ジャカルタ行きの機内で、ジョニー・トー『高海抜の恋』(Romancing in Thin Air、2012年)を観る。
マイケル(ルイス・クー)は香港の大スター。彼は結婚式当日、カメラの前で、結婚相手に逃げられてしまう。自暴自棄になり酒に溺れた彼が向ったのは雲南省の高地。その宿は、かつて旅人として通ううちに宿の主人と心を通わせて結婚した女性サウが、切り盛りしていた。そして、サウの夫は、7年前に樹海で行方不明になったままだった。
破天荒なマイケルと無骨なサウはふたりとも情が深く、次第に愛し合うようになる。実はサウは、マイケルのファンクラブに入るほどの熱烈なファンだった。ところが、突然、サウの夫が死体で発見される。樹海の入り口近くで、それと気付かず、1年前まで生き延びていたという。マイケルは、サウのストーリーをもとにした映画を製作する。招待されたサウは、自分の人生を見せられ号泣し、耐えきれずに映画館を飛びだしそうになる。しかし、目を背ける直前に、現実と違う点があることに気がつく。夫が、実は生きていたというストーリーに変えられていたのだった。
調律が狂ったピアノを、夫の思い出としてそのままにしてほしいと言うサウ。何とかして酒を飲もうとするマイケル。奇妙なエピソードを織り交ぜながら、また、過去と現在を行き来しながら、散らかった話を収斂させていくジョニー・トーの手腕は相変わらず見事である。
しかし、『ターンレフト・ターンライト』や『僕は君のために蝶になる』がそうであったように、ジョニー・トーの魅力はやはりアクションにおいて硬軟をこれでもかと詰め込む剛腕なのであり、柔らかいラヴストーリーではどうも物足りなさを感じてしまう。主演のルイス・クーも、『エレクション』連作のように、裏の道に生きる鋼のような存在感を発散した方が・・・。
この映画だけ観たら、ああいい映画だなとのみ思ってしまうだろう。それも怪物ジョニー・トーだからである。
●ジョニー・トー作品
○『奪命金』(2011)
○『アクシデント』(2009)※製作
○『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(2009)
○『文雀』(邦題『スリ』)(2008)
○『僕は君のために蝶になる』(2008)
○『MAD探偵』(2007)
○『エグザイル/絆』(2006)
○『エレクション 死の報復』(2006)
○『エレクション』(2005)
○『ブレイキング・ニュース』(2004)
○『柔道龍虎房』(2004)
○『PTU』(2003)
○『ターンレフト・ターンライト』(2003)
○『スー・チー in ミスター・パーフェクト』(2003)※製作
○『デッドエンド/暗戦リターンズ』(2001)
○『フルタイム・キラー』(2001)
○『ザ・ミッション 非情の掟』(1999)