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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

『人生に乾杯!』と「やまと生命」の詐欺

2009-07-03 04:23:16 | 映画評論
 ハンガリー映画を観ました。
 私にとってはハンガリーは思い出の多い地です。
 そのひとつは、かつて左翼少年であった私が始めて疑問を覚えたのが1956年のハンガリー事件であり、なぜ労働者が主権を持つ国であのような争乱が起きるのか、そしてなぜソ連(当時)は戦車隊をもってそれを圧殺するのかという謎に直面したのでした。
 それから半世紀経ち、始めて訪れた旧社会主義国がハンガリーでした。

 
 
 本当は、19991年、ザルツブルグへの途上、トランジットでモスクワ空港で2時間過ごせる予定で、それが社会主義圏への最初の足跡だったはずなのですが、折しも、ゴルバチョフを軟禁した保守派のクーデター騒ぎで航空機から降りることもままならず、空港内を往来する装甲車や完全武装の兵士たちを窓越しに眺める緊迫した2時間でした。
 そんなわけで、ハンガリーが旧社会主義圏で訪れた最初の土地になりました。結論から言えば、もはや社会主義の「社」の字もありませんでした。各地では教会が幅をきかせ、イムレ・ナジなどと口走っても相手にされる状況ではありませんでした。

 

 それはそれとして、一度その地を踏んだということでシンパシーはあります。
 従ってその映画も、それと分かれば観ています。
 「太陽の雫」
 「君の涙 ドナウに流れ」
 などが思い出されます。
 そして今回の、「人生に乾杯!」

 ぶっちゃけた話、年金では暮らせず老人たちを追い詰める状況に対する反逆として、81歳と70歳の老夫婦が連続強盗事件を引き起こす話です。しかし、誰も傷つけない「紳士的」でユーモアに満ちた二人のロードムービーともいえるのです。
 映画の話ですから、これから観る人のこともあり、詳細は触れません。しかし、とても爽快な映画です。

 
 
 しかしこの映画、とても人ごとではないのです。
 私は自営業だったこともあり国民年金で、しかも欠落期間もあり、ごくわずかな年金しかありません。
 にもかかわらず、老齢控除をなくす増税から、後期高齢者にとどまらない保険料のアップなど、老人を巡る生活条件は厳しくなっています。
 それに備えるため、個人年金に加入していました。
 その会社、「やまと生命」が破綻したのです。
 おかげで、私の個人年金は半額以下です。生命保険も同社でした。これまた死んでも半額以下の保険金です。

 あと10年生き続けるとすれば、個人年金と死亡時保険金を合わせて、一千万近い損害です。
 私のような小口加入者にしてそうですから、この会社が死後や老後の安泰を願う全国の老人たちをどれだけ陥れたかは言語に絶するものがあります。
 これは完全にサギで、従ってその責任者は厳罰に処せらるべきですね。しかし、この会社の役員たちは当然のこととしてもう退いていますが、彼らが私より惨めな老後を送るとはとても考えられないのです。彼らは巨額の退職金をもとに、のうのうとその老後を過ごすでしょう。
 一方、奴らに騙された「自己責任」として私や、私同様の被害者にはなんの保証もありません。

 

 といったこともあって、他人事ではなくこの映画に共感します。
 旧やまと生命とその系列の銀行、あるいは旧役員などを襲うのになんのためらいもありません。
 彼らは襲われて当然なのです。

 残念ながら私は、この映画の主人公がもっていたような古いけれど強力なエンジンを積んだソ連製の車も、トカレフも持ってはいません。しかし、「球根栽培法」や「腹腹時計」を参照すれば、火炎瓶や簡単な爆弾ぐらいは作れます。
 旧やまと生命系の施設やそれを引き継いだところで爆発騒ぎなどありましたら私をチクって頂いて結構です。
 例え、私の犯行ではなくとも、私がその責を負います。

 というようなわけで、私的にもこの映画に共感したのですが、それを抜きにしても面白い映画です。
 これと、若い刑事夫妻が絡むのですが、それもいい味を出しています。
 結構深刻な話なのに、ユーモアが常に連れ添っているのがいいですね。

 

 今まで述べてきたように、最初は恨みつらみに発する映画ですが、最後にはそれを突き抜けています。
 私も、自分が陥った不幸を乗り越えて突き抜けたいと思います。
 そしてこの老夫婦ともに乾杯をしたいと思います。

 最後に謎が残ります。
 あの女性刑事が最後にふと漏らした微笑みと、その前後の映像から観るに、あの爺さんとばあさんは・・・。
 う~ん、観た人の感じは如何でしょうか。



コメント (2)
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