【ぼちぼちクライミング&読書】

-クライミング&読書覚書rapunzel別館-

「十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕」羽根田治

2020年11月30日 08時55分56秒 | 読書(山関係)
「十大事故から読み解く山岳遭難の傷痕」羽根田治
 
社会的にも大きなニュースになった遭難事故がある。
それを10章にまとめて検証されている。
10大事故とは、次の通り。
 
第1章 木曽駒ヶ岳の学校集団登山事故
第2章 剱澤小屋の雪崩事故
第3章 冬の富士山巨大雪崩事故
第4章 前穂東壁のナイロンザイル切断事故
第5章 谷川岳の宙吊り事故
第6章 愛知大学山岳部の大量遭難事故
第7章 西穂独標の学校登山落雷事故
第8章 立山の中高年初心者遭難事故
第9章 吾妻連峰のスキーツアー遭難事故
第10章 トムラウシ山のツアー登山遭難事故
 
 
前穂東壁のナイロンザイル切断事故(1955年1月)について
P146
若山が足を滑らせて墜落した距離は、わずか50センチほどだった。その瞬間は、衝撃も音もなかったという。たった50センチの墜落にも耐えられずザイルが呆気なく切れてしまった事実に、石岡ら岩稜会のメンバーは大きなショックを受けた。(麻ザイルからナイロンザイルへの移行期。事故を起こしたパーティは、国産8㎜ザイルを使用していたそうだ。ザイルメーカー=東洋製鋼、ナイロン原糸=東洋レーヨン。その後、11㎜が主流になったが、事故は続いた。ちなみに、私が岩を始めた80年代前半、世に出回っているザイルは外国製だった。現在も、ロープと言えば、エーデルリット、エーデルワイス、マムート、ベアールなど全て外国製だ。メーカーは編み方を工夫し、品質向上させ、径もどんどん細くなっている・・・細いと軽いけど、ビレイしにくい・・・一長一短だ)
 
P159
事故の発生から解決までに要した時間は、実に21年間にもおよぶ。その年月は、三重県にある小さな社会人山岳会が、真実を隠蔽しようとした巨大な権威(メーカー、学者、山岳団体)を相手に正義を貫き通した闘いの歴史である。
 
衝立岩正面壁雲稜第1ルート(南博人、藤芳泰)について
P170 
2人は8月15日にアタックを開始し、連続するオーバーハングや喉の渇きに苦しめられながらも、ハーケンや埋め込みボルトを駆使して次々と難所を攻略し、数度の墜落にも怯むことなく、3ビバークの末に完登を果たした。当時、誰もが"国内最難”と認め、現在は「衝立岩正面壁雲稜第1ルート」と呼ばれているのがこのルートだ。
〈衝立岩正面壁雲稜第1ルートは、岩壁登攀に新時代をもたらした画期的なものであったと同時に、我々に金も時間もない時代に、40年前のクライマーが、いかに腕をみがいて素晴らしい登攀をしていたかを、現存するルートというかたちで具体的に教えてくれる歴史的財産ではないだろうか〉(『岳人』2001年1月号より)(なお、本書で取り上げられている「谷川岳の宙吊り事故」はこのルートで起きた。ロープを切断するために、自衛隊出動、ライフル射撃が行われた・・・その顛末も書かれている。このルートは、その後フリー化、「グリズリー」と名付けられた。初登は、池田功氏、第二登は、塩田氏、と聞いている・・・純粋な難度もさることながら、マルチへの対応など総合力を必要とするので、あまり再登は出ていないようだ。以下、「日本の岩場」(菊地敏之)によると、ただし現在は岩がだいぶ浮いているうえに支点もかなり錆びついており、危険度は非常に高い。再登にあたってはそれらを充分に考慮して臨まれたい
 
西穂独標の学校登山落雷事故
P272
基本的に雷は"一雷一殺”といわれており、直撃を受けた1人だけが命を落とすか重傷を負うとされている。しかし、この事故では11人もの生徒の命が失われた。
 
トムラウシ山・ツアー登山事故について
P388
なお、トムラウシ山のツアー登山を主催したアミューズ社は、3年後2012年11月にも中国の万里の長城で気象遭難による事故を起こし(ツアー客3人が低体温症により死亡)、同年12月、観光庁から旅行業登録を取り消され、廃業に追い込まれた。
 
P391 
この事故を起こしたアミューズ社はもう存在しないが、ツアー登山は今も盛んに行われている。登山の経験の少ない初心者や、技術・体力に自信のない中高年登山者にとって、計画立案から交通機関・宿の手配、そして引率までを面倒見てくれるツアー登山は、利用価値の高い登山の1形態なのだろう。(ツアー登山は、仕事の合間を縫って効率よく登るには便利だけど、相手は自然である。メンバーの力量も様々だ。それを引率するガイドさんも大変だし、ガイド同士の連携も必要。ツアー登山は、多少天候が悪くても、決行する傾向にあるようだ・・・現地ガイドとツアー会社の利害、力関係、客の思惑が絡み合う)
 
【誤植】…ケアレスミスだ。
トレースはほどんど
   ↓
トレースはほとんど
 
【参考リンク】
 
【ネット上の紹介】
学校集団登山の事故、冬山合宿の大量遭難、中高年初心者の事故、ツアー登山の遭難事故―。時代を反映したこれらの大事故は、近代登山の黎明期から歴史に刻まれてきたものの、避けがたいものとして看過されてきた感がある。こうした遭難事故に内包された、「影」の部分に光を当てつつ再検証する。