枕草子 第百八十二段 いみじう暑き昼中に
いみじう暑き昼中に、「いかなるわざをせむ」と、扇の風もぬるし、氷水(ヒミヅ)に手をひたし、もて騒ぐほどに、こちたう赤き薄様を、唐撫子のいみじう咲きたるに結びつけて、取り入れたるこそ、書きつらむほどの暑さ、心ざしのほど、浅からず推し量られて、かつ使ひつるだに飽かずおぼゆる扇も、うち置かれぬれ。
たいへん暑い昼のさなかに、「この暑さにどうすることをすればよいのか」と、扇の風も生ぬるいし、氷水に手をひたしたりして、わあわあ騒いでいるところに、すごく赤い薄様の手紙を、唐撫子のこちらも真っ赤に咲いた枝に結びつけてあるのを、受け取ったのには、書いていた時の相手の方の暑さや、好意の程が、並大抵でないことが推し量られて、しきりに使っていてさえもの足りなかった扇を、思わず置いてしまいました。
夏の盛りに「氷水に手をひたし」というのも驚きますが、「赤い花をいっぱいつけたナデシコの枝に真っ赤な紙の手紙」を受け取った少納言さまが、差出人の心遣いに感謝しているというのにも驚きます。
「赤」は、暑さを強調してしまう色ですが、むしろその色で暑さを忘れようという心境が、差出人にも少納言さまにも共有されているのですね。
いみじう暑き昼中に、「いかなるわざをせむ」と、扇の風もぬるし、氷水(ヒミヅ)に手をひたし、もて騒ぐほどに、こちたう赤き薄様を、唐撫子のいみじう咲きたるに結びつけて、取り入れたるこそ、書きつらむほどの暑さ、心ざしのほど、浅からず推し量られて、かつ使ひつるだに飽かずおぼゆる扇も、うち置かれぬれ。
たいへん暑い昼のさなかに、「この暑さにどうすることをすればよいのか」と、扇の風も生ぬるいし、氷水に手をひたしたりして、わあわあ騒いでいるところに、すごく赤い薄様の手紙を、唐撫子のこちらも真っ赤に咲いた枝に結びつけてあるのを、受け取ったのには、書いていた時の相手の方の暑さや、好意の程が、並大抵でないことが推し量られて、しきりに使っていてさえもの足りなかった扇を、思わず置いてしまいました。
夏の盛りに「氷水に手をひたし」というのも驚きますが、「赤い花をいっぱいつけたナデシコの枝に真っ赤な紙の手紙」を受け取った少納言さまが、差出人の心遣いに感謝しているというのにも驚きます。
「赤」は、暑さを強調してしまう色ですが、むしろその色で暑さを忘れようという心境が、差出人にも少納言さまにも共有されているのですね。
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