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京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

『西行花伝』

2020年04月22日 | こんな本も読んでみた

やっとやっと、相当な時間をかけてようやく読み終えた『西行花伝』(辻邦生)。
「花伝」、このタイトルの2文字がどのような意味を持つているのか。興味はあったが私を長年遠ざけていた作品だった。

西行の評伝ではないし評論でもなかった。
中心人物一人に限定せずに、その周囲にとりどりに位置を占めた、西行と縁のあった人物群の語りという手法で西行像を多角的に描き出している。西行自らの昔語りもはさまれて。
裏表紙には、「流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻」とあるが、まことにふさわしい表現に思えた。

語彙、字句の豊かさにしばし思いを留め、引用される多くの歌を味わった。
一所不住。流離。だが、ひとり草庵に引き籠って花鳥風月と遊んでいた人ではない。現実(うつせみ)に背を向け山林に閑居を楽しんだけの人ではなかった。
余韻に浸り、ページをめくり返し、思いを熟させるには少し時間もかかる、読み応えのある大作だった。。


どこかへ出かけることもままならない今。ネットの世界を巡ってつい時間を費やすこともあるが、大事な一冊の本を見つけ、作品と向き合い会話を楽しむほうが、はるかに豊かな時間を持てることは間違いない。
コメント (4)
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