京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

 『沈黙のひと』

2014年03月09日 | こんな本も読んでみた

 
幼い頃に母と自分を捨てて、再婚していた父。残してきた娘可愛さで度々訪ねてくる身勝手な父は、晩年は病にかかり、語るにも語れない、意思表示さえままならなずに多くを「沈黙」するしかなかった。その父の中に横たわる寂しさ、無念の思い、後悔の気持ちを感じることができた娘の衿子。けれど家族として、父娘として、二人の間には巻き戻すことのできない失われた多くの時間があり、衿子の知らないできた父の姿がある。

父の死後、今頃になって詮なきこととわかっていながら、父が残したワープロ内の「覚書」や、二人の異母妹とその母親、父の愛人、父の和歌友(女性)との交流の書簡、…などをてがかりに心を寄り添わせていく衿子の姿。描かれる父の人間像。

父の「長かった沈黙は終わりを告げ」た。けれど、衿子は問いかけている。
「何一ついいことがない、救いも希望もないまま死んでいかなくちゃいけなくなったら、どうする?」 

衿子は、
 「もう一度、生まれてきたい、って思うかもしれない」
 「百回生き直しても、…やっぱり自分の人生を生き抜いてみたいって思うかもしれない」
 「人間の本能って、そういうもんじゃないのかな」、と。

「声にならない。言葉にならない。気持ちがまとまらない。沈黙するしかない」
読後、何か心にたまり込むものがありました…。
コメント (6)
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