二世を利益する菩薩 ・ 今昔物語 ( 17 - 10 )

　　　　　『　二世を利益する菩薩　・　今昔物語 ( 17 - 10 )　』


今は昔、
京に祇陀林寺（ｷﾞﾀﾞﾘﾝｼﾞ・1000 年に創建。現存していない。）という寺があった。
その寺に、仁康（ﾆﾝｺｳ・源融( 嵯峨天皇の第十二皇子 ) の子。）という僧が住んでいた。これは、横川（ﾖｶﾜ・比叡山三塔の一つ。）の慈恵大僧正（ｼﾞｴﾀﾞｲｿｳｼﾞｮｳ・法名は良源。第十八代天台座主。）の弟子である。心に因果の道理を信じて、三宝（仏・法・僧の総称。）を敬い、身は戒律を保ち、衆生を哀れむことは仏のようであった。

さて、治安三年（ 1023 ）という年の四月の頃、京じゅうをはじめ国じゅうに悪性の流行病が蔓延し、この病で死ぬ人が多かった。そのため、道ばたに死骸が数多く放置されていた。その状態に、上中下の人々すべては、空を仰いで歎き合うばかりであった。
そうした時、仁康の夢に、一人の小僧が現れた。その容姿端正な小僧が僧坊の内に歩いてきて、仁康に告げた。「汝は、世の無常なる事を観じているや否や」と。
仁康は、「昨日見た人が、今日は見えず。朝に見た者が、夕べには亡くなっている。これが只今の世の姿です｣と答えた。
小僧は微笑んで、「世の無常は今に始まったことではなく、愁うことでもない。もし汝が何事につけ恐れを感じるのであれば、速やかに地蔵菩薩の像を造り、その御前で地蔵菩薩の功徳を誉め称えなさい。そうすれば、近くは五濁（ｺﾞｼﾞｮｸ・五つの悪い現象。）の世に迷っている者たちを救い、遠くは三途（ｻﾝｽﾞ・地獄、餓鬼、畜生の三悪道。）に苦しむ者たちを助けてやれるだろう｣と仰せられた、と見たところで夢から覚めた。

その後、仁康は道心を起こして、すぐに大仏師康成（ｺｳｼﾞｮｳ・著名な仏師らしい。）の家に行き、相談の上、日ならずして地蔵の半金色（純度50%の金、という意味らしい。）の像を造り、開眼供養を行った。
その後、地蔵講を始めるようになった。道俗男女がやって来て、頭を垂れて手を合わせて結縁を結んだ。
すると、その寺の内や仁康の僧坊の内には、流行病にかかる者が全くなくなった。また、この夢のお告げがあったことを聞き、仁康と親しい人や横川の人々、この講で結縁した者たち、それらの皆が流行病にかかることがなかった。
「これは、まことに不思議な事だ」と言って、この地蔵講はいよいよ盛んになった。

このようにして、仁康もいつしか八十歳となり、命終る時、心乱れることなく、西に向かって身を正して、阿弥陀仏並びに地蔵菩薩の名号を唱えて、眠るが如くに息絶えた。然れば、「現世と来世の二世に渡るご利益は、地蔵菩薩のお誓いに過ぎるものはない」と知って、世の中の人はぜひとも信仰し奉るべし、
となむ語り伝へたるとや。

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