Sightsong

自縄自縛日記

インターフェースの実験講座、製鉄の映像(たたら製鉄、キューポラ、近代製鉄)

2008-12-23 23:42:05 | 関東

息子が行くというので、本八幡にある千葉県立現代産業科学館(>> 過去の記事)で、「実験講座 人と物をつなぐもの―インターフェースのお話―」(千葉大学・下村義弘氏)を聴いてきた。ここでインターフェースというのは、人と物との橋渡しを意味する。したがって、例えばリモコンを操作するのもインターフェースだが、今回の講座は、もっと高度な橋渡しである。

まず腕に電極を付け、筋肉を使ったときに流れる電流を感知して増幅し、自動車などのおもちゃを動かす。肝心の箇所意外はリラックスしていなければならないので、動かすのにコツが要るというのが面白い。慣れてくると、踊るようにしておもちゃを前後左右に動かしはじめる。

さらには、頭に電極を付け、脳波がアルファ波となったらスイッチが入るような驚くべき実験もした。緊張するとアルファ波が出ないのだ、と言って、瞑想するのに苦労していた。

いやもう、驚愕である。義手などに技術利用されるのだろうか。子どもの頃に観ていたロボットアニメ『ライディーン』は、コックピット内の主人公のアキラの動きがライディーンの動きにもなっていたことを思い出してしまう(もっとも、ライディーンが攻撃を受けると、アキラにもダメージがあるという双方向型だった)。


筋肉の電気信号によりおもちゃを動かす


電気信号の出力を、生体波形処理ソフト「Acqknowledge」で示す

折角なので、2階の常設展示を再度見学した。産業として、鉄鋼、石油化学、電力の3つの歴史が示されている。特に鉄鋼については、川崎製鉄(現・JFEスチール)の高炉の1/10模型や、旧型の転炉である「ベッセマー転炉」の1/2模型が展示してあるのが必見だとおもう。

通常の鉄鉱石からの製鉄は高炉と転炉、鉄スクラップからの製鉄は電炉を用いるわけで、現在、ほとんどの鉄はこの2パターンを基本として作られている。もちろんそのほかの方法もある。私には技術的なことは充分にはわからないが、仕事上、このような産業プロセスは何度も実際に観察したことがある。ただ、日本古来の「たたら製鉄」には興味があっても見る機会がなかった。この現代産業科学館でも、1枚のパネルで軽く触れてあるのみだ。

帰宅して、「科学映像館」にたたら製鉄の映像がアップされていたことをおもい出した。

『たたら吹き』(日立製作所、2008年)(>> リンク)は、戦後しばらく途絶えていた、たたら製鉄の様子を記録した映像である。日本の伝統技術であり、マニュアルは技術伝承者ひとりひとりであるから、マイスターとしての「村下」(むらげ)が存在している(村下には「表」と「裏」が居る)。近代的な炉と何が違うかといえば、たたらでは、同じところに原材料の砂鉄と、還元剤のコークスを投入し、4日間も加熱し続ける。これにより、酸化鉄から酸素と不純物が奪われ、純度の高い鋼になる。

驚いたのは、実はできあがりの鋼は近代製鉄ではなかなか作ることができないもので、日本刀に用いられるのだという。古い伝統技術を伝えるだけではないわけだ。砂鉄から鋼への歩留まりは1/3程度、純度の高い良質なものとなると1/10程度だと解説している。こうなるとコストがどうのという問題ではなくなる。(関係ないが、ニコンがS3とSPの復刻により、かつての伝統技術を甦らせたことは、同じ意味で賞賛にあたいする。精密なレンジファインダー機は、もはや世界でもライカ、ニコン、コシナくらいしか作ることができない。銀塩カメラの技術も同じ道を辿りつつあり、とにかくアナログレコードのようにニッチでも残ってほしいと切におもう。)

「科学映像館」では、『鋳物の技術―キュポラ熔解―』(三菱化成工業、1954年)(>> リンク)という映像も観ることができる。こちらは、コークスメーカーであった三菱化成工業(現・三菱化学)が、キューポラでの製鉄について技術普及を目的に作った映像である。いまと比べ、当時キューポラの数は非常に多かったのではないか。埼玉県川口市を舞台にした『キューポラのある街』(浦山桐郎)は1962年である。

目的が目的だけあって、技術的な説明が多いのが非常に面白い。解説は炉の絵を用いてなされているが、驚くべきことに、その原画を村山知義が描いている。大正から昭和にかけての時代の寵児、モダンボーイの表徴である。神奈川県立近代美術館『近代日本美術家列伝』(美術出版社、1999年)によると、「めまぐるしいまでに美術の最先端で活動するが、やがてプロレタリア運動に傾斜し、演劇人としての活動が主になっていた」ということであり、このような国策でもある重厚長大型産業への関与も村山のベクトルからは外れていなかったのかもしれない。

「科学映像館」に収録されている鉄鋼関連の映像はこの2つである。伝統技術と、ちょっと昔の技術。なかなか目にできない映像であり、いつもながら素晴らしい仕事である。それに、社会見学は機会があまりないし、さらに現場は暑かったり、また途上国の工場では凄い臭いがしたりで、なかなか落ち着いて観察できないのだ。

欲をいえば、できれば近代技術についても良いものを入れてほしいとおもう。たとえば、日本鉄鋼連盟『鉄―地球の記憶、地球の未来』というVHSを持っているが、これも改めて観ると実に面白い。ユニークなのは、鉄鉱石の誕生に関して、ストロマトライトなど光合成できる植物により鉄が酸化して沈降するという20億年前の様子にまで遡っている点だ(その意味で、製鉄は酸化鉄を還元するという、逆プロセスを踏んでいることになる)。さらに地球の鉄元素そのものを作った、超新星などの内部の強烈な重力にまで言及すれば、これはもう『コスモス』や『地球大紀行』になってしまうが。

●科学映像館のおすすめ映像
『沖縄久高島のイザイホー(第一部、第二部)』(1978年の最後のイザイホー)
『科学の眼 ニコン』(坩堝法によるレンズ製造、ウルトラマイクロニッコール)
『昭和初期 9.5ミリ映画』(8ミリ以前の小型映画)
『石垣島川平のマユンガナシ』、『ビール誕生』
ザーラ・イマーエワ『子どもの物語にあらず』(チェチェン)