京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

自分の中にもう一人の自分を飼う

2022年10月15日 | こんな本も読んでみた
その瞬間は一過性のものだったとしても、もし心のどこかに蓄えられていれば、なにかを探して生きていくうちに目覚めることもあるだろう。
若い時にこそ知っておく、触れておいて欲しい。そう思って、中学生には難しいとは思ったが高校生の胸に働きかけてみた。

文芸評論家としてのお名前を知るくらいだった加藤典明さん。難病を得て2019年5月に71歳で急逝された。書評で『大きな字で書くこと』を知って購入したのが8月半ばだったから、ずいぶん長いことをかけて読み継いだ。141ページほど、単に読むのが遅いということにもなるが、少しずつときどき手に取って…という読書もある。


【小さな字でぎっしりと書いてきた。簡単に一つのことだけ書く文章とはどういうものだったか。それを私は思い出そうとしている。大きな字で書いてみると、何が書けるか】(「大きな字で書くこと」)

【自分の中にもう一人の自分を飼うこと。ふつう生活している場所のほかに、もう一つ、違う感情で過ごす場所を持つこと。それがどん詰まりのなかでも、自分のなかの感情の対流、対話の場を生み、考えるということを可能にする。それは、むろん、よく生きるためにも必要なことである】(「もう一人の自分を持つこと」) これは2019年3月2日に記されている。

読んで氏の思いをためて…、今一度、二度も三度も、巻頭の詩に戻る。
病床で最後に記したという自作詩「僕の本質」。

「僕の本質は / いま / 表と裏を見せながら庭に落ちる / 一枚の朴の葉//」
「誰にも言えないことを抱えることは / 一枚の朴の葉にとって / 大切なことであろう //
表と裏があることは / 一人の人間が人間であるための / 本質的な条件なのだ//」

病床から贈られた言葉を、若い子たちと一緒に耕してみたいと本日の寺子屋サロンで紹介してみた。


コメント (4)
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