バドゥル・ビン・ヒルスィー『A New Day in Old Sana'a』(2005年)を観る。

イエメン首都のサヌアに滞在するイタリア人の写真家、フェデリコ。彼のイエメン人助手タリクは、ある夜、自分が婚約者ビルキスに贈った白いドレスを着た女性が、道で躍っているのを目撃する。それはビルキスではなく、別の女性イネスだった。ビルキスの家は金持ちで、そのドレスも窓から外に投げ捨てられていたのを、イネスが拾って、つい着て躍ってしまったのだった。結婚の日が近づくと、タリクは、ビルキスではなくイネスを愛していることを自覚する。イネスと一緒に逃げようと約束するタリクだが、なかなか外出できず、そしてイネスは毎晩約束の橋に立つ。
ヴェールで顔を覆った女性たちが、実はもの言わぬ存在ではなく、人の噂話が大好きだという設定が面白い。ここだけの話だが、ビルキスが破廉恥にも夜中に躍っていた(良家の娘としてあり得ない)、いやイネスがドレスを盗んだのだ、いや実はタリクはイネスを愛しているのだ、などと、ゴシップが凄まじいスピードで拡散していく様子は、別の言語体系かと思わせるほどだ。
フェデリコが使うカメラは、ニコンF3と、ニコマートの何か(輸出仕様のニッコールマット)。ずっとどこかに滞在して写真を撮るなんて羨ましい限りだ。それにしても、「ニコマート」と聞くと、どうしてもイメージするのはスーパーマーケットであり、それが入手を妨げてきた。
サヌアの家々は相変わらずデコレーションケーキのようだ。サレハ大統領の退陣を求めた騒乱のあと、街はどうなっているのだろう。
●参照
○イエメンの映像(1) ピエル・パオロ・パゾリーニ『アラビアンナイト』『サヌアの城壁』
○イエメンの映像(2) 牛山純一の『すばらしい世界旅行』
○イエメンの映像(3) ウィリアム・フリードキン『英雄の条件』
○イエメンとコーヒー
○カート、イエメン、オリエンタリズム
○イエメンにも子どもはいる
○サレハ大統領の肖像と名前の読み方