灰谷健次郎『太陽の子』(新潮文庫、原著1979年)を再読する。前に読んでから、もう15年以上は経っただろうか。
なお、故・灰谷氏は、1997年の神戸児童連続殺傷事件において、「フォーカス」誌が容疑者少年の顔写真を掲載したことに強く抗議し、すべての作品の版権を新潮社から引き揚げた。現在は、角川文庫より出されている。
港に近い神戸の下町。沖縄出身の両親を持つ女子小学生・ふうちゃんは、自宅が営む沖縄料理店に集う人たちとの交流や、沖縄戦での心の傷が原因で精神のバランスを崩している父親を見つめることによって、沖縄の歴史を学んでゆく。
それにしても、「本土」の「捨て石」としての沖縄戦、皇民化教育や日本軍の支配に起因する「集団自決」、経済的な困窮による集団就職、沖縄への差別など、さまざまな要素が詰め込まれていることに、改めて驚かされる。しかも、それらは小説のスパイスではなく、コアそのものななのである。
もっとも、語り口が平易なため、「沖縄」をスパイスとして読むことができるのは確かだ。しかし、より深く読みこむなら、この傑作小説は、平和教育・歴史教育に使うことさえできるのではないか。
あわせて、浦山桐郎が映画化した『太陽の子 てだのふあ』(1980年)を観る。社会派の映画監督とみなされているだけあって、まるで教育映画のようにメッセージを明確に伝える映画になっている。また、神戸や沖縄の観光的な要素も含んでいて、なかなか楽しめる。
見どころは、なんといっても、沖縄料理店の常連客の役として知名定男が登場し、「花の風車(カジマヤー)」などの沖縄民謡を唄ってくれるところだ。画期的な沖縄ポップス『赤花』(1978年)を出した直後の撮影か。やはり良い声だ。
石橋正次や殿山泰司の起用は、大島渚が沖縄を撮った『夏の妹』(1972年)においても主役を演じていたことも、理由だったのだろうか。
●参照
○知名定男芸能生活50周年のコンサート
○2005年、知名定男
○知名定男の本土デビュー前のレコード
○大島渚『夏の妹』