Sightsong

自縄自縛日記

上原善広『被差別のグルメ』

2015-10-28 22:45:46 | 食べ物飲み物

上原善広『被差別のグルメ』(新潮新書、2015年)を読む。

少数民族や、離島や、被差別などの出自であるために、かつて(あるいは今も)、いわれなき差別の対象になった人びと。その社会的、地理的な障壁が、独特の食生活を発展させてきた。本書は、知られざるそれらの食を体験し、味わい、背景と結びつけようとする。かつては広く取り上げるには困難なテーマであったものを、回避する視線を正すことによって、貴重な食文化として記録しようというものである。視線が逸れていくからこそ、たとえば、「ホルモン」は「放るもん」からきたという、それ自体が差別的でもある言説を生み出すことになる。

大阪の焼肉や、新大久保のアイヌ料理店「ハルコロ」など、知っている食もある。久高島のイラブー料理(いちど訪れたとき、その前日に何年かぶりにイラブー漁を復活させたと聞いた)や、粟国島のソテツ料理や、大阪のアブラカス(カリカリに揚げた大腸)など、知ってはいても体験したことがない食もある。聞いたこともない食もある。サハリンに樺太アイヌ以外の少数民族がいたとは知らなかったし、そのニブフやウィルタが伝える食文化にも驚く。なんと、鮭の皮からゼラチンを取り、果実とともにゼリー状のデザートを作っていたというのである。

何しろ滅法面白く、すぐにでも食べてみたくなる。食を見ることは人を見ることか。

●参照
新大久保のアイヌ料理店「ハルコロ」
行友太郎・東琢磨『フードジョッキー』
枝川コリアンタウンのトマトハウス
枝川コリアンタウンの大喜
藤田綾子『大阪「鶴橋」物語』
鶴橋でホルモン(与太話)