Sightsong

自縄自縛日記

ポール・ブレイ『Homage to Carla』

2014-03-19 23:50:17 | アヴァンギャルド・ジャズ

ポール・ブレイ『Homage to Carla』(OWL、1992年)を聴く。

Paul Bley (p)

タイトル通り、すべて前妻カーラ・ブレイの曲を演奏したソロ・ピアノ集。ヘンタイ・ピアニストがヘンタイの曲を演奏しているわけであり、期待を超えて、カテゴライズなどできない音楽世界を展開したものになっている。

この人の手にかかると、独特の色を持つカーラの曲でさえも、新たにこの世に生まれ出てきたような鮮烈極まりないアウラを放出する。時間だとか、もちろんコードだとか、そういったものだって、その都度、創り出しているような感覚。プロセスは隠されており、同時に明け透けに見せられている。内省的であり、同時に外部に発信されるパフォーマンスである。

嬉しい演奏は、5曲目の「Vashkar」。最近、カーラ・ブレイが『Trios』でも演奏した4分の6拍子の曲だが、ここでは、テンポなどぐしゃぐしゃに解体されてしまっている。そして、曲そのものの美しさに耽溺していて、聴く方は吐きそうにさえなってしまう。聴いたあとは、その残滓だけが脳内にあり、これは何だったのかと思う。

ところで、昨日気が付いたのだが、「Vashkar」は、トニー・ウィリアムス・ライフタイムの名盤『Emergency!』でも演奏されている。もちろん、提示されるイメージはまったく異なるものであって、面白い。

●参照
ポール・ブレイ+チャーリー・ヘイデン+ポール・モチアン『Memoirs』
ポール・ブレイ『Solo in Mondsee』
『イマジン・ザ・サウンド』(若いころのブレイが登場)
カーラ・ブレイ+アンディ・シェパード+スティーヴ・スワロウ『Trios』
カーラ・ブレイ+スティーヴ・スワロウ『DUETS』、渋谷毅オーケストラ
アート・ファーマー『Sing Me Softly of the Blues』
スティーヴ・スワロウ『Into the Woodwork』
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2011年)
渋谷毅オーケストラ@新宿ピットイン(2014年)


アート・ファーマー『Sing Me Softly of the Blues』

2014-03-19 07:57:58 | アヴァンギャルド・ジャズ

アート・ファーマーの熱心な聴き手でもなんでもないのだが、『Sing Me Softly of the Blues』(Atlantic、1966年)はよく聴く。先日はANAの国際線のプログラムにも1枚まるごと入っていて、やはりこればかり聴きながら読書。

Art Farmer (flh)
Steve Kuhn (p)
Steve Swallow (b)
Pete LaRoca (ds)

ツイッターで、国分寺の小道具上海リルさんが書いていて(つぶやいていて、というべきか)、なるほどと合点。最初の印象深い2曲が、カーラ・ブレイの作曲によるものだった。ゆったりとしたリズムに乗って、しばしば転調し、哀しく漂うようなメロディーを前面に出してくる曲は、カーラ調としか言いようがない。

ファーマーのフリューゲルホーンは、このように曲を大事に吹くときにもっとも魅力的なのだと思う。そういえば、ファーマーの『The Summer Knows』というレコードも甘甘だが、似たような魅力があり、結構聴いた。

そしてサイドメンの演奏がいまだに鮮烈で素晴らしい。特に1曲目(タイトル曲の「ブルースをそっと歌って」)において、ファーマーのソロを受けて、音のフラグメンツを玩具のようにこぼれおちさせるスティーヴ・キューンのピアノには目が醒める。