父の面会はたまたまお昼になってしまった。
私の到着と昼食が同時だったので、父は私が用意したものだと勘違いして「とてもおいしいよ。」と言った。
目が悪いから、赤や緑のピーマンは見えても、肉はよく見えないようだ。
「作ってきてくれてありがとう」と言うので、周りの介護士さんに気遣いながら、「私が作ったんじゃないよ」と言った。「それじゃ誰だい?」と言うので、「ここの病院だよ。」と言った。
言ってしまってから、父はここが病院と言う風には思ってないことに気づいた。
「病院の食堂で持ってきてくれるのかい?」
「そうだよ。」
今日の父はちょっと黙り込んで、しばらくしてから、机を指差して「これも作ってくれてありがとう」と言った。もう何も言わずに、うんうんと聞いていた。
先週来た時は眠くてろくに話にならなかったが、今日は割と父の話が多く聞けたように思う。いつも話題に困って(ヘタな質問をすると答えられない父ががっかりするのである)、沈黙の時間も多いのだが、今日は思い切って車ネタを進めてみる事にした。
「昔はおじいちゃん、車を売ってたんだよね。」
「おぉ、そうだよ。」
「車をたくさん売るコツは何?」
この質問はちょっとレベルが高くて答えられないようだ。
「車は新車と中古と買うならどっちがいいかなぁ。」と訊くと、「それは好き好きだな」と言って、「車が好きで長く乗りたいなら新車、お金が大事なら中古だ。」と言った。
「sakeは何の車に乗るのかい?」と言うので、今はレンタカーだから毎週違う車なんだよ、と答えた。
(その会話もしばらく3回ぐらい繰り返した。)
次に「今日は何の車に乗ってきたんだ?」と言うので、2回ぐらいはごまかしたが、また繰り返し訊いてくるので、「今日はマーチだよ」と答えた。
父はちょっとがっかりした(ように見えた)。
父が何十年も売ってきたメーカーの車ではなかったのである。
私はレンタカーで最初に乗った車がスズキのMRワゴンだった。
それはピンクの車で、コンパクトで、ドアを開けてから、ベージュのシートでとても気に入った。
そして乗り始めると、(うっかりバイパスに入ってしまったのだが)ギューンと一気に加速して60キロまで速度計が伸びた。
この車が好きになった。一目ぼれだ。
それからいろんな車に乗ったけれど、この時の印象を越えるものは無かった。
ごく最近、日産のモコがこのMRワゴンと同じ内容の車であると知った。
スズキで売っているのがMRワゴン、日産で出しているのがモコなのである。
(仕様の違いは若干あるらしいがよく知らん)
今までモコモコいいなぁ~と思っていたが、あの車と同じだったとは。。。。。
おー、ブラボー。
ここまで来れば普通なら、迷いも無くこの車がほしい!と思うのだが、やっぱり何十年も車を売り続けた父、それを無視して他のメーカーの車は買えない。。。。
だって、あなたの娘だもの。
今日は話がはずんだが、車を返す時間が近づいてしまった。
切り上げて帰る事にした。
父はEV前まで送ってくれた。
別れはせつない。
今日はやたら机とかイスとか、私が作ってくれたものだと勘違いしていたようだ。
「オレはとても幸せ者だ、みんなにこんなによくしてもらって。」と何度か言った。
またこの前のおばあさんが近くに寄ってきた。
「いつもこの人に歌を教えてもらっているの、とってもイイ人」と言っていた。
父に「何の歌を教えてあげてるの?」と訊くけど、たぶん覚えてない。
こう言う質問はNGのようだ。
父はたった今、この瞬間だけに生きている。
EVで手を振って別れて、その後はもう覚えていない。
私の到着と昼食が同時だったので、父は私が用意したものだと勘違いして「とてもおいしいよ。」と言った。
目が悪いから、赤や緑のピーマンは見えても、肉はよく見えないようだ。
「作ってきてくれてありがとう」と言うので、周りの介護士さんに気遣いながら、「私が作ったんじゃないよ」と言った。「それじゃ誰だい?」と言うので、「ここの病院だよ。」と言った。
言ってしまってから、父はここが病院と言う風には思ってないことに気づいた。
「病院の食堂で持ってきてくれるのかい?」
「そうだよ。」
今日の父はちょっと黙り込んで、しばらくしてから、机を指差して「これも作ってくれてありがとう」と言った。もう何も言わずに、うんうんと聞いていた。
先週来た時は眠くてろくに話にならなかったが、今日は割と父の話が多く聞けたように思う。いつも話題に困って(ヘタな質問をすると答えられない父ががっかりするのである)、沈黙の時間も多いのだが、今日は思い切って車ネタを進めてみる事にした。
「昔はおじいちゃん、車を売ってたんだよね。」
「おぉ、そうだよ。」
「車をたくさん売るコツは何?」
この質問はちょっとレベルが高くて答えられないようだ。
「車は新車と中古と買うならどっちがいいかなぁ。」と訊くと、「それは好き好きだな」と言って、「車が好きで長く乗りたいなら新車、お金が大事なら中古だ。」と言った。
「sakeは何の車に乗るのかい?」と言うので、今はレンタカーだから毎週違う車なんだよ、と答えた。
(その会話もしばらく3回ぐらい繰り返した。)
次に「今日は何の車に乗ってきたんだ?」と言うので、2回ぐらいはごまかしたが、また繰り返し訊いてくるので、「今日はマーチだよ」と答えた。
父はちょっとがっかりした(ように見えた)。
父が何十年も売ってきたメーカーの車ではなかったのである。
私はレンタカーで最初に乗った車がスズキのMRワゴンだった。
それはピンクの車で、コンパクトで、ドアを開けてから、ベージュのシートでとても気に入った。
そして乗り始めると、(うっかりバイパスに入ってしまったのだが)ギューンと一気に加速して60キロまで速度計が伸びた。
この車が好きになった。一目ぼれだ。
それからいろんな車に乗ったけれど、この時の印象を越えるものは無かった。
ごく最近、日産のモコがこのMRワゴンと同じ内容の車であると知った。
スズキで売っているのがMRワゴン、日産で出しているのがモコなのである。
(仕様の違いは若干あるらしいがよく知らん)
今までモコモコいいなぁ~と思っていたが、あの車と同じだったとは。。。。。
おー、ブラボー。
ここまで来れば普通なら、迷いも無くこの車がほしい!と思うのだが、やっぱり何十年も車を売り続けた父、それを無視して他のメーカーの車は買えない。。。。
だって、あなたの娘だもの。
今日は話がはずんだが、車を返す時間が近づいてしまった。
切り上げて帰る事にした。
父はEV前まで送ってくれた。
別れはせつない。
今日はやたら机とかイスとか、私が作ってくれたものだと勘違いしていたようだ。
「オレはとても幸せ者だ、みんなにこんなによくしてもらって。」と何度か言った。
またこの前のおばあさんが近くに寄ってきた。
「いつもこの人に歌を教えてもらっているの、とってもイイ人」と言っていた。
父に「何の歌を教えてあげてるの?」と訊くけど、たぶん覚えてない。
こう言う質問はNGのようだ。
父はたった今、この瞬間だけに生きている。
EVで手を振って別れて、その後はもう覚えていない。