札幌行きの飛行機で、読みかけの、E・L・ドクトロウ『Andrew's Brain』(Random House、2014年)を読了。
物語は、科学者のアンドリューが、寒い冬の夜に、離婚した前妻のもとに幼い娘を抱きかかえてくるところからはじまる。若い再婚相手が亡くなり、世話ができないから助けてほしい、というのだった。この情けない男が、なぜ離婚したのか。新妻とはどのように知り合い、なぜ亡くなったのか。
そのような話が、次々につながっていく。それも、複雑な事情を解きほぐすように、ではない。饒舌に、しかも語り手がアンドリューだけでなく作者や第三者にいつの間にか移っていたりして、逆に、混乱させられてしまう。誰が誰に対して話し、誰がボケとツッコミなのか、よくわからなくなるのである。
ただでさえ支離滅裂の気配がある上に、英語の文法がなんだかヘン。そんなわけで、読みながらリズムに乗っていくまでに苦労した。ただ、こんなものかと思ってしまえば、複雑奇っ怪は軽やかに転じる。
絶望して田舎に引っ越し、高校の教師をしていたところ、授業中に突然、アメリカ大統領が見学にあらわれる(笑)。しかも、アンドリューと大統領とは昔の同級生だった。成り行きで、大統領のアドバイザーのようなおかしな職をあてがわれるアンドリュー。他の補佐官たちに、「囚人のジレンマ」を説明し、ゲームとして実行してもらう場面など、笑ってしまう。(もちろん、ホワイトハウスの住人だけあって、見事に相手を裏切るという結末。)
しかし、ホワイトハウスからも、大統領に害を及ぼそうとしたという咎で、いきなり追放される。よくわからない行き先では軟禁。スティーヴ・エリクソン『黒い時計の旅』や、セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』を思い出す理不尽さである。それでも、語り口は軽やかさを失わない。
この不可解さこそが、きっと本作の魅力なのだろう。小説のなかでも言っているように、マーク・トウェインのような馬鹿げた物語が人生に必要だ、ということかもしれない。