「金があったら本を買っておけ。どんな本でも3年たてば役に立つ」、尾崎紅葉は弟子にこう説いていたらしい。
2年ほど前に購入したはいいが、そのまま眠らせてしまった一冊、『東慶寺花だより』。
江戸時代、幕府公認の女性救済のための寺として東慶寺があった。身につけている物を寺の門の中に投げ入れさえすれば駆け込みは成功とされる。駆け込みに成功した後は、寺の御用を務める御用宿が「夫と別れたい」女性の事情を詳しく聞くなどしてその役割を果たす。
足かけ11年連載されたという作品は、この御用宿を舞台にして、花の名の章立てに主人公の女性の名、【梅の章 おせん】などと、15話が収められている。
これを原案とした映画「駆込み女と駆出し男」の上映が始まった。ようやく出番が来て読み始めたが、まずは「映画館へ駆け込」んだ。東慶寺に駆け込む事情も様々に、情味があり、とてもよい映画だった。
旅、美容院、劇場、映画館、図書館、書店、行きつけの飲み屋さん…。それぞれの隠れ場所(アジール)にこもって「自分の頭の中を整理し気持ちを落ちつかせようとしているのでしょう」。いつの世にも「隠れ場所は社会に必要な装置だと思う」と井上ひさしさん。