから、もう補充しないと言いました。
私はしょんぼりして、そのお店を出ました。
不機嫌な顔をして歩く私に、「仕方がないよね。」と蝶子さんは慰めようとしてくれたと思いますが、私がブスッとした顔をしていたのだとしたら、それは不機嫌だったからではなくて、恥ずかしかったからにほかなりません。
ほらねっ。
如何に子供の頃の事だったとしても、こんな事は言えなくても無理はないと思いませんか。カッコ悪すぎる・・・・。
だけど今思うと、姉妹で集まった夏の夜などにスイカなどを食べながら、こんな話をしたならば、きっとスノウさんは笑いながら言ったんじゃないかなと思います。
「やーい、罰が当たったんだ。」ってね。
そう。これは私のちっぽけ過ぎる、罪と罰の物語。
だけど何をいまさらですが、大人になってからだいぶ経ちました。
その大人の目で、この話を思い出すとき、これは本当は罰の物語ではないのではないかと感じるようになったのです。
私は「仏はじっと見ているぞ。」と言うような言葉が、意外と好きなんです。
誰もあなたの行動を見ていなくても、または分かってくれなくても、見えない何かが見守ってくれていて、そして分かってくれているのだと言う言葉です。
卑屈な言い方ですが、私なんぞは他者から見たら、あまり存在感がないと言うか・・・
だから本当は、「それ、私がいなかったら成り立たなかったのでは ?」と思うようなことでも、あまり他の人から見たら認められていないような気がするのです。
だけどだからと言って本当には卑屈になどならないし、自己肯定感もさほど低い方ではありません。
「あまり存在感がない」と言えてしまうのは、その自己肯定感が低いからではなくて事実だからです。
それなのに、なぜ卑屈にもならないかと言えば、その見えない何かが、私を見守っていてくれているからだと感じているからです。
あの時、ランダムに選んだその二本の鉛筆の色だけがなかったー。
見えない何かが、私にその色を選ばせたー?
もしもあの時、ほんのちょっぴりの罪悪感と共に新しい鉛筆を手に入れてしまったら、私のその後の人生は、ほんの少しだけ角度を変えて進むことになってしまったかも知れません。もしくは、その後に感じた罪悪感は「ほんのちょっぴり」なんてものではなくなってしまったかも知れません。
やっぱり私は、見えない何かに守られていたんだなと思うのです。
だけどこの話はスノウさんにも蝶子さんにも、ずっと話せなかった私の秘密。
この記事は、書き始めた時と書き終わりの間で、少々時間が経ってしまいました。
5月4日にスノウさんの49日が終わりました。
スノウさんの最後の日々に、私はあまり悔いはないのです。私の知恵の範囲で出来る限りの事はやり切ったからです。
だけどそれでも私は思います。
もっといっぱいもっといっぱい、お話したかったなぁと。
そんな事を考えながら、やっぱり一人で時々泣いています。
誰も私が、そんな風にメソメソしているなんて知りません。
49日の席でも、しんみりなどしていませんでした。
写真を撮る時、うっかりと(^^)vサインなんかをして、「これはナイナぁ。撮り直して。」とか言ったりしたりして。
たぶん私が泣き止むのは、このシリーズが書き終わるころかもしれません。
またランダムに続きます。