『 五色の糸につながれて ・ 今昔物語 ( 15 - 40 ) 』
今は昔、
睿桓(エイカン・伝不詳)という聖人がいた。
その母は若い時から穏やかで正直な性格で、人を哀れみ生き物を可愛がる心が深かった。そのうちに、道心が強く生じ、遂には髪を剃り尼となった。名を釈妙(シャクミョウ)という。
出家の後は、戒律を守り犯すことがなかった。汚い手で水瓶を持つことはなく、手を洗わずして袈裟を着ることがなかった。仏の御前に参る時には、手を洗い身を清めて参るのを常とした。西に向かって大小便をすることはなく、寝る時には足を西に向けず、枕を東にしなかった。
昼夜に法華経を読誦し、寝ても覚めても弥陀の念仏を唱え、百万遍の念仏を満たすこと数百回に及んだ。
ところで、釈妙の夢の中に、常に仏が現れて、釈妙に、「我は、汝を極楽に迎えるために、いつもやって来て守護しているのだ」と仰せられるのを見た。
やがて、釈妙は老境に臨み遂に命終ろうとする時、仏に向かい奉って、五色の糸を仏の御手に懸けて、それを自分の手に持って、心を込めて念仏を唱え、心乱れることなく息絶えた。
これを見聞きした人は誰もが尊んだ。
これは、正暦三年 ( 992 ) という年の[欠字]月[欠字]日のことである、
となむ語り伝へたるとや。
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