一、同弾蔵方より先年太守様宣の字御拝領の時江戸より同姓中に達書に御悦を被差越申候紙面に
宣紀公の御字にカタカナ付候て即刻讀申様の心と存其外御持鑓或御駕の者の衣類迄書付差越申候
拙者心には扨々能心を付申候是に熊本には即刻侍中に聞せ申度事觸状にても廻可被申事と存候故
舎人殿に持参仕右之段一々申 同名平八は兎角器量御座候と同名なから感し入申 是は御觸にて諸
侍中にも早く知らせ申度事とわさと舎人殿に返々申達候へはかたかな迄付たか/\とくり返/\きも
つふされたる様子にて候つる 惣躰弾蔵をは舎人殿は夫程能きとは不被存候故拙者能と申候に幼少よ
り唯今迄の儀私ならては他人何とて可存哉親には生れ増たる取多御座候 色々申たる事共弾蔵殿に
語申候間覺居可申候
初江戸より帰候刻舎人殿御迎に出被申候て久住一宿の所に立寄申さねとて角入宿を
可知と存使遣なとヽ被申たると覺申候
一、平九郎初て江戸御供にて参候時曾我殿かと覺申候御使者に参候時分折節能を被仰付候日にて
幸に思召候外に御用も無之候はヽ其儘居申候て見物被仕候へ 太守様へはみぎの之通御噺御断可
被仰上と御懇頃に被仰聞候 曾我殿は御代々別て御心安く思召故に右之通の時に参仕合と申見物
罷帰候上 妙應院様事之外御意に叶兄の平八も及び申間敷との御意にて候つる 兎角ケ様の時節も
善悪共に身を捨申心に無て候へは分別極めかたく候 かろき事にて平九郎器量顕れ申候 不實にて
はいかヽ可仕哉其儘見物候ては 太守様御意に叶申間敷候 曾我殿へ御断申分は軽事なとヽ十人
並の男は分別分り兼申候 此時は曾我殿御留被成候事はおもく 太守様の思召をは軽く存る事當然の
道理にて候 就夫御双方様の御心に叶別して 太守様御意に叶候信實から出たる事は天の恵みある
道理にて候 何事に不限其時々の軽重可有之儀にたとへ御意にても事により軽く御家来迚も事により
重く在る事可有之候 何事も信實より出たる事にてなく候へは能とは不被申候 昔の善人と申物も聖
賢の傳を請言行たしなみ其の身の行能無之候ては諸人合點不仕候 兎角學問を好み本を正敷其身
を治天下治と御座候事何事にも入申候 平生の寄合咄申にもむさと仕候 當世のはやり事に小歌三
味線大酒を呑大食をいたし面白く存る者は差當り今度の様成る扶持方はかり渡候時分行當迷惑仕
候 能々工夫可有事に候 かな書の書物にも實と偽と御座候 實を書きたる書物古人の言葉多候 隙の
刻は御覧可有候 正成の軍法皆々唐にて有たる事にて夫を尤と見被申たる故におのつから正成の
智謀も出たると聞へ申候 何時も昔仕置候儀は宜敷當世の事は當時/\の用にても以後には捨り
申候 惣躰はやり事は末々の者好む事と 三齋公御意被成候儀覺書に調候間御覧可被下候 我身
の覺候事迄覺書に調申候 六拾年前より廿年程はむそりの刀脇差はやり拙者も差申候 四十年より
此かた又昔のことく反りたる刀脇差に成り申候 第一に用申候刀脇差さへ右の通併御家中にて歴々
其外老人衆さし不申候 これにて合默可有候 犬の庭鳥の菊の花のと金銀つゐへ誠に/\無物躰存
候 近頃は皆々すたりたると承及申候 必々はやい事御用ひ有ましく候 拙者能覺申候 廿年/\には
本のことく成物と三齋公御意の通に身に覺申候