京の辻から   - 心ころころ好日

名残りを惜しみ、余韻をとどめつつ…

鳥、虫、木々、草や花、風、雨、光…に言葉がある

2025年01月23日 | 日々の暮らしの中で
夜中に目が覚め、眠れずにいるとどうしてもあれこれの考えごとが始まる。それなら本の続きを読んでいた方がずいがまし。その間は余計なことを考えずに済むからだが、睡眠時間が削られる。これが良くないことはわかっている。
ではどうする? と思いつつやっぱり本を開く。

先日建仁寺に行った帰り、京阪三条駅ビルにあるブックオフに立ち寄ったところ、『あん』(ドリアン助川)が書架に並んでいた。
かつてブログを通じて教えていただいた作品だった。出会いがなく読まずにきていたが、今になって縁がまわってきた。きっと〈読みどき〉というものがあるのだ。
昨年末にはハンセン病を患った塔和子さんの歌や詩に触れる機会を得たこともあり、登場人物の吉井徳江と重ね合わせてしまいがちな部分もあった。


塀の中で数年を過ごしたあと、どら焼き店々長として休みなく働く千太郎。求人広告を見て、手の不自由な70代半ばの女性が応じてくる。彼女もまた隔離された生活を余儀なくされてきた人だった。
徳江が作る絶品のあん。「お互いがお互いを想いあい慈しみあう」交流が深く心に染みた。

ハンセン病の療養所「天生園に遊びに来る鳥たち、虫、木々。草や花。風、雨、光。お月様。すべてに言葉があると私は信じています。それを聞いているだけで、一日はもう目一杯です」と徳江さん。
「聞きなさい」「耳を澄ませなさい」「想像してごらん」はトクちゃんの口癖だったと園での親友が言った。
それは - 現実だけ見ていると死にたくなる。囲いを越えるためには囲いを越えた心で生きていくしかない - 生きるすべだった。徳江さんの言葉の奥に潜む思いを千太郎も私も知る。

今年もオニグルミの冬芽を見に出た。徳江さんを思いだし、背筋が伸びるようだった。
 〈真直ぐに行けと冬芽の挙(こぞ)りけり〉  金箱戈止夫


 
歩けば汗ばむほどのお散歩日和に。       
コメント (7)
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