空港の本屋に置いてある写真集など、大抵は名所案内のような絵葉書の延長だが、上海の空港では良いものを見つけた。上海錦綉文章出版社が出している写真集のシリーズで、6冊ほどあるようだ。1冊32元(400円程度)であり安い。ただ、紙はそれほど上等ではない。置いてあったのは陸元敏『上海人』、王福春『火車上的中国人』、陳綿『茶舗』の3冊。すべてモノクロのスナップであり、引き込まれる。
陳綿『茶舗』は、四川省で撮られた作品集。文字通り、店に集まって茶を飲んだり、談笑したり、煙草を吸ったり、カードや麻雀に興じたりといったひとびとの姿を捉えている。かなりの広角で全体をおさめる写真が多いが、一方、中望遠で味のある老人の顔をとらえたものもある。写真家の陳綿は1955年生まれだそうで、巻末にニコンFM系またはFE系を構えた姿がある。
王福春『火車上的中国人』は、列車で移動するひとびとの姿ばかりだ。とにかく老若男女いろいろいるので、とても人間的でユーモラスな出来事が集められている。この王福春という女性写真家は鉄道写真家としてかなり有名な存在のようだ(1943年生まれ)。巻末には、ライカM4-Pに何やら広角レンズを装着した姿がある。
この3冊のなかでもっとも自分の琴線に触れたのは、陸元敏『上海人』だった。構図も被写体への迫り方も融通無碍という感じがする。相手との距離感は、特に室内で向かい合った作品群において、牛腸茂雄の写真をおもわせるものがある。北井一夫のズミルックス35mmのような、ハイライトが滲んでいるものも良い。たまらない写真もある。実際のプリントはどんなものだろう。
上の2点は、『誰も知らなかった中国の写真家たち』でも紹介されている
牛腸的
この写真家は1950年生まれ。これまでの展覧会のリストには、「陸元敏的LOMO世界」(2006年)というものもある。この調子でトイカメラを使ったらどうなるのだろう・・・ぜひ観たい。
陸元敏については、『誰も知らなかった中国の写真家たち』(アサヒカメラ別冊、1994年)にも収録されていた。画家を志し美術学校に合格したが、1966年文革の開始と共に取り消され、下放され、8年間農村で生活したという。自分の写真については「流れて過ぎ去ってしまったことへの懐かしさを表現」としている。
表紙も陸元敏の写真