現代中国の人気作家・余華(ユイ・ホア)の作品。
上下巻で100万部以上売れたそうだ。
「兄弟」上巻=文革篇、516ページ
「兄弟」下巻=開放経済篇、513ページ
読み応えたっぷりだ。
李蘭の連れ子=李光頭
宋凡平の連れ子=宋鋼
李蘭と宋凡平が再婚したことで、李光頭と宋鋼が義理の兄弟になる。
これにより物語が回り始める。
時代は、文化大革命から開放経済へと動いていく。
舞台は、上海からそう遠くない田舎の街。
文章に勢いのある、圧倒されるような作品だ・・・日本に、こんな作品はない。
現代中国に興味のある方、一度読んでみて。
文革の描写
上巻P115
李光頭と宋鋼は、この三角帽子をかぶった人や、木のプラカードをさげた人や、壊れた鍋の蓋を叩いている人が、みんなの言う階級の敵だということを知っていた。彼らの顔を叩いてもいいし、彼らの腹を足で蹴ってもいいし、鼻をかんで彼らの首に鼻水を流し込んでもいいし、ぶらさげているモノを取り出して彼らの体に小便をかけてもいいのだ。(文革と言うと、「残留孤児」を思い出す。あまりマスコミには出なかったと思うが、残留孤児は日本人ということで、そうとう酷い目にあったんじゃないか。だからこそ、言葉も分からない「祖国」に無理をして「帰国」しようとした。何年か経って、文革を振り返る作品がでるようになって、そう思ったし、今もそう思っている)
宋鋼と李光頭
上巻P369
上巻P369
この二人が一緒に我らが劉鎮の大通りを歩いていると、劉鎮の老人たちが指さしてこう言った。
「文官と武官だな」
劉賃の娘たちはそこまで遠慮がなく、密かに二人のことをささやきあった。
「三蔵法師と猪八戒ね」
【著者のあとがき】P514
これは二つの時代が出会って生まれた小説である。
前者は文革中の物語で、狂気じみた、本能が抑圧された痛ましい運命の時代、ヨーロッパにおける中世にあたる話である。
後者は現在の物語で、倫理が覆され、今日のヨーロッパよりはるかに極端な欲望のままに浮ついた、生きとし生けるものたちの時代の話である。西洋人が400年かけて経験してきた天と地ほどの差のあるふたつの時代を、中国人はたった40年で経験してしまった。
【参考リンク】
作家の読書道 第134回:篠田節子さんが「兄弟」を褒めている。
【ネット上の紹介】
金の便器にまたがり宇宙遊覧を夢みる現代中国の大富豪・李光頭は、かつて公衆便所で覗いた美女の尻の話でタダ飯にありつく田舎町の「尻ガキ」だった。彼には血のつながらぬ偉丈夫な父と、宋鋼という兄がいたが、文化大革命の濁流はささやかな家族の幸せも押し流していく。中国で刊行されるや大ベストセラーとなった傑作長篇小説。