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「私たちの国で起きていること」小熊英治

2019年05月11日 21時09分50秒 | 読書(現代事情)
「私たちの国で起きていること」小熊英治

朝日新聞論壇時評(2016年4月~19年3月)、夕刊連載「思想の地層」(2014年4月~16年3月)が1冊にまとめられている。
リアルタイムで読んでいるが、改めて読み直して感心した。
様々なテーマを深く掘り下げて、情報を提供してくれ、分かりやすく説明し、考えるヒントを与えてくれている。新書にしては部厚い372ページだが退屈せず最後まで読めた。

P93
世界の風力発電設備容量は15年に原発を抜き、太陽光も原発に迫っている。発電コストも大幅に下がり、日本が原発輸出を試みている英国でも、風力の方が新型原発より4割近くも安い。

P130
米軍基地の7割が集中する沖縄だが、県民総所得に占める基地関連収入は5%にすぎない。基地返還跡地を再開発した地区では、直接経済効果が返還前の平均28倍であり、基地はむしろ発展を阻害している。国からの財政移転は都道府県中12位で、特段高くない。

P143
例えば1978年にA級戦犯を合祀した靖国神社宮司の松平永芳はこう述べた。
「現行憲法の否定はわれわれの願うところだが、その前には極東軍事裁判がある。この根源をたたいていまおうという意図のもとに、“A級戦犯”14柱を新たに祭神とした」。

P263
議員たちに問いたい。いつも黒塗りの車で移動し、地下鉄にさえ乗らず、数キロ四方の数千人の中で議論し、業界団体と後援会から民情を聞く。そんな状態で、国民の不安がわかるのか。国内の「人間の安全保障」を疎かにして、何の安保法制なのか。

P266
まず東京裁判なしには、日本国の国際復帰はありえなかった。また当時の国際情勢では、東京裁判と第9条なしに、第1条の前提である天皇の存続もありえなかった。
 そして第9条は、米軍の駐留抜きに実在したことはない。すなわち1952年までは占領が、1952年以降は日米安保条約が、米軍の駐留を正当化してきたのである。
 つまり「日本国」とは、第1条、第9条、東京裁判、日米安保の四つに立脚した体制である。これら四つは、相互に矛盾しながらも、冷戦期の国際条件では共存してきた。

P290
そもそも米軍は、日本との「防衛条約」を望んでいなかった。(中略)
つまり、日本防衛の義務がある「防衛条約」よりも、基地提供条約である「安保条約」の方が、後方基地としての活用には好都合だったのだ。
 問題を複雑にしたのは、日本政府の姿勢である。この条約に署名した吉田茂首相は、これが日本を防衛する条約ではなく、米軍に基地の自由使用を認めた条約であることを理解していた。そして同行した池田勇人に「君の経歴に傷が付くといけないので、私だけが署名する」と述べていた。しかしその後の歴代政権は、これを日本防衛のための条約だと説明した。このため、「建前」と、米軍の基地の活動の実態が、乖離することになったのだ。

【ネット上の紹介】
移民と自衛隊、社会の分断、沖縄と本土──。デモに出かけ、被災地に出かけ、隣近所に住む主婦とも日常会話する「行動する社会学者」の物の見方・思考法がわかる。朝日新聞論壇時評(2016年4月~19年3月)、夕刊連載「思想の地層」(2014年4月~16年3月)をまとめて一冊に。
1 論壇時評 2016‐2019(冷戦後30年の日本―世界の変化になぜ遅れたか
この国のかたち―タブーなき議論で再確定を
富山=北欧論争―「日本土着の改革」の可能性
閉じこもる言論―固定ファン頼み、こぼれる声
外国人との共存―ずさんで不透明な壁が阻む ほか)
2 時評 2011‐2016(被災地と向き合って―欠落した知恵と勇気
「無難」な報道機関、必要か
世界の解雇規制―ルールに透ける「社会」
揺らぐ政治秩序―20世紀の常識、不適合
連立与党の公明党―政界適応で招いた危機 ほか)