「蒼穹の昴」浅田次郎
全4巻の大作。
清朝末期が舞台。
西太后、李鴻章、袁世凱・・・歴史上の人物が生き生きと活躍する。
大陸を舞台に、これだけのスケールの作品は少ない。
浅田次郎さんの筆力はすばらしい。
相当な資料を読みこなして、本作に臨んだ、と思われる。
当時の雰囲気を味わえるだけでも、価値がある。
2巻P120・・・軍閥について
こうして、天津の総督府を本拠としたまま、政府の権威すら及ばぬ、国家としてのすべての機能を持った「北洋軍」は完成されたのである。自給自足のできる軍隊――すなわち「軍閥」である。
2巻P129・・・殖産産業について
「(前略)わが大清国の経済的困窮は、何も老仏爺の濫費のせいではないよ。農本主義の限界、租税の徴収と塩の専売のみで国家経済を自立させようとする考え方の限界なのだ。飢饉となれば国まで飢える。よしんば豊作が続いたとしても、それらの利益はおびただしい中間搾取を受けていたずらに地方官吏や郷紳層の私服を肥やしているのが現状であろう。(後略)」
2巻P350
甲午の役は日本と清国の戦ではなかった。李鴻章の私兵と日本との戦いだった。日本ではあの戦争を「日清戦争」と呼ぶらしいが、とんでもない。あれは「日李戦争」だった。
3巻P225
・・・香港の租借期限、1997年6月末日となった経緯が書かれている。
(読んでみて)
なお、この作品は、次の通り続く。
「珍妃の井戸」1巻
「中原の虹」4巻
「マンチュリアン・リポート」1巻
PS
本作品の素晴らしいところは、西太后の「悪女」としてのイメージを覆したこと。
私に中国近代史の知識があればもっと楽しめた、と思う。
今後の課題として残った。
【ネット上の紹介】
汝は必ずや、あまねく天下の財宝を手中に収むるであろう―中国清朝末期、貧しき糞拾いの少年・春児は、占い師の予言を通じ、科挙の試験を受ける幼なじみの兄貴分・文秀に従って都へ上った。都で袂を分かち、それぞれの志を胸に歩み始めた二人を待ち受ける宿命の覇道。万人の魂をうつべストセラー大作。