雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

天使の分け前 ・ 小さな小さな物語 ( 1220 )

2019-12-08 15:20:59 | 小さな小さな物語 第二十一部

反社会的勢力との関わりがスクープされたことにより表面化したお笑い芸人にまつわるトラブルは、所属会社の対応の悪さもあってか、所属会社と所属タレントとの契約のあり方、ギャラの配分などにマスコミの注目が移っている感があり、問題提起となった雑誌社も含め、問題の本質が何なのか分かりにくくなっている感があります。
それはともかく、今や注目の焦点になってしまった感のある、ギャラの配分という問題を考えてみたいと思います。
問題の舞台となっている会社は、お笑い業界ではわが国最大の会社であり、要するタレントの会社は6000人と言われています。大阪発祥のこの会社の影響力は、大阪のテレビ局では、この会社のタレントの顔を見ない日などまずありません。また、今回の騒動で、「ギャラが安すぎる」「会社側のぼったくりだ」などと言う声が、あふれ出てきています。
これまでも、この会社所属のタレントの多くが、「ギャラのほとんどを事務所に取られている」と言った発言をしているようですが、受け取る私たちは、そのほとんどは「ネタだ」と笑っていました。実際は、どうだったのでしょうか。

ここぞとばかりに、所属のタレントから不満やクレームが幾つも出てきていますが、大阪文化の一端を担う旗手ともいえる会社だけに、問題点の是正は必要なことは当然ですが、「角を矯めて牛を殺す」ということにならないことを願っています。
会社の味方をするわけではないのですが、キャラの問題や契約書の問題なども、そうそう一方的に会社を非難するのはあたらないような気がします。
テレビで、同社の元マネージャーという方が話しておられましたが、「主催者側から1万円支払われたのに、貰えたのは2千円だった」という主張に対して、「事務所が受け取る8千円では、マネージャーの日当にもならない」ので、この程度のタレントの場合は、会社側の相当の持ち出しになっているし、「(月に?)1千万円のギャラを稼いでくれるタレントには、7割支払っても十分だ」と言った内容でした。つまり、タレント対事務所のギャラの配分を一律に語るのは、まったく意味がないと話されていました。
この会社に関わらず、芸能事務所とタレントとのギャラの配分は、タレントの人気が高くなるにつれて、トラブル発生の可能性も高めるようです。
当会社の場合も、契約内容はともかく、多くの著名なタレントが所属し続けており、有るか無いかの収入しか得られない人が相当数あるとしても、6000人もの所属タレントがいるという現実も、認めるべきではないでしょうか。

ただ、「ギャラ」すなわち「パイ」の分配のあり方は、少々の騒動程度では解決しない難問といえます。
大きく言えば、国家予算をどのように配分するかは、政権の重要な使命であり、同時に大きな権限の根源でもあります。これは、組織が小さくなっても同様ですし、家計の割り振りも、家族の特徴や方向性に影響を与え、時には、崩壊の原因になることさえあります。
金銭に限らず、例えば、国会議員の選挙区定員の配分や、選挙制度そのものも、「適正配分」が強く求められる最たるものの一つでしょう。
国家間においても、貿易のあり方、交流のあり方、支援や協力の在り方、等々のいずれにおいても、「適正配分」が求められますが、同時に、その配分の匙加減こそが、国家の意思ということになるかもしれません。

私たちの日常は、多くの場面において、「適正配分」が求められ、「適正配分」を求めています。そして、その多くの場面で、私たちは、自分に有利な姿を「適正配分」と認識しているようです。
「天使の分け前」という言葉があります。これは、ワインやウイスキーやラム酒など熟成を要する酒類は、熟成中に水分やアルコール分が蒸発して、最終的に製造量が目減りしますが、その部分を「天使の分け前」と呼ぶそうです。その量は、条件により違うのでしょうが、1年につき1~3%、ラム酒の30年を超えるものでは50%程も減るそうです。
私たちは、常に「適正配分」を求め、しかもその「適正配分」は少し自分に有利な物をイメージしている可能性があることはすでに述べましたが、適正配分すべき原資は、「天使の分け前」を考慮した物でなくてはならない、と思うのです。
「天使の分け前」を容認することで寛容さが生まれるのではないかと思うのですが、同時に、同じ現象を、「悪魔の取り分」という言い方もあるらしいことが、少し心配ではあります。

( 2019.07.29 )


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