ポール・ブレイ『Homage to Carla』(OWL、1992年)を聴く。
Paul Bley (p)
タイトル通り、すべて前妻カーラ・ブレイの曲を演奏したソロ・ピアノ集。ヘンタイ・ピアニストがヘンタイの曲を演奏しているわけであり、期待を超えて、カテゴライズなどできない音楽世界を展開したものになっている。
この人の手にかかると、独特の色を持つカーラの曲でさえも、新たにこの世に生まれ出てきたような鮮烈極まりないアウラを放出する。時間だとか、もちろんコードだとか、そういったものだって、その都度、創り出しているような感覚。プロセスは隠されており、同時に明け透けに見せられている。内省的であり、同時に外部に発信されるパフォーマンスである。
嬉しい演奏は、5曲目の「Vashkar」。最近、カーラ・ブレイが『Trios』でも演奏した4分の6拍子の曲だが、ここでは、テンポなどぐしゃぐしゃに解体されてしまっている。そして、曲そのものの美しさに耽溺していて、聴く方は吐きそうにさえなってしまう。聴いたあとは、その残滓だけが脳内にあり、これは何だったのかと思う。
ところで、昨日気が付いたのだが、「Vashkar」は、トニー・ウィリアムス・ライフタイムの名盤『Emergency!』でも演奏されている。もちろん、提示されるイメージはまったく異なるものであって、面白い。
●参照
○ポール・ブレイ+チャーリー・ヘイデン+ポール・モチアン『Memoirs』
○ポール・ブレイ『Solo in Mondsee』
○『イマジン・ザ・サウンド』(若いころのブレイが登場)
○カーラ・ブレイ+アンディ・シェパード+スティーヴ・スワロウ『Trios』
○カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
○アート・ファーマー『Sing Me Softly of the Blues』
○スティーヴ・スワロウ『Into the Woodwork』
○渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
○渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)