京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

灯り

2022年10月06日 | こんな本も読んでみた
肉厚の葉陰にツワブキの花茎が伸び出しているのに気づいて、去年のことは忘れているから小さな感動を覚えたが、その数日後にはこうして葉の上にすっくり、たくさんの蕾を付けて顔を出した(5日)。


茎は何本も伸びるので、意外と花期は長い。黄色い花の色が体感的に暖かく思い出せるほど、肌寒い気候になった。

    寺の庭     室生犀星
   つち澄みうるほひ
   石蕗の花咲き
   あはれ知るわが育ちに
   鐘の鳴る寺の庭

「この詩に咲いているつわの花もまた『灯台の灯』、『難破した人々の為』のものではなかったか」-とは杉本秀太郎さん。


犀星の〈ふるさとは遠きにありて思ふもの / そして悲しくうたふもの…〉(「小景異情」)はよく知られる。
不遇だった幼少時代。共感を呼び起こされた多くの人が、お酒に酔いつつ口ずさんだ詩ではなかったのだろうか。



『ノボさん 小説正岡子規と夏目漱石』に息づく子規の姿が印象深く残った。
「子規という一人の傑出した明治人の存在が多くの文学者を輩出した」と文中にある。近代文学の開拓者である。

文学に目覚め、道を探り、苦悶しながら多岐にわたる大仕事を成す闊達さ。教えを請う新しい人、自分を頼ってくる人を拒むことのなかった子規。格別だった漱石と子規との交友を始め、そこに集った人たちへの作者の理解やまなざしは深い。

べーすぼーるに興じる子規。腕を振り回し、大きな声を出し、目を輝かせて笑う。
身体の激痛に呻き、生きる子規。
伊集院氏が描いたノボさんののびやかな生は、そこに生きる人々の魅力あるあたたかな灯だったことだろうと思わせてくれた。

コメント (2)
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